勇者の力は失われた
黒岩の谷に魔気はまだ漂い、地脈は低く唸り続けていた。
雪誠は折れた木剣の前に立ち、荒い息を整えようとしていた。 勇者と竜勇者は動きを止め、表情は複雑だった。 だが——衝突は、まだ終わっていなかった。
—
残る三人の勇者が静かに迂回し、側面から奇襲を仕掛ける。 リーヴは反応が遅れ、手首を掴まれ、肩を押さえつけられた。
「雪誠!」 彼女は低く叫んだ。
雪誠が振り返り、駆け寄ろうとした瞬間—— 竜勇者の槍が横から突き出され、剣柄を阻んだ。
「動くな。」 竜勇者は冷たく言った。 「彼女は、我々の手の中だ。」
—
五人の勇者は力を合わせてリーヴを拘束し、少しずつ後退していく。 そのうちの一人が叫んだ。
「降伏しろ!さもなくば、彼女を殺す!」
雪誠は折れた剣を握りしめ、瞳は炎のように燃えていた。
「それでも、君たちは勇者か?」
その男は冷笑した。 「当然だ。お前らのような悪魔を滅ぼすのが、我々の使命だ。 お前は魔王の使徒、彼女はお前の弱点。」
—
リーヴは必死に抵抗し、怒りの声を上げる。
「あなたたちは勇者なんかじゃない!ただの臆病者よ!」
だが、その声は押さえつけられ、彼女の姿は霧の中へと引き込まれていった。
雪誠が駆け寄ろうとした瞬間、竜勇者の槍が再び彼を退ける。
「追えば、彼女を殺す。」
—
霧が渦巻き、五人はリーヴを連れて黒岩谷の境界へと消えていった。
雪誠はその場に立ち尽くし、手には半分になった木剣。 その指は白くなるほど力が込められていた。
—
その時——天光が震えた。
五人の勇者の胸に刻まれた紋章が砕け、 剣の紋が消え、鎧の輝きが失われた。
彼らは足を止め、自分の武器を見つめて震えた。
——勇者の力は、彼らの中から消えた。
—
遠くの聖殿では、勇者の石が割れ、光が別の場所へと移った。
新たな勇者が、別の地で誕生する。
彼らはもう、勇者ではなかった。 ただの——信仰を失った逃亡者。
—
雪誠は遠くを見つめ、静かに言った。
「君たちが失ったのは、力じゃない。 資格だ。」
彼は背を向け、黒岩の深淵へと歩みを進めた。




