第9話:陰陽師来訪!殿、味噌は呪術に使えます
忍者襲撃事件から数日。
村は「味噌汁最強説」で盛り上がり、子供たちは木の枝を杖に「みそしるのじゅつ!」と叫びながら走り回っていた。
……あの、ちょっと違うんだけど。
そんな折。
「陰陽師様のおなーりー!」
どこぞの都から、長い帽子と白い狩衣をまとった男がやってきた。
手には呪符、背には怪しい壺。
いかにも“いわくありげな術師”である。
―――
「ふむ……ここが“妙汁”の里か」
「妙汁じゃない!みそ!」
俺が抗議すると、陰陽師はにやりと笑った。
「小童、わかっておらぬな。その味噌なるもの……霊力を帯びておる」
「……れいりょく?」
「そうだ。発酵とは、命の循環。そこに宿る力を符に込めれば、鬼も祓える。実に尊き品よ」
お、おばちゃんたちが必死に作った保存食を……呪術アイテム扱い!?
―――
陰陽師は大樽の味噌を前にして、神妙に印を結んだ。
「南無……味噌……オン・ダイダラボッチ・ウン!」
どっかん!
樽がぶるぶる震え、味噌の表面に気泡がぼこぼこ浮かぶ。
村人たちは「ひえぇ!」と後ずさり。
「見よ!悪霊が浄化されておる!」
……いやただの発酵ガスです。
―――
「殿!この味噌、陰陽師様に差し出すのですか!?」
「ま、待て!せっかくの保存食を!」
父上が困惑する横で、俺は必死に立ち上がった。
「みそ!たべる!のむ!まもる!」
俺の必死のアピールに、陰陽師はじっと俺を見つめ……やがてにやりと笑った。
「ふむ。そなた……見込みがあるな」
え、なにこの展開。
―――
結局その夜は、陰陽師も交えて“味噌汁パーティ”になった。
術師が「味噌は霊力の源!」と熱弁しながらおかわりする様子に、村人たちは苦笑い。
「結局ただの食いしん坊じゃねぇか」
「陰陽師様も味噌汁には勝てぬか……」
俺は満足げに椀を置いた。
鉄砲でも忍術でもなく、
陰陽術すらも――味噌汁が制した。
布武丸、3歳。
味噌汁で陰陽師を籠絡した春の出来事である。




