第12話:殿、政治の算数は逃げられません
味噌玉戦法で村を守りきった数日後。
父上は俺を執務室に呼びつけた。
「布武丸。戦も飯も良いが……領主たるもの、数字を知らねばならぬ」
机に置かれたのは筆と木札。
横には厳しい顔の師範が座っている。
「今日から算術の稽古だ。逃げるなよ」
……来たか、戦国教育。
―――
師範「ではまず、米三俵を三人で分けたら、一人いくつになるか」
俺「……一俵」
師範「おぉ、正解!」
いやそんなの小学生問題だろ。
この世界、まさかの“割り算スタート”か。
―――
次の問題。
師範「では、銭五十文で野菜を十個買いました。一ついくらでしょう?」
俺「五文」
師範「おぉぉ!殿は天才だ!」
……いやこれも小学生。
なんか俺、すでに“算術神童”扱いされてない?
―――
さらに。
師範「十日で米を百合食べました。では一日で何合食べたでしょう?」
俺「十合」
師範「……っ!! 殿!まさかそこまで瞬時に答えられるとは!」
隣で父上まで感動している。
いやいやいや、これただの割り算ですから。
―――
「殿の頭脳は計算術の鬼才!」
「将来は国の財を思いのままにされるぞ!」
周囲の大人たちがざわつく。
俺は内心で冷や汗を流す。
……待て、もしかしてこの世界、分数もないんじゃ?
もし俺が三角関数とか言い出したら、魔法と間違えられるレベルでは?
―――
授業の最後。
師範「では殿……次の難題を解いていただきたい」
机に置かれたのは――そろばん。
……いや、正確には木の玉を並べただけの簡素な計算盤。
「これで掛け算を……」
掛け算。
きた。
俺は息を吸い込み、さらさらっと九九を唱えた。
「ににんがし、さんさんがきゅう、ししじゅうろく……」
シーン。
師範「……」
父上「……」
重臣たち「……」
次の瞬間――
「殿は陰陽師の化身か!?」
「数字を呪文のように唱えておられる!」
いや違う!ただの九九だから!
―――
こうして俺は、戦国算術レベルを遥かに超える“知識チート”で大人たちを震撼させた。
だが、内心では思う。
――いや、これ専門学校までやってたら余裕すぎて逆に怖いんだけど。
布武丸、4歳。
算術を“呪文”扱いされ、領内に新たな伝説を作った冬の出来事である。




