4.作家編の結末-鈴視点①-
「終わったー。後はタイトルをどうするかだけだ。『片思いだと思っていた幼なじみが、少しづつ俺に惚れる物語』ってのにするか」
「さっさと投稿したらすぐ帰る」
「おおぅ、容赦ないな。分かったよ投稿したらすぐ帰るよ」
「明日からもここで書くように。スマホで書くのは禁止とサイトで作品の感想は見ないように」
私は、釘を刺す。雄の書いた小説は凄く私好みだった。
私が横から口を出していたから当然の結果ではあるが。
「ええ!?読んでくれている人の感想は気になるだろ?」
「ダメ、感想を見てストーリーを変えようとか変な影響受けるかもしれない」
「た、確かに……。そうだな鈴の言う通りサイトは見ないようにする。そしたらまた明日な」
「うん、また明日」
手を振りながら部屋を出ていく雄を見送り、彼が階段を降りていく音を確認して急いでパソコンに向かう。
「えっと、タイトルは『俺の幼なじみが尊すぎて……ツラい』に変えて、主人公は『雄』、ヒロインを『鈴』に変える」
上げて間もない上に、初投稿だ。
どうせ変えたところで誰も何とも思わないだろう。
変更ついでにもういちど読み直す。
つい顔がニヤけてしまう。
私だけが楽しめればいいんだ。私を喜ばす為に雄にはこれからも頑張ってもらおう。
その後、一通りの事を済ませ私は早々にベッドに入った。
今日は良い夢が見れそうだ。
翌日、昨日の物語をもう一度見ようとサイトに行くと……ブックマークと評価が入っていた。
きっと、お捻り的な意味合いで優しい人が付けてくれたのだろう。
なかなか見る目のある人だ。
「良いだろう。私と一緒に続きを楽しみにする権利を与えてあげよう」
私は顔も知らない同士に、そう告げたのだった。
翌日も以降も、雄は家にやって来ては続きを書いた。
更新ペースが早い事と、内容が読み手にも受けたのだろう、ブクマと評価と感想が更新する度にどんどん増えていく。
1週間を経過した頃、日刊ランキング5位になった。
それから数日を置かずして、ランキング1位に上り詰め、私の出した条件をあっさりクリアしてしまった。
その後もランキングを落とさず、3週間後にはついに月間ランキングでも1位を獲得。
飛ぶ鳥を落とす勢いの最中、予想もしないメールが来た。
運営から……書籍化打診?
休みの日は3話更新とかもさせていたので、今の時点で単行本1冊は優に出せるストックは出来ていた。
だが、こんなにも事が上手く運んで良いのだろうか?
ここで雄が自分でも稼げる様になってしまっては私の3億円には目も向けられなくなるだろう。
それはまずい……。ここは丁重にお断りするしかない、雄の為だ……。
私は少し震える手で返事を書く。
短く、相手に誠意を伝えつつも明確に拒絶を示すには……どうしたらいいだろうか?
『貴様らの、金儲けの道具にこの作品を使わせはしない。二度と下らない打診なんてしてくるな、一昨日来やがれ!!』
「ふぅ……こんなもんで誠意は伝わるかな……」
つまらない横槍が入った。小説はここまでにして、この続きは現実世界で雄にしてもらおう。
私はそこでパソコンの電源を落とした。
しっかりとした形で世に出れば、多くの人を萌え死にさせる名作はこうしてエタる事となる。
一部のコアなファンの間でその後も伝説となったこの作品自体に、この日から2ヶ月後には作者にすら忘れられてしまうという悲哀に満ちた裏話がある事は……誰も知らない……。