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貴方のために私たちは奮闘します(前編)

3話構成です

残りの2話は、12時、16時投稿予定です。

 公都・アルハの西はずれにあるその公園において、公園内の木陰で2人の少女が座り、片方の少女は編み物を、もう片方の少女は本を読んでいた。

その少女たちはいろいろな意味で目を引く2人であった。


 例えば、その美しさとか――

 例えば、その機知とか――

 例えば、その仕草とか――


 挙げだしたらきりがないのだが、最も彼女たちが目を引く理由は――


「あの左側の少女って確かフィリッパ派筆頭公爵・アンリミ公の娘だよな」

「ああ、右側はシャルル派の筆頭公爵のグロリアス公の娘のはずだ」


 そう、それぞれがリューバルト大公国に存在する2大派閥――フィリッパ派とシャルル派――の筆頭である家の生まれなのだ。


 200年前に北帝国から独立したものの、独立当時からのかの国と国境の紛争が発生しており、それに端を発する国内の分裂。

 青き海の民である血を引く初代アンリミ公爵シャルル。彼は、その紛争地帯に強固な砦の建設と共に内陸部にはあまり必要のないと思われた海軍の設立を主張。

 それに対して、リンデン山岳民族の子孫であり熊のような体格を持った初代グロリアス公爵フィリッパ。彼は、紛争地帯に砦を築く前に、兵士の訓練施設の建設と陸軍の増強を主張。

 結果。2家のこの対立はほかの貴族を巻き込み、簡単にほどけないところまで拗れきっていたのだ。


ねえ、オルガ、と青き海の民の象徴である紺色の髪であり青い瞳を持つジゼル・アンリミは、隣にいた碧眼の少女に声をかけた。

「なあに、ジゼルお姉さま」

 隣の深緑色の髪で碧眼の少女――オルガ・グロリアスは読んでいた本から目を上げ、ジゼルに返した。その仕草に1つ上のジゼルは、実の妹にするみたいにオルガの頭を軽く撫でた。

 むろん彼女たちは実の姉妹ではない。ましてや、独立当時からの仇敵の2家の娘同士である。

「私たちは、これからどこへ嫁ぐでしょうね」

 ジゼルは編み物に没頭してはいたが、周りから好奇の視線が注がれていることに気づいていた。

「私たちはあのお茶会で意気投合してから、このように何度も会っているわ。だけれど――」

「そうですわね、お姉さま。私たちは家のために嫁がなければならない身ですものね」

 オルガは姉と慕うジゼルの言葉をつづけた。

「その通りよ」

 オルガはジゼルから喋り掛けられたので、本を読む気がなくなった、という感じで片づけ始めた。ジゼルはそんな彼女の態度を見ても驚かず、むしろ、

「そろそろお迎えが来るわね」

 と、互いの事情を素早く理解した。

「はい。また、明後日お会いできたら、と思います」

 2人は迎えの馬車が来る前に別れた。



 そしてその晩、互いの家では2人にとっては想像もつかない会話がなされていた。


「ジゼル」

 ジゼルは叔父であり、早くに亡くなった父の弟のアルノーに養女として入っており、その養父から呼び出しを受けたため、彼の書斎に来ていた。

「何でしょう」

 彼女は外では人懐っこく笑顔を振りまくことが多く、その笑顔に惹かれる人が多いものの、厳格な家の中では、特に養父があまり表情を出すことを良しとせず、表情を出さないようにしていた。

「君には次期大公に嫁いでもらうことにした」

 彼は手元の書類から目を上げずにそう言った。

「次期大公ですか?」

 現大公・マルクは確か50歳だ。早くに子をなさずに正妃を亡くされたと聞く。しかも、その正妃はシャルル派の娘ではないはずだ。

「まだ、マルク殿下はお若いので、彼の方に嫁ぐべきではないのですか?」

 ジゼルは首をかしげた。その発言に、アルノーはようやく書類から目を離した。

「お前は敏いな、女にしておくのがもったいないくらいだ」

「それはどうも」

 養父のその言葉は慣れているので、照れも赤くもならなかった。

「ふん、反応が薄いな、可愛げのない」

 ジゼルのその反応に何が不満なんだろう、と考えていると、まあよい、と彼は続けた。

「マルク殿下は今病に侵されていて、もう長くはないだろう、というのが医者の見立てだ」

アルノーは再び書類に目を落とした。

「次期大公ならば、後継を作るのにも(・・・・・・・・)十分健康であられるから、そちらの方に嫁いで子供をさっさと作れっていう事ですわね」

 ジゼルはアルノーの言葉から考えられる展開を述べた。

本来ならば、受け継ぐべき子供がいないときは、2親等以内の親族が受け継ぐはずだが、兄弟姉妹全て昨年の流行病によって亡くしているため、今大公位の継承権を持つのは6つ下の従弟、ジルのみだった。そして、彼は軍人でかなりの健康体だ。

「やはりお前は捨て置くのはもったいないな」

「先に小父様に捨てられたのですよ」

 ジゼルは彼の子供より年上だ。しかし、すでに彼らは結婚して、長男以外はこの家にいない。ジゼルは端から捨て置かれたような気分を味わっていたのだ。

「生意気な」

 アルノーは表情を読み取らせないように下を向き、書類にサインをしていた。

「だからと言って、私が素直にその命令に従うとは思いませんことを覚悟してくださいませね」

 ジゼルは今までにないくらい強い光を蓄えた目でアルノーを見て、彼の部屋を去って行った。


「なかなかやるな、ジゼル」

 アルノーはジゼルが去って行った部屋で、一人彼女の成長を喜んで(・・・)いた。

「あなたの娘はあなた方によく似てきましたよ、兄上、義姉上」

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