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世忌花娘  作者: 仲渡 温紀


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はじまり

伝恵と誠生はまたもや、夢を見た。

真っ白な空に、

黒茶色の大地。


十二単を着た低い声の女が、伝恵と誠生へと語りかけた。


「油断するでないぞ。わらわが消えたとて、此の世には不浄が溢れておる。

わらわの呪詛よりも遥かに悍ましきものが大地を腐らせ、海を穢しておる。

気をつけよ。此の世は呪詛が呪詛を喰らいあう、『蟲毒』の世よ。

生きると啖呵を切ったのなら、あらゆる地獄を覚悟せよ。

わらわの呪詛は消える。もはやそなたらに、慈悲の刀は与えられぬ。

最後に、そなたらによいものを見せてやる。」


光の粒とともに、

美純と優一が現れた。

しかしその顔は、

暗くて見えない。


「くくく…顔を見たかろう?声を聞きたかろう?

…ふはははははッ!誰が見せてやるものか!

見せてやらぬわ聞かせてやらぬわ!。

わらわに向かって『生きる』と啖呵を切ったのじゃ。

恋しき我が子の顔がいかなるものか、

そなたらの人生を掛けて探すがよい!」


そして女は声を和らげ、こう言った。


「そなたらの子は、わらわが極楽浄土へと送ってやる。

わらわも、浄土に用があるのでな…。

そなたらはせいぜい、呪詛の大地で苦しむがよい!」


「清彦さま…」


…………


同じ夢を見た伝恵と誠生は、ふたりして目覚めた。

そしてまるで決まっているように、縁側に出た。


血痕も彼岸花も、

無くなっている。

それが何を意味するのかは、

もはや語る必要もないだろう。

それを見た、

ふたりの心境についても。


茶を啜りながら、佇むふたり。

しばしの、心地良い沈黙。


そして誠生が、沈黙を破った。


「僕は、これから会社に戻ろうと思います。まだまだ僕には、出来る事が沢山あります。」

「ええ、それがよろしいかと。紙で救われる人生も、沢山ありましょう。」

「まだ、心の整理がついたわけではありません。

ですが、いつか僕自身が筆を執って、本を創ります。

この一連の出来事を、後世へと残すことができるように。」

「私もね、ハッキリと、やりたいな、挑戦してみたいなと思う事が、できましたの。

ふふふ…それが何だか、おわかりになる?

私はね…孤児院を、つくろうと思いますの。

この世の中には、沢山の美純や優一さんがいます。

美純も優一さんも、愛を知っていたからこそ苦しんでいました。

しかし世の中には、愛を知らない子供達が沢山います。

だからその子達に教えます。

怒りと安らぎを。

悲しみと喜びを。

憎しみと愛を。

絶望と希望を。

そして、『幸せ』を。

美純の事も、優一さんの事も、私はまだふっきれたわけではありません。

だけどね、ひとつ、私の中で確信した事があります。

幸せに生きようとするその貪欲さこそ、『幸せ』と言うのです。

それを今の私なら、いろんな子供達に教えられるのではないか、と思うの。

蒲公英の綿毛が飛んで、そして新たな花を咲かせるように、

私の幸せが子供達の幸せとなり、そしてその子供達が、大勢の人を幸せにする…。

そのような世界が実現するよう、私なりに尽力したいと思いますの。

美純や優一を教師として、そして反面教師として。

もちろん、幸せな事ばかりではないでしょう。

ひょっとしたら、新たな不幸の幕開けかもしれません。

だけど私は、それをしたくてたまらないのです。

幸せが幸せを産み、此の世の呪詛を『浄化』する、そのような連鎖。

私の存在が、せめてその引き金になれたらな、と思うのです。」

「…伝恵さん。あなたは、恋はいくつになってもできる、そう仰いましたね。

僕は、あなたに恋をしました。それは、慈与の面影でも、優一の面影でもない。

あなたの言葉が、哲学が、魂が、僕を惹きつけてやまないのです。」

「ふふふ…。閉経したオバサンですけど、よろしいの?」

「あなたは意地悪な人だな…。

恋に歳は関係ないと言ったのは、あなたじゃないか。」

「あら?そうだったかしら?そうね…。

歳をとっても、手を握ることはできるし、

抱擁を交わすことはできるし、

接吻をすることはできるし、

もし歳が追い付かなくても、裸で抱き合う事はできますし…。

もちろん、それらをしなくたって、恋は恋ですものね。」

「ははは、やだなあ。

そんな事を言われると、

頑張らなくちゃ…って、年甲斐もなく思ってしまいますよ。」

「ふふふ、そのつもりで言いましたのよ。

だって青春は、若い人達だけの特権ではないもの。

…まあ、世間の言う常識だとかそんなものには捉われず、

私達だけの『恋』を、育んでいきましょう。』

「はい…。名残惜しいけれど、僕は会社へ行きます。

やるべきことが、沢山ありますから。それでは、失礼します。」


「はい、いってらっしゃいませ…。」


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