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身辺を清めてから出直してくださいませ  作者: ミナソコミナモ
本編

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24/31

24)王家の事情:気づいたらとっくの昔に内定していた後継者

 結局のところ、エグバートは初子に王位継承することにこだわりなどなかったということだ。そもそも自身が第四王子だったのだから、当然と言えば当然だろう。


 ブラッドリーがそのことに気づいたのは、留学中のことだった。

 王太子は侯爵の後ろ盾がある兄がなるものだろうと思っていた当時のブラッドリーは、留学先で羽を伸ばしてそれなりに遊んでやろうと画策していたのだ。もちろん経歴に傷が残るような大それたことをするつもりなどなかったが、乳兄弟たちがやっていたような小さなやんちゃは大目に見てもらえるだろうとたかを括っていた。


 が、いざ留学してみれば、どうにも護衛という名の監視がきつい。

 小さなことからもっと些細なことまで、教育係がやけにうるさい。

 友人関係にまでとやかく口を出された日には「理屈と証拠を提示しろ」と盛大にキレもしたが、ほどなく本当に提出された分厚い調査書類を前に頭を抱える羽目になった。


 第二王子の交友関係が隅々まで調べつくされている。

 友人自身の素行から、家の経済状況、所属派閥や組織の内情と趨勢、親の人品に至るまで詳細に。


 ……第二王子にこれだけの労力を割く、ということは。

 第二王子を立太子する可能性は、継承権の数字よりも高いということ。

 第二王子って誰だ、あっ俺だ、とわかりきっていることに頭を抱えたブラッドリーであった。


 結局そつなく留学期間を終えて、腹の底では警戒心MAXで帰国してみれば案の定、兄は使い物にならないでくのぼうと化していた。

 あの母に育てられればそりゃそうなる、と、ようやくここでブラッドリーも思い知ったのである。

 祖父である侯爵が辣腕宰相のお墨付きをやたら喧伝していたが、宰相本人に詳細を掘って訊ねてみたところ、どうやら六歳の頃にたまたまちょこっと褒めたのを誇張しているだけらしい。……よっぽど称賛から遠い日常を送っているようだ。


 こうなればもう、ブラッドリーも認めざるを得ない。

 父は最初から、兄に王位を継がせる気などさらさらなかったのだ。

 あの母に教育されながらも奇跡的に気骨や才覚を示せばまた違ったのかもしれないが、まあ低い確率だ。現実は当初見込まれた通りの展開になっているのだろう。


 三人の乳母と年々増える乳兄弟に囲まれのびのび育ちながらも、一級品の教師にも囲まれ厳しく諸々を仕込まれ躾けられたのは、つまりはそういうことだったのだ。

 父の頭の中での後継者候補は、ブラッドリーが大本命、チャールズがスペア、兄は……たぶん有力な姻戚貴族の数人よりも下のスペアだ。


 今は亡き王兄たちのあまりにもあんまりな死に様に端を発した諸々の流れは、蓋然的にブラッドリーを次代の王に据えるという結論に収束しつつあるのである。


 気づいてしまえばそれなりに立ち振る舞うしかなかった。

 野心があるわけでもなし、王位を継ぐなど面倒だという気持ちはあるが、たぶんブラッドリーが継がなかったらもっと面倒なことになる。それも国家単位で。

 王族としての覚悟と自尊心もそれなりに培ってきた。もともと兄を本命に据えた場合のスペアのつもりではいたのだから、単純に役目を果たす時が来たというだけの話である。

 自分には国政を担う才覚があるということも、客観的に認識していた。たぶん父に似たのだ。

 留学中に予感して、より学問に身が入ったのも、今思えば僥倖だった。いや、結局これも父のたなごころの上だったということかもしれない。


 そして、王位を継承するとほぼ内定したからには、近いうちに伴侶探しが必要となることも見えていた。

 実際、帰国後からそれとなくせっつかれることは少なくなかった。まだ地盤固めが先決だと受け流しつつも、考えあぐねてはいたのだ。

 留学前も留学中も留学後も、羽目をはずすような機会はなかった。それなりの人数の貴族の令嬢と対面したことはあるが、誰かにピンときたこともない。どうやら父と同じく、そちらの方面も淡白なたちらしかった。


 父と同じように政略でいいんじゃないかと思いつつも、ちらつくのは兄の境遇だ。

 やるからには徹底的に飼い殺す父のやり方は間違っていない。だがやはり犠牲は出ている。


 それに、母のような浅はかな女を妻として隣に置くというのには、どうしても抵抗があった。

 女は馬鹿なくらいが男の自尊心を満たすという者もいるが、他者との比較という相対的な自尊心でなんとか立っていられるような王というのもなかなか情けない。


 隣に立つなら、責任感のある女性がいい。

 隣に並んで、ちゃんと会話のできる人がいい。

 多少生意気でも……いや、生意気なぐらいでちょうどいいのかもしれない、王妃となる女などというものは。母も、その点だけは王妃らしい威厳があった。


 そんなふうにぼんやりと将来のことを描き始めた頃。

 ブラッドリーは、『彼女』と出会った。


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