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賢者の叡智なコレクション  作者: 永頼水ロキ
第二章 賢者の写本
25/85

11-2 ニト

「新人さんはまず簡単な依頼からこなしてね。無理しちゃだめよ」

「見た目と中身がずいぶん違うのだな、親切にありがとう」

「あら!ふふふ、よく言われるわ」


 鳳凰のニトなんて呼ばれている。

 体が大きく、その割に素早く動ける。そして、いわゆるお姉系の大男。見た目と中身の違いに驚かれることは初めての相手であれば常のこと。

 私は後ろに背負っていた巨大な斧を触って確かめた。それから、普段より地味な見た目の防具も確かめて、付いていたゴミをはらった。


「この辺でのおすすめの依頼は、初級ダンジョンのキッコロ森での薬草採取よ。間違ってもエルダー聖域なんて入っちゃだめよ」

「うむ。分かった」


 エマは素直に頷いてくれたが、ジャックの方はこちらを見向きもしなかった。


「じゃあね」

「ちょっと待ってほしい」

「え?なあに?」

「村が襲われていたのだが、その救援依頼は出ないのだろうか」

「……それ、どういうこと?」


 エマ達によると近隣の村で襲撃があり、その報告をしたのに依頼ボードにいつまで待っていても救援に関する依頼が張り出されず。


「普通、領主がそういった問題をギルドから報告されたら、街の予算で支援依頼を冒険者に出すものではないのか?それともルールが変わったのだろうか」

「…いいえ、それが普通でしょうね。でもね、残念ながらこの街は普通じゃないのよ」


 他の街や領であればそうでしょう。


「それで、村が襲われている場にいたの?」

「うむ。それを一緒にいた聖印の虎のメンバーといっしょに助けたのだ」


 聖印の虎?!

 むせかけて咳払いした。


「…そうだったのね。それで村人は?」

「とりあえず我らが到着した時点で無事だった者たちは助けることができた。ただ、村の家が燃やされていたりしていたから、復旧の支援は必要だろう」

「それはよかったわ。ありがとうね。見た目より強いのね」

「それから連中は盗賊団ニークレドを名乗っていたが、どうやら嘘をついていたらしい。この街のベリン――」


 私はとっさにエマの口をふさいだ。幸いだったのは、それほど大きな声でやり取りしていたわけではなく、また近くに他の誰もいなかったこと。


「あなた、襲撃者を尋問でもしたの?」

「そうだ」

「まさかそのままギルドに報告してないわよね」

「うむ。村が襲われ、それを助けたことのみ報告した」


 ほっと胸をなでおろした。


「この街のこと、ちゃんと把握している?」

「ある程度は。だが、詳しくは知らない」


 …この子…。


「そう。ずいぶんと面倒ごとに首を突っ込みたいタイプのようね」

「そうではなく、女神の敵を許せないだけだ」


 この世界で最も信者の多い宗教は女神信仰だ。

 かつて人に知識を与えたとされる女神。そして、知識と運命を司るとされていたため、冒険者の間ではこの女神を信じている者が少なくない。

 女神の敵とは、女神が定めた規律のうち禁忌を犯した者を指す言葉だ。殺人、強奪、強姦、誘拐は女神の敵とされている。


「それで、この街が普通ではないのはわかったが、ギルドまでそうなのだろうか」

「……何とも言えないわね。普通の定義にもよるでしょ?」

「確かに」


 この子達、もしかしたら――


「女神の信徒の新人さん。そうしたら…あたしと一緒に来てみる?」

「………そうだな。ここで様子を見ているより、詳しい者についていってみるのも良いかもしれない」


 それからエマ達を連れてギルド会館を出て、真っ直ぐ教会に向かった。

 私の勘が、この場で他の誰かから情報を集めることよりも、まずこの子たちを味方につけることの方が重要だと、そう囁いていたから。


「教会か、久しぶりだな」

「え?敬虔な信者かと思っていたのに」

「ああ、そうか。女神の敵が許せないのは嘘ではないが、私は女神信仰の信者ではない」

「あら、そうなの?」


 教会の奥、特別に使わせてもらっている部屋に案内した。

 そこは地下の倉庫だった部屋で、音漏れすることがない。そのうえ、魔法陣を壁面全てに配備して防音効果をもたらしている場所だった。


「それじゃあ、改めて。あたしはニト。暁の旅団のリーダーで、ニーグレトのリーダーでもあるわ」

「……ふむ、そうか」

「やっぱり驚かないのね。どこで知ったのか聞いてもいいかしら」

「いや、今名乗られて初めて知った」

「本当に?だって……そうなの?」

「嘘は言えない。途中で、ニーグレトに関わりあるのでは、とは思っていた」


 エマによると、私がニーグレトの関係者かどうかは知らなかった。私がエマに声をかけてきたため、反応をうかがっていたらしい。

 ニーグレトや男爵の話を出してどう反応するのか。そして、その反応から、私がニーグレト側の人間と推察して付いてきたということだった。


「そのリーダーにすぐさま会えるとは意外だった」

「そうだったの。でも、どうしてあたし達を探していたの?もしかして、仲間になりたいとか」

「仲間か。半分そうだが、それより目的のためだ」


 目的、それはガイウス男爵の横暴を止めること。そのために、男爵と敵対し、人々のために活動していると思しきニーグレトと接触したかったという。


「義賊というニーグレトを支援することで、目的の近道になると考えたのだ」

「…あなた達はどこから来たの?何者なの?」

「……さて。私にもわからない」


 そう言いながら、エマは仮面を外した。

 かつてあらゆる魔法式の根幹を作り出したとされた伝説の存在。滅亡したはずの闇の一族、ダークエルフの顔がその仮面の裏から現れた。

*****

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