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賢者の叡智なコレクション  作者: 永頼水ロキ
第二章 賢者の写本
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10-3 元賢者エマ

 後のことはジャックに任せ、馬車の方に戻った。

 少しずつ、村人が馬車の方に逃げてきていた。それを聖印の虎が四方に散会した状態で守っていた。


「――村の中は?」

「今、私が召喚した悪魔で略奪者を排除しているところだ」

「あんた、冒険者だった頃からそんなにとんでもない強さだったのか?」

「……ダンジョンボスになったことでずいぶんと力が強くなったようだ」

「その割には……魔法は使えなかったんだよな?」

「……」


 ダンジョンボスになる以前から、賢者としておそらく人類最強の一角だった。当時は「勇者」と呼ばれる存在が他にいて、彼と比べて私はわずかに力が劣る程度だったと記憶している。

 そして今、彼と対峙したなら圧勝できる、そんな気がする。あるいは、女神にさえ……。


「ん。どうやら、村を蹂躙していた者たちはすべて排除できたらしい」


 死体奴隷の神通力を解除した。ジャックも召喚を解いて異界に帰ってもらう。


「それにしてもこれほどの規模でこんな小さい村を襲って…こいつら何が目的だったんだ?」


 リックがそう言いながら傍に転がっていた略奪者の一人の死体を蹴った。


「聞き出せた範囲では、ベリンガム男爵に雇われた者達だったようだ」

「なぜ、男爵が自分の民を襲わせるのですか?!」


 マリーの驚きはもっともだろう、私もその点はよくわからなかった。


「どうやら、『ニーグレト』という盗賊団にこの騒動の罪を着せたかった、ということらしい。だが、それでどういう結果を狙っていたのかは分からなかった」

「ニーグレト?」

「知っているのか?」

「義賊のような連中だったと思う」


 ミカエルが続ける。


「ベリンガム男爵はこの辺の街を治めている貴族だ。それからニーグレトは貧民街を中心に活動している盗賊団。男爵の資産を盗んでは孤児に施しをしている連中だったはずだ」

「私たちはエルダー聖域に潜るためにこの地にやってきたよそ者です。よそ者として外から見る限りはニーグレトは街の人達に人気があるように思います」

「ああ。それからその逆にベリンガムは糞みたいな人気だ」

「その人気に嫉妬した男爵の暴走ってことか?」


 キッドのその答えは正しいのかもしれない。が、その割にはコストが掛かりすぎている気がした。


「事情は結局わからないままだが、いずれにしても男爵を放っておくと、またこういう事態が起こされかねない。貴族の不正をただすのは貴族の役目だろう……この領地は男爵の治める領ということだが、その上はいないのかね?」

「正確にはこの辺の村や街を治めているだけで、領地は侯爵のものだったはずだぜ」

「リーバイト侯爵の領地の一部の集落をベリンガム男爵が治めているのです」


 なるほど。それであれば、この事実を侯爵に知らせて裁かせるのが適切な対応か。


「そういえば、ベリンガムも冒険者の出自だったような」

「あいつのおじいさんとか?確か、ダンジョン産出品で一山当てて成り上がった一家だった」

「なあ、村人たちは救えたし、そろそろ出発しないか?」


 確かにこれ以上ここにいる意味はない。

 村人たちに見送られつつ、私たちは戦車形態から元に戻ったミリーの引く馬車に乗り込んだ。


 ほとんど揺れることのない馬車を走らせていると、ようやくギルドのある街が見えてきた。

 そういえば、封印されてからで考えるなら、ものすごく久しぶりに街にやってきたわけだ。


「あそこにギルドがあるから、まずは俺たちの報告に付き合ってくれ」

「だけどさ、俺たちの話を信じてもらえるかな。なぜか門番たちは納得していたが」

「詳しく説明するほど納得を得られない話ですよね」

「その点は問題なかろう。とりあえずは」

「え?それはどういう――」

「それから、男爵の件を片付けたい」


 女神との約束事とは別として、男爵の暴虐は放っておけない。


「あー、だがなあ……結局証拠がないぜ?エマが男爵の仕業だという話を聞いたってだけで。どちらかといえば連中はニーグレトを名乗っていたわけだし、常識的には領民を貴族が傷付ける道理もない」


 証拠、か。


「それこそ、『賢者の写本』があれば証明できたかもしれないが……そういえば、エマは何であれを消し去ったんだ?」

「……」


 賢者の写本は「賢者が残した叡智を与える書籍である」という。叡智を与えるという文言から、現在は、「過去・現在・未来の出来事について知りたい情報を知れる魔法の本」として認知されているらしい。

 この賢者の秘宝に関する情報は、私のかつての弟子の一人、サディアス・ソーンが残した書物「賢者大全」に基づくということだった。


「他の証拠は得られないだろうか。ああいったことをするような者であれば、他にも非道なことをしているのではないか?」

「あるかも?でも、どこを探すつもりなんだ。っていうか、それは冒険者の仕事じゃないだろ?」


 確かに。冒険者の仕事ではない。だが、賢者の仕事ではある。目の前の「悪」を見逃すことはできない。


「そうであった。私一人で進めることとするから、ギルドへの報告の後は別れよう」


 少しばつの悪そうなキッドと、そして他の三人も無言だった。そして、それ以上踏み込んでくることはなく、ギルドへの報告と私の冒険者登録の後は別れることとなったのだった。

*****

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