第127話 夜の森の中の闇
銅鑼村はパンゲア大陸の四大国の一つ、マホロバ国に属している。マホロバ国は大陸の北部に位置しており、武津薙がこれから向かおうとしている都市国家メレリンクアティスはさらに北東の方角に向かった所にあった。
メレリンクアティスは五百年を超える歴史ある国家である。古くから魔法を研究し、生活に役立つ魔法技術を開発して他国にそれを供与することで利益を得ていた。隕石のクレーター跡の巨大な窪地に出来た湖のそばに都市が建設されていた。
銅鑼村を出て十日経ち、その間に武津薙は夜雀と遭遇し、熊と睨み合い、化け狸に襲われた。
長い距離を歩くため、軽装でありたかったが、武津薙は手甲、胸当て、脛当てを眠る時も外さなかった。夜は火を焚き続けた。
武津薙は仰向けにごろんと横になり、夜空を眺めた。木々の隙間からわずかに見える星は、脆くなった武津薙の心を解析するかの様に煌めいていた。
風が吹き、ザワザワという音が辺りを覆った。その音の中に闇が潜み、四方八方から無数の暗い腕がこちらに伸びてくる錯覚を武津薙に感じさせた。
その時、鋭い殺気を感じた武津薙は身を翻した。刹那、それまで彼が横になっていた位置に亀裂が走った。咄嗟に反応していなければ致命傷を負っていたところだ。
武津薙は素早く短刀を抜き、殺気を放つ方向に目を凝らした。しかし、逆方向の背後に寒気を感じた。振り向き様にしゃがんで、放たれた二撃目を躱し、同時に短刀を振り払った。一瞬、獣の姿が見えた。手ごたえはあったが、浅い感覚だった。
武津薙を襲った獣は態勢を崩して地面を転がり、樹に衝突した。間をおかず、武津薙は獣に馬乗りになり、首を抑えた。
それは鎌鼬だった。そうと分かると、鎌型となっている尾の付け根を抑え無力化した。
命を狙われた恐怖心から、全身から汗が噴き出した。前方を見ると、一撃目を放った別の一匹が歯を剥き出しにし、尾をこちらに向けて、睨んでいた。兄弟か、夫婦か、親子か、二匹の間柄は知れなかったが、家族がいると分かっている者の命を、今の武津薙が奪えるはずもなかった。
抑え込んでいた鎌鼬の頭をバシッと強めにはたいて、グッと身体を掴み、もう一匹の方へ放り投げた。宙を舞い、地面を転がった鎌鼬はなんとかヨロヨロと起きて、二匹は森の闇へと消えて行った。




