表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dear World  作者: 山波 孝麻
第2章 赤の女王と漆黒の魔女
126/252

第126話 息子の夢を叶えるために

 一年後、武津薙(たけつち)の妻、兎厨芽(うずめ)は夫に訴えた。


「本当に行くの?」


武津薙(たけつち)は目を真っ赤にして、込み上げてくるものを押し止めて答えた。


大和(やまと)の事故は俺の責任だ。あの子はよく言っていた。俺よりも大きな体になって、俺よりも強くなって、家族を守るんだと。くったくのない笑顔で宣言していた。」


武津薙(たけつち)兎厨芽(うずめ)の目をしっかりと見て、自分の気持ちを妻に伝えた。


「俺が、大和(やまと)の夢を(かな)えるんだ。」



 気迫(きはく)とは裏腹に、武津薙(たけつち)の心は弱りきっていた。可愛い息子を想う(たび)に、武津薙(たけつち)の精神は消耗していった。まるで、自分自身の一部が欠損していくような感覚だった。


心は無防備となり、ささいな出来事のほんのわずかな刺激に絶え切れず、涙が流れた。とても自分らしさを保つことはできなかった。一本の細い糸でかろうじて(つな)がり、しかし、いつそれがぷつんと千切れてしまうか分からなかった。


武津薙(たけつち)は、自分が大和(やまと)の父親ではなく、それでも大和(やまと)の魂がこの世界に生まれてきてくれていたなら、他の誰かが大和(やまと)の父親であった方が息子は幸せだったのかもしれないと思ってしまっていた。


大和(やまと)の父親であるという現実が彼を前へ前へと押していたが、それは、前へ進むことが出来るという状態ではなく、前へ押し出されていくという感覚であった。


一方で、衰弱していく心の中で、強く、大きくなっていく感情があった。愛しい息子、大切な息子、可愛い息子、その想いは日増しに強固となった。



 太陽が二上(にじょう)の山の向こう側に隠れている時刻に彼は旅立った。朝霧(あさぎり)がひやりと肌をさらった。どこか遠くの方で、名も分からない鳥がキーキーと鳴いていた。旅に出るにはあまりに(さび)しい朝だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ