カフェ事件最終話
「……彼がここに来たのは二時から三時の間か?」
……YES……
「イエスだ。つまり彼は学生の線が強い。あの女生徒と同じ学校の生徒……だと予想できる。しかし、制服を着ていなかったのだろう、彼がカフェに来ても木々は学生かどうかわからなかった。」
「ここまでわかればっ……あれ?肝心の彼の潔白が証明できないっす……。」
「いける。……その男はよくこのカフェに来るか?」
ニッパーに強いまなざしで頷いたツマはさらに質問を重ねる。
……YES……
「彼はいつも私服で来るか?」
……YES……
「やはりいつも私服でカフェに来ている。では……お庭の席はよく利用するか?」
「!」
ツマの質問にニッパーは何か閃いたような顔を向けた。
ツマは黙ってうなずく。
……YES……
「イエス。彼はそのお庭の席でよく勉強をしているか?」
……YES……
「イエスだ。ふむ。この試験期間中、もっとも勉強しなければならない時期にいつもの席とは違う席にいるのは妙だな。ニッパーくん。」
ツマは調子が出てきたのかどこぞの探偵の物まねをしている。
「妙っすね。ツマ探偵!」
ニッパーの方は完全にキャラが安定していない。
「よし、逆に考えよう。木々は先程、『店が混んでいたか?』という質問に対して答えられなかった。だが、答えはけっこう簡単に出る。……質問はこうだ。あそこのお庭の席は満席だったか?」
ツマは真剣な眼差しで木々に問いかけた。ニッパーが息を飲む。
しばらくして木々から
……YES……
の答えが出た。
「イエスだ。ではもう一つ、ここの人気の席はお庭の席か?」
……YES……
「イエス。決まった。つまり、このカフェは一般のカフェとは違う混雑状況である。店内の席から埋まるのではなく、人気の外の席から埋まるのだ。つまり、現在は試験期間中であり、一般客もいる。店は混雑していたんだろう。外の席が満席だったことから彼は店内に陣取る他なかった。」
「な、なるほどっす!」
「それではまだ潔白は証明できない。さらに推理することがある。」
ツマはワクワクしているニッパーを見つめながら人差し指を立てた。
「それは……?」
「彼が勉強していたかどうか。」
「……ん?」
ニッパーが首を傾げた。それを見ながらツマは続ける。
「彼が勉強していたなら女生徒は浮気だと思わないと思う。つまり、教科書を広げる前に彼女が来た。彼は制服のままカフェに行かない人っぽいから着替えている時間を合わせると三時に近かったんだと思う。もうわかったかな?ニッパーくん。」
ツマは表情には出ていないがどこか誇らしげに言った。
「わからないっすよ……。」
ニッパーはさらに頭を抱えた。
「ふむ。では説明しよう。つまりあれだ。『相席よろしいでしょうか?』ニコニコ。女、『ええ、どうぞ。』ニコニコ。って事。」
「!?」
「そう。彼はすでに店内にいた女に優しくほほ笑んで相席を頼み、女も優しくほほ笑みながら承諾。それをちょうど来た彼女に見られていた。彼女は彼が楽しそうに女と話していると思い込み、怒りに行った。そのまま彼女は状況を確認せずに泣きながらか知らないが男を罵り出て行った。というわけ。まあ、彼はポカンとしたと思う。」
ツマはすがすがしい顔で伸びをした。
「なるほどっす……。やっぱりツマ探偵はすごいっす!」
ニッパーが感動をあらわにし、その場で飛び跳ねていると勉強中の女子生徒が再び声を上げた。
「そういえばさ、彼から連絡あったの?」
女生徒の内のひとりが思い出したように尋ねた。
「うん。あったんだけど……全部出なかった。メールも見てない。」
「メール見なよ。勘違いかもしれないのに。」
女生徒の一人がクスクスと笑っている。
「だって頭きたんだもん。」
「じゃあ、ほんとは黙っているつもりだったけど、しょうがないから教えてあげるよ。昨日、あんたが怒鳴り込んできた時、あたし、後ろの席にいてね。あの時、めっちゃ混んでたじゃん?彼、後から来て席を探してたわけ。で、もうそろそろ席を立ちそうな女の人を見つけたの。そんで相席を頼んだの。ただそんだけ。彼からしたらあんたはわけわかんない女だよね。」
女生徒の一人は心底楽しそうに笑っていた。この子はもしかするととても性格が悪いのかもしれない。
もう一人の被害者女生徒は目を見開いて驚いていた。そしてスマホを落としそうになるくらいの慌てぶりで彼に電話をかけていた。
電話をかけている最中に突然、例の彼が現れた。時刻は二時五十分。服装はダウンコートに下はよくあるズボンを履いていた。制服から着替えてきたようだ。被害者女生徒は驚いて再びスマホを落としそうになっていた。
「当たった。これが私の推理です。犯人はあなたの心にいる。バーン!」
ツマはどこかの小説を真似たのか独特のセリフを言い、満足そうに頷いた。その後、どこかのドラマかのBGMを歌いだし、かっこよく演出を始めた。
「か、かっこいい……っす。」
ニッパーは勝手に盛り上がりツマに向かって拍手をしていた。
解いた内容はたいしてないが彼女達にはそれはどうでもいいことだった。
「ニッパーくん。君はコーヒー派かね?紅茶派かね?」
「え?えっと自分はコーヒー派っすね。香りが好きっす。ええ。」
「君はコーヒー派か……私は紅茶派。ダージリンが一番好きだ。」
ツマはもう一度カフェの看板を見つめた。ニッパーもならって看板を仰ぐ。
「ダージリンコーヒー……なんだかよく見るとわけわからんカフェ名っすね。」
「……うむ。では行こうかニッパーくん。ちゃ~らら~らら~ちゃ、ちゃら、ちゃ、ちゃら、ちゃ、ららららら~」
「はいっす!ら~らら~。なんか色々混ざりすぎて何の探偵を演出しているのかわからないっすけど……。」
ツマとニッパーはどこかの洋ドラの探偵のように颯爽と歩き出した。
快晴の澄んだ空気の中、今ここにアホな探偵と助手が誕生した。




