表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お花屋さん ー春ー  作者: ニケ
11/21

レンギョウ ~希望~

旅館の朝御飯が美味しい。味を感じられることがこんなに幸せだとは思わなかった。西森は一つ一つの料理を口に入れてじっくりと味わった。隣で速水がのんびりとご飯を食べている。いつもと変わらない様子に先程の告白は嘘のようで少し不安になる。いつの間にか西森は速水をじっと見ていたらしい。速水が訝しげに視線を向けた。目が合うと急に恥ずかしくなる。ご飯を食べた後も一緒にいるだろう。どうしようかとまた緊張してきた。



「今日は休むんだってな。疲れてたか。お前、変だったし。それがいい」



そういえば正宗が明日の花籠を作ると言っていた。本当に休んでもいいのだろうか。不安になって箸を止めていると頭に温かいものが触れて優しく撫でてくれる。速水の手だとわかっているが西森は恥ずかしくて動けなかった。届かぬ想いが辛くて速水の優しさが辛かったが、思わぬ奇跡が起きた。速水は本当に自分のことを好きなのだろうか。今までと態度は変わらないし、まだ信じられなくて確かめてみたい気もする。なぜだろう。想いが叶ったのに怖い。これが自分の勘違いだったら。。不安が大きくなってそっと隣の速水を盗み見る。心配しているようで西森の様子を見守っている。その目は温かくて穏やかで、自分を優しく包み込んでいるような。頭を撫でる手も労るように優しくて心地よい。つい目を閉じてしまいたくなる。こんなに大切に撫でられたのはいつだっただろう。祖母に抱き締めてもらった時のことを思い出した。慈しみとはこういうものを言うのだろうか。思わず身を委ねたくなる。



「ゆっくり休めよ。俺は仕事があるから」



え?と西森は顔を向けた。そばにいることができると思っていたのに。もう終わってしまうのか。あれほど速水と一緒にいて何をしようか戸惑っていたが、行ってしまうとわかったらこんなにも寂しい。行かないでほしくて西森は速水の腕を掴んだ。無意識だった。



「そんな悲しい顔をするなよ。参ったな。。仕事なんだ。そばにいたいけど、仕方がない。でも、お前がここで休むって聞いて安心した」



寂しそうな顔に速水は苦笑する。素直なのか意地っ張りなのか。相変わらずよくわからない。笑いながら西森の頬を優しく撫でた。外に出るとまた大変だが頼まれた仕事がある。今日も都会へと荷物を運ばなくてはならない。力と体力のある比較的若い従業員は速水ともう一人の同僚だけだった。稼ぎ時という訳ではないが、この旅館が人気を呼び配達する回数が増えた。まだ寂しそうな西森を励ますように笑う。



「き、気をつけて。。あの。。明日は来るんですか?。。おにぎり、ちゃんと作って持ってきてるんです」



どたばたと正宗に連れられてここにやって来たから自転車の後ろの箱に入れてある。それを聞いた速水が驚いた後嬉しそうに笑った。律儀だな。また頭を撫でられる。嬉しいけれど照れる。温かいものが溢れてきて咄嗟に無表情を装った。



「貰っていく。お前はちゃんと休めよ。またな」



食べ終えた朝御飯のお盆を持って部屋から去っていった。撫でられた頭に触れて急に溢れてきた寂しさを誤魔化す。寂しい。そばにいれば緊張して落ち着かないのに、居なくなればこんなにも寂しい。想いが届いたのに、また別の苦しさが溢れてきて参ってしまう。恋とはこんなにも苦しいものだっただろうか。



「これまで好きになった人はいたけど、こんなに苦しかったっけ?もっと軽くて楽しかったのに」



社会人になっても恋をした。それなりに苦しく切ない想いを経験したが、今の速水への想いとは全く違う。あの時は理性でどうにかできた。抑えようと思えば抑えられたし、切なさを感じても気が狂いそうなほどではなかった。感情が心から溢れてきても冷静な自分がいた。それなのに。速水への想いは違う。感情という感情が溢れてきて止まらない。隠したくても隠せない。抗おうにも大きな感情の波に溺れてしまう。何もかも見えなくなって苦しくて。自分が自分でなくなったように激しくて心がずきりと痛い。それと同じくらいに優しくて温かい。どうしようもないのだ。



「会いたい。。なんだよ、これ。しっかりしろよ!俺!!」



速水のことで頭も心も気づけば一杯になる。悔しい。自分は花屋だ。何かに捕らわれるなら、花のことを四六時中考えていたい。客のことを考えながら心を込めて花籠を作る。自分の本懐だ。



「なんで休めなんて言うんだよ。。そりゃあ。。正宗さんの言葉だから。。休んだ方がいいんだろうけど。。」



速水だけに言われたのなら無理矢理花籠を作るために泊まることを拒否するが、ずっと自分を見ている正宗から休めと言われてしまった。休むしかない。釈然としない思いを抱えながら西森は残りの朝御飯を食べた。



花籠作りにいつもは没頭している。急に休めと言われてもやることがなかった。手持ちぶさたにテレビをつけてみるが落ち着かない。西森はため息をついた。明日の花籠を作りたい。正宗はどんな花籠を作るのだろう。速水は無事に旅館から出られたのだろうか。辛めに味付けしたおかかは美味しかっただろうか。体を動かさないと頭はどんどんよく回って暴走し出した。



「はあ。。そうだ。温泉に入ろう!!体もちょっとほぐして疲れさせて。。休んでるんだから、休みらしく満喫するんだ」



部屋にある浴衣と帯を確認する。タオルもある。ついでに旅館の売店でお泊まりセットでも買ってこよう。財布と風呂用の荷物を持って大浴場に向かった。ご飯は御馳走になっているものの、温泉は初めてだ。わくわくしながら服を脱いだ。西森の他に客はなく、温泉の白く温かい湯気がたっている。さっそく体を洗ってまずは源泉のお風呂に入った。ほどよいお湯加減で備え付けの電子パネルには37℃と表示されている。気持ちよくて大きな息が出た。このまま眠ってしまいそうだ。



「ふう。。大きいお風呂なんて何年ぶりだろ。。足を伸ばしても向こう側に全然届かないや。当たり前か。なんか嬉しいな」



開放感のある高い天井から風呂はすべて檜だった。檜の優しい匂いとお湯の絶妙な湯加減。体がゆったりとしてきて心も解きほぐされていく。朝御飯の美味しさとこの温泉。晩御飯も食べたことがあるので紹介されればすぐ人気になるだろう。



「速水さんって客寄せパンダだったかもね。あはは!」



昨日は女性客と一緒に写真を撮っていた場面を見て落ち込んでいたのに、現金なものだ。ゆったりとくつろいでいると悩んでいたことが馬鹿馬鹿しくなる。明日、速水に会ったら言ってみようか。どんな顔をするのだろう。速水への恋心で散々悩んで苦しんだのだ。憎まれ口でも叩いてみたい。急に会いたくなって明日が楽しみになった。



温泉を堪能して体を拭き浴衣を羽織る。濡れた髪を乾かしていると鼻がもぞもぞとくすぐったい。少し寒気がする。風邪を引きそうだと早めに乾かして部屋への道を歩いた。旅館では客が次々と到着していて女将や仲居が対応に追われている。邪魔にならないように早足で部屋へと戻ろうとした。



「大丈夫です。これくらい、自分でできますから」



車椅子に乗った女が手伝おうとした仲居の手を払いのける。その動作があまりにも冷たくて西森は思わず立ち止まった。後ろから来ていた両親が慌てて仲居に謝っている。車椅子の女は面倒臭そうに車椅子を動かして女将に泊まる部屋を聞いている。姿から見て高校生くらいか。女将も車椅子を後ろから押そうとしたが拒否されていた。両親から注意を受けても聞いていないようだ。



「。。。」



西森は何も言えずその場から立ち去った。旅館にはいろんな客が来るのだなと今更ながら思う。事前にどんな客かわかれば一人一人の顔を思い浮かべて花籠を作るが、事情を知られたくない客もいるだろう。その人のためを思う花籠もいいが、何も聞かず言わずただそばにそっと寄り添うような花籠も作っていたい。旅館に来る客は様々だから。西森は部屋へと足を速めた。



部屋に着いてほっと一息つく。先程の車椅子の女が気になるが関わらない方がいいだろう。女将や仲居たちの仕事の邪魔はしたくなかった。



「休ませてもらってるんだもんな。。布団敷いて寝るか?」



温泉に入って体が解れたからか、心地よい睡魔がやってきた。そういえば速水のことでこの頃ぐっすりと眠れなかった気がする。いい機会だ。眠れる時に眠ろう。西森は押し入れから布団を取り出し畳の上に敷いた。寝床を完成させてごろりと寝転がる。干されていた布団から太陽の匂いがする。気持ちがいい。するりと布団の中に入れば体が動かなくなる。眠い。西森はそのまま目を閉じてやってきた睡魔に身を委せた。



トントンと軽やかな音に西森は目が覚める。ゆっくりと寝返りをうって目を擦るとまた同じ音が聞こえた。扉の方からだ。女将が様子を見に来たのかもしれない。出てきたあくびを噛み殺して体を起こす。扉を開けると視線の先には誰もいない。不思議に思って瞬きを繰り返した。



「あ、あの。。」



か細い声に顔を動かして探す。下を見ると車椅子の女が遠慮しがちに西森を見上げていた。旅館の入り口での、あの冷たさはない。不安そうな怯えた目で西森の様子を伺っていた。急にすみません。。消え去りそうな声だ。西森は慌てて声をかける。寝ていたのでしょう?という女にもう起きたからと大きく笑った。



「どうしたの?とりあえず部屋に入るかい?」



高校生の女の子を男である自分がいる部屋に誘うのはいいのだろうかと頭を過ったが、車椅子の女が寂しそうな不安そうな顔をしているので放ってはおけなかった。両親と来ていたのにわざわざ西森に会いに来たのだ。聞かれたくないこともあるだろう。一応、両親には伝えた方がいいと思うので了解を得ようと聞いてみた。



「大丈夫です。女将さんにあなたのことを教えてもらったから。。女将さんが両親にも伝えてくれるって」



俺に?それなら大丈夫だが、なぜ自分に会いにきたのだろう。釈然としないまま車椅子の女を招き入れる。客間はすべてバリアフリーだがこの部屋は整えられていない。段差があるので車椅子から降りてもらった。急須に茶を入れてお湯を注ぐ。茶の優しい匂いに心が落ち着く。女に湯飲みを渡すと西森は茶を啜った。急にごめんなさい。震えるような声で西森に話しかけた。



「あの。。部屋にあった花籠。。とても可愛らしくて素敵でした。。強く心が惹かれて。。どんな人が作ったのか会ってみたかったんです」



真っ直ぐで綺麗な目だ。静かで意志の強い声に西森はありがとうと笑って答えた。花籠を想ってくれている。とても嬉しい。だが、今日の花籠は正宗から無理をしていると言われたものだ。素直に喜べなかった。申し訳なさそうに西森は伝える。



「あの花籠ね。。正宗さんから無理をしてるって言われたんだよ。大切な気持ちを隠しているって。だから今日はお休みを貰ってるんだ。明日の花籠は正宗さんが作るって」



折角喜んでくれたのに、ごめんね。謝る西森に女は慌てたようにそんなことありません!!と否定した。


「無理をしているかもしれないけど、私はとても惹かれたんです。小さな花籠だけど一生懸命咲いてて。。でも、きっと今日の花籠じゃなかったら、私、こんなに心が熱くならなかったかも。。」



何かを思い出したように笑っている。事情がありそうだ。西森はそっと女を見守った。女は落ち着きながらゆっくりとした口調で話し出した。



「私、バレーが大好きで。今通ってる高校、バレーの強豪校なんです。上手い同級生が多くて。。私も必死で練習してたんですけど。。才能がなくて」



レギュラー落ちしました。力なく笑い唇を噛んでいる。本当に悔しかったのだなと思った。



「どんなに練習してもだめだったから、せめてレギュラーを支えたいってドリンクやタオルとか。準備することを率先してやってたんです。大好きなバレーのためにできることはこれくらいだから」



大会に出たい気持ちをレギュラーに託して懸命に支えていたのだなと西森は思う。凄いな。。呟いた西森に女は笑って首を振っていた。でも次の瞬間急に顔が暗くなってしまった。どうしたのだろうと心配になる。言いにくそうに女は口を開いた。



「でも。。私、怪我しちゃって。車椅子の生活になったんです。苦しかったけど、今まで一緒に頑張ってきた仲間にちゃんと気持ちを伝えたくて。みんなの前で伝えました。バレーを辞めることを」



すっきりしたんですけど。。女は思い出したくないのか、下を向いてしまった。西森は心配になってそっと寄り添う。励ますように肩を撫でると顔が少し明るくなる。



「どうしても部活の様子が気になって行ってみたんです。私がいなくなって大丈夫かなって。ドリンクやタオルとか。誰がしてくれてるのかなって」



話していた女が急に口をつぐんだ。悔しそうに唇を噛みながら何かを堪えている。目から涙がぽろぽろと落ちて止まらない。肩も震えて苦しそうだ。西森はなるべく優しく何度も繰り返し撫でた。



「先輩や仲間が言ってたんです。怪我したのが私でよかったねって。レギュラーや期待の新人じゃなくてよかったって。ドリンクやタオルの準備なら誰でもできるからって」



ひどい。。弱々しく呟いた。涙がどんどん溢れて嗚咽しながら激しく泣いている。ずっと抑えてきたのかもしれない。泣くに泣けず、悔しくて悲しくて。怪我をして車椅子の生活になって大好きなバレーもできなくなった。それでも辛いのに、仲間だと思っていた人達から悲しい言葉を言われたのだ。辛い。思わず西森は女を抱き締めた。思いっきり泣いてほしい。止まらない涙を胸にしっかりと受け止めた。



「私。。悔しかったんです。。悔しかった。。」



女が泣き止むまで西森はずっと震える背中を優しく撫でていた。



「ごめんなさい。恥ずかしい所見られちゃった」



ひとしきり泣いた後、女は悪戯っ子のように笑って西森から離れる。大きく頷く西森に、スッキリしましたと笑っている。高校生らしい無邪気な笑顔だ。女の話を聞いていた時から考えていたことを西森は提案してみた。



「ねえ。花籠作ってみない?近くに秘密の花畑があるんだよ。一緒に行こう」



きょとんとする女に西森は優しく笑って立ち上がった。部屋の窓の方へ指を差しあそこだと伝える。女はわくわくとした顔でぜひ!と大きな声で答えた。善は急げだ。西森は女をおんぶしようと背中を向けてしゃがむ。驚いたように笑った後、嬉しそうに覆い被さった。



部屋の入り口にある車椅子に一旦女を乗せると後ろから押して移動する。旅館から出る途中で女将に会った。驚いたように見つめる女将に、花籠を作りに行ってきますと伝えると嬉しそうに笑って見送ってくれる。両親にも伝えてくれるだろう。女と笑い合って秘密の花畑へと急いだ。自転車から花摘用の籠を持ってきていよいよ花を摘む。女は楽しそうに微笑んだ。



「凄い!!凄い!!何処までもお花畑!!」



ピンクの芝桜の中にシロツメグサの白い花と緑の葉が溢れている。オレンジや黄色の花も混じっているようだ。いつものように手を合わせて息を大きく吐いた。女に教えると嬉しそうに笑って同じように感謝の気持ちを伝える。早速好きな花を摘んでいく。嬉しそうな生き生きとした表情が印象的で西森もとても嬉しくなった。



「この花!この黄色の花ってなんて言うんですか?とっても惹かれちゃって。。すごくそばにいてほしいんです」



ああ、と西森は思う。花にはやっぱり心があって、この花は会いに来てほしかったのだなと感じた。



「それはレンギョウだよ。花言葉は希望。ふふふ。希望がやってくるんだね。ぴったりだ」



今のこの笑顔は何物にも代えがたい希望そのものだろう。驚いたように見つめた後、ずっと咲くことを恐れていた花が大きく穏やかに咲き誇ったように女は屈託なく笑った。



「これ。。大切にします。。私、あれから怖くなって。。でも、レンギョウの花籠は希望の証だから。頑張ります」



両親にも見せなくちゃ。楽しそうに笑う女がとても可愛い。車椅子を押して旅館へと戻りながら西森は女が話す希望溢れる未来の物語をわくわくしながら聞いていた。


皆様、こんにちは(*^^*)いかがお過ごしでしょうか?

ラーメンを作ったんです。。そして一緒に飲もうとアクエリアスをコップに注いだのです。何も考え事とかしてないのに、ネギをアクエリアスに入れるというね。。この。。ラーメンに入れたかったのですよ!!何でしょうこの。。とてつもない敗北感。。アクエリアスにネギは合いませんでしたー!

ではでは皆様、これからも素敵な時間をお過ごしくださいね(*^^*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ