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お花屋さん ー春ー  作者: ニケ
10/21

ムスカリ ~寛大な愛~2




朝になり目覚ましを止める。今日は軽やかなピアノと鳥のさえずりで爽やかな音楽だった。昨日思いっきり泣いたせいか、心がスッキリとしていて体が軽い。そうか。我慢せずに泣けばよかった。速水への想いを吹っ切るためにもそれが一番いい。自分の恋い焦がれる気持ちから逃げず認めてしまえばいい。どうせ伝えることのない想いだ。祖母の前で吐き出して仕事に打ち込もう。西森はさっそく花籠作りに取りかかった。



自分の気持ちに踏ん切りがついた。叶うかもしれないと思ったから辛かったのだ。伝えることはないのだと初めから諦めていたら傷つくことも慌てることもない。こんな簡単なことに気づかなかったなんて!出来た花籠を丁寧に箱へと入れると自転車に乗り旅館へと向かった。春の強い風が西森を吹き付ける。時々止まって足を踏ん張り、また旅館へ向かう。強くてどうしようもない想いが溢れてきてもそれを隠し通してやる。届かない想いを胸に秘めるんだ。風に負けないようにペダルをこいだ。



「うーむ。。。」



正宗に花籠を見せると顔をしかめられた。どうしたのだろう。いつも通り集中して作ったのに。新しい場所に咲いていた花たちを引き立てるように作って客のことを考えながら心を込めた。正宗は西森の目をじっと見てくる。真剣で真っ直ぐな目が怖くなって目を逸らした。正宗はそのままじっと見つめている。



「お前。。無理をしておるな。。この頃、お客様が急に増えたし、雅也も世話になったからのう。。そうじゃ!待っとれ!」



忙しいはずの正宗がぽんぽんと優しく西森の肩を叩く。旅館の奥へと行ってしまった。帰ることも出来ず呆然と見送る。西森は正宗の言葉が胸に突き刺さる。無理をしているのだろうか、自分は。届かないとわかっている想いを、傷つくと決まっている想いを隠すことがそんなにいけないことなのか。正宗に嘘や誤魔化しはきかない。隠しているのはこの速水への気持ちだ。結果がわかっているのだ。諦めて何が悪い。逃げているわけでもなく認めているじゃないか!辛くてもちゃんと恋をしていると認めたのだ。西森は悔しくて苦しくて視界が歪んでいくのを必死で耐えた。正宗がゆっくりと戻ってきて西森を呼んでいる。旅館の奥へと上がれと手招きしていた。



「今日はゆっくり休みなさい。温泉も入っていいからの。明日の花籠はわしが作る。気にせずのんびりとな」



え?正宗さん、作れるんですか!?西森が思ったのはまずそれだった。部屋へと案内してにこにこ笑って去っていく正宗の後ろ姿を見送りながら心の中で激しく突っ込んだ。亡くなった祖母と友人だったし花の指導を受けていたのかもしれない。正宗の作る花籠がとても気になるが部屋に通されたこともとても驚いた。泊まっていいと言ってくれたがゆっくりと休む気にもなれない。速水に会うかもしれない旅館から距離を置きたかった。正宗に花籠を見せた時、西森の心がすぐに伝わったのだろう。力が抜けてふらふらとへたりこむ。明日から自分は正直に花籠を作れるだろうか。



呆然と座っていた西森に足音が聞こえてくる。部屋の前で止まり扉が開いた。きっと女将か仲居が朝御飯を持ってきてくれたのだと思いそのまま動かずにいる。入ってきた人物の方を向いた瞬間、心がドキドキとうるさい。体も沸騰したのかと思うほど熱くなった。



「よう。お疲れ。旅館の前、大変だったな」



雑誌って恐ろしい。。西森に声をかけると二人分の食事を机の上に置いている。部屋にある湯飲みを取りだし急須に茶を入れていた。速水がいる。呆然と見つめる西森を気にせずお茶を煎れて渡してくる。受け取ったのを見るとゆっくり啜っていた。速水が大きく息を吐く。状況がまつかめずぼんやりとしてまだ動けずにいた。西森?速水がそっと近づいてくる。怖くなって後ずさる。速水から逃れたかったのに、なぜ目の前にいるのか。西森は混乱していた。



諦めようと決めた心が苦しくなって溢れてくる。この苦しみに慣れるまで距離を置こうと思っていたのに。逃げる西森を速水は顔をしかめながら追い掛けてくる。止めてほしい。逃げるように立ち上がった。渡された湯飲みが手から零れて落ちていく。熱いお茶が西森の服にかかってしまった。速水は驚いたように強く腕を引っ張る。思わぬ力に西森がよろけた。



「何してるんだ!火傷するだろ!!」



濡れた服を強引に脱がそうとする速水に西森は激しく抵抗した。こっちに来るな!叫びながら速水の腕を振り払おうとする。しかしいくら暴れてもびくともしない。強い力で腕を掴まれていた。



「ああ!!もう!!お前は子供か!!何がなんだかわからないやつだな!!とにかくこの服を脱げって!!」



力の限り抵抗したのにあっさりと服を脱がされる。悔しい。悔しくて涙が出る。男としても人としても何一つ敵わない。その上自分は届かない恋をしているのだ。速水の知らない所で苦しくて悲しい想いをしている。それなのに目の前の人物は簡単に自分を翻弄しながら優しい。憎らしいほど優しい。



「大丈夫だから!!離してくださいよ!!自分で、できますから!!」



暴れておいてそれか!?呆れたような大きい声が聞こえたが、今は聞きたくない。乱暴に脱いだ服を取り上げて西森は速水を睨んだ。速水がより顔をしかめ苦しそうな顔をする。しばらく睨み合った後、速水は大きなため息をついた。西森の心がちくりと痛む。呆れられたかな。。不安と恐怖で心が震えた。速水はゆっくりとその場に座って零れたお茶をおしぼりで拭いている。西森は心の痛みが大きくてその姿をぼんやりと見守っていた。不意に速水が顔を上げる。びくっと体が震えた。



「ほら。突っ立ってないで、こっちにこい。腹減ってるだろ?朝飯、頂こうぜ」



いつもの穏やかで優しい目。意地悪な光はない。温かい光が溢れている。西森は急に泣きたくなった。速水に導かれるように机の前に座って朝御飯を食べる。味はよくわからないが温かい。急に目の前が霞んできた。誤魔化そうと何度も瞬きをしたのに。止まってくれない。ぽろぽろと滴が落ちていく。しゃくるように鼻から息を何度も吸ったから隣の速水には気づかれているだろう。それでも涙は止まってはくれなかった。めんどくさいやつだと思われた。勝手に癇癪を起こして勝手に舞い上がって。恋をすると馬鹿みたいに迷惑なことばかりやってしまう。男しか愛せないとしてもこんな面倒な自分なんて誰もが呆れて見切りをつけるだろう。その方がいい。子供のように泣いている西森に速水は何も言わずそばでご飯を食べていた。そっと頭を撫でてくる。温かくて優しい感触に西森は居たたまれない気持ちになる。優しさが辛い。でも振り切ることはできない。頭を撫でながら速水は西森を見つめていた。



「俺、お前のことが好きなんだ。だから、そう拒絶されると悲しくなる。諦めるつもりはないから、頭だけでも撫でさせてくれよ」



え。。?今、速水はなんて言った?悲しすぎて幻聴でも聞こえたのだろうか。驚いて涙が止まり速水を見つめる。穏やかで優しい目とぶつかった。速水が、気持ち悪いか?とかすかに微笑んだ。



「お前が好きなんだよ。西森。だから、拒絶しないでくれ。そばで泣かれる方が断然いい」



何でもないことのように言う速水をじっと見る。嘘?いや、本当?何もかも忘れて自分の頬を強く引っ張る。痛い!!あまりの痛さに西森は頭を動かした。速水は笑っている。朝飯食え。短く言った後、朝御飯を食べている。西森は慌てて速水に問い詰めた。



「え!?お、俺のこと、す、好き?冗談!!だって。。でも、俺、男だし!あ、でも。。」



きっと気の迷いかもしれない。学生の時にこんな人もいた。片想いをしていた先輩に告白し、好きだと言われ舞い上がった。付き合って時が経って、勘違いだと伝えられた時、ショックよりもやっぱりという思いが強かった。友情の延長のようなもの。恋ではない。西森は淡く笑いながら速水に言う。速水もきっとその先輩と同じだ。乾いた笑いが口を歪ませる。心が痛い。



「速水さん。。気のせいですよ。。きっと近くに同世代が俺しかいないから。。あと、女性ほど気を使わないから居心地がいいだけです。そのうち素敵な人が現れたら、勘違いだったとわかります。速水さんの気持ちも女性に向きますよ」



振られた時に先輩から言われた言葉。友情の延長。やっぱり女性が好きだ。きっと速水もそうなる。刺すような胸の痛みに構わずご飯を無理矢理口の中に入れた。味なんてわからない。諦めたように笑う西森を速水は穏やかに笑っている。楽しそうに、バーカ、と呟いた。急に西森の胸の辺りに指を差してきた。何度もそこを突きながらはっきりと告げた。



「俺はお前のここに惚れてんの。ここだよ、ここ。お前の心に。心底。わかるか?」



また呆然と固まっている西森を速水は悪戯っ子のように笑って頭を強く撫で回した。楽しそうに笑って西森を見つめている。どうしてそんなに楽しげなんだ。辛くないのか。聞きたいことは頭からどんどん出てくるのに言葉を発することはできない。か細い息がかろうじて出ていくだけだった。



「お前はさ。そうやってたくさん泣いて、笑って。固まって怖がって、暴れて。ごちゃごちゃしてればいいんだよ。俺がそばにいたいだけだから」



だから、ちゃんと朝飯味わって食べろよ。穏やかで優しい目。少し意地悪な光を帯びた目。西森の大好きな速水の目だ。止まっていたはずの涙が堰を切ったように溢れて目の前の速水の顔が歪んでいく。ああ、夢ならば覚めないでほしい。現実ならば。自分は死んでもいいかもしれない。思い浮かんだ考えに自分は本当に速水が好きなんだなぁと感じた。



お前、味わってなかっただろ。悪戯っぽく笑う速水に、ちゃんと味はわかります!とせめてもの抵抗をして春の山菜を口の中に入れる。食べても全く味がしなかったのに、今食べるととても美味しくて。思わずほっこりしてしまった西森を、速水は、切り替え早いなぁとぼやきながら嬉しそうに笑った。


皆様、こんにちは~。終わりました~。貼り付け。長かったなぁ。。ご飯を食べていなくてお腹が空きました。いつもの如くラーメンフィーバーです。うふ!

ではでは、皆様、これからも素敵な時間をお過ごしくださいね(*^^*)

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