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だんたりおん  作者: 左猫右雛
第一幕
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31/31

第二十六席【クリスマス】

 新江ノ島水族館――神奈川県は湘南江ノ島に位置し、世界初となるシラスの常設展示がされているほか、皇室の海洋生物研究なども展示されている。

 特にクラゲ展示には力を入れており、クラゲファンタジーホールという名前の通り、幻想と神秘を感じられる半ドーム型の空間は圧巻。なかでも、中央に位置する球体水槽は必見だ。

 また、カマイルカの『クロス』と『セブン』は国内最高齢のイルカである。

 案内ボードそっちのけで、玉縄先輩は全て説明してくれた。

 暗闇のなか、壁に浮かぶ無数の水槽。向こうの光は、いかなる世界のお披露目か。僕らは二人で、異世界通ずる(みち)をゆく。

「あの、玉縄先輩は……よく来るんですか、ここ」

「ううん全然」

「え?」

「入館料バカにならないしねぇ。そんなしょっちゅうは来れないって」

「あ、まぁ確かに……でも、結構ここのこと知っていますよね」

「ふふっ、動画配信とかSNSチェックしてるからね。生き物の紹介とかミニ知識みたいなのアップされてて、けっこー学べるの」

「ああ……そういうことですか」

「おっ! ねーズッキーきてきて! チンアナゴーッ」

「チンアナゴ、これが……」

 ヒョロ長い。聞いたことはあったけど実物は初めてだった。さてもまったく、なぜアナゴなのだろう。

「あーっかわいー、いいなぁー」

「この名前、どういう意味なんですかね」

「む、よくぞ聞いてくれたっ! はいじゃー質問でーす。チンアナゴのチンの由来は次のうちどーれだ?

 薄い。白い。犬。細い」

 犬だけなんかジャンル違う。

「ええと……じゃあ、犬?」

「えっ……なんで?」

「え。分かりませんけど」

「えーもーズッキーつまらーん。あたりー」

「す、すみません。なんとなく、それだけジャンル違ったから意味があるのかなって……」

「あはは、たしかに。あーあ、ほかも動物にしとけば良かったかー。

 チンっていう犬がいるんだってさぁ。色とかが似てるからそれが由来らしいよー? チンなんて犬いるのか本当にって思って調べたら、ほんとにいるし、すごい似てんの! 見てほらこれぇ」

 白黒の模様はまぁ確かにチンアナゴのような色使い。懐っこそうな顔の犬は、(ちん)という犬種らしい。

「初めて見たかもしれません、この犬」

「日本原産の物静かな犬らしいよ。ズッキーみたいだよねー。あ、ズッキーは犬派?」

「ええと……嫌いじゃないですけど、噛まれたことがあって苦手ではあります」

「なるほどねトラウマってやつか。あたしは中学生のときシカに噛まれたから、若干シカのトラウマだ! シカトラウマ、動物揃った!」

「それは、修学旅行ですか?」

「そーう! 奈良の公園でさぁ、鹿せんべいと一緒にあたしも食べられそうになって、もーわんさかくるから怖いし、あとヨダレで臭いし! 誰も助けてくんないんだよ? あんとき本当にに怖ったのにさぁ、みんな笑ってんの! 酷いよね今でも覚えてるわぁ……」

「それは災難でしたね。

 あの……玉縄先輩、どうして海の生き物が好きなんですか?」

「んー。好きーっていうか、どちらかというと水族館の雰囲気が好きってのがあるかも。別世界にいる気持ちになるから、動物園とかより没頭できるみたいな?

 でもクラゲとかチンアナゴとか、あと深海魚とか好きなの多いけどね。

 ズッキーは、さっきまで見たやつなら何が一番好き?」

「えっ、と。僕は……」

 一番と言われ、見てきた生き物たちを脳内で比較し始める僕は、酷い顔になっていたようだ。

「あらら、ズッキー? 考えすぎてお顔死んでるぞー?」

「あ……すみ、ません」

「ははっ、そんな真面目じゃなくっても、ポンって浮かんだのでいーよ、どんなの浮かぶー?」

「それなら……チンアナゴ、ですかね」

「えほんと? どーして? チンアナゴかーわいーよねぇッ!」

「砂の中にカラダ半分うずめて、探り探りな感じに……勝手に親近感がわいたといいますか」

「あはは、ズッキーそんなふうに考えてたんだ、おもしろ。あたしはあのフォルムが好きかなぁ。他にないスマートな感じ、目もチャーミングで可愛いし!」

「ほんとに、チンアナゴ好きなんですね」

「好きー! さてじゃー、お次もまだまだ楽しめるとこあるしね。今日は目一杯楽しんでこーっ!」

 相模湾ゾーンを抜けてクラゲファンタジーホール、太平洋ゾーンやペンギンを見てからウミガメに出会い、イルカショーへと参加。

 終わってみれば、ちょうど十四時を回っていたので僕らはオーシャンカフェへ向かう。遅めの昼ごはんだ。

 食事が出来るお店はいくつかある。あわたんカフェ、オーシャンカフェ、スタジアムカフェ、オーシャンバーだ。僕らは、オーシャンカフェを選んだ。

 しかし、これは苦渋の選択。席についた玉縄先輩は、本当に悔しそうにしていた。

「あーん、あわたんカフェも行きたかったあぁ……っくう」

 あわたんというのはマスコットキャラ。あわたんカフェは、そのキャラで装飾された店内が可愛らしく、メニューもあわたんコラボが豊富にあって、丼モノや麺類などまともな昼食が食べられる。

 一方でオーシャンカフェは、いわば軽食レストランだ。ホットドックとかナゲット、パンなどがある感じ。それでも、海の生き物をモチーフにした可愛いものが、メニューにたくさんラインナップしている。

 ちなみに、あわたんカフェだとドリンクを入れる場合、最低でも2000円を超える。オーシャンカフェの場合、そのほぼ半額……つまり、財布事情でこちらになった。

 僕と玉縄先輩は二人で、シラスドックを。飲み物は、玉縄先輩はキーホルダー付きブルーカルピスを注文していたので、僕も雰囲気につられてそれを頼んだのだった。

 キーホルダーはランダム。僕はクラゲ、玉縄先輩はカワウソだった。

「クラゲーっ! いーなー」

「……要りますか?」

「えなんで、いーの?」

「僕はこだわりないですし」

「やったー、じゃー交換っこね。はいこれ」

「良いんですか?」

「タダより怖いものは無いよズッキー。いいから交換! ズッキーも持っておいてねカワウソ」

「あ、はい……」

「実はねぇ、私もうこれで三回目なの。三度目のカワウソ。不思議よねぇー、クラゲ当たれーってなるといつもカワウソで、またお前かって。なんこれ、物欲センサーかあ?

 でも良かったよ。誰かと一緒に来れば、交換も出来るんだもんね。もっと早くそうしておけば良かったなぁ」

 僕の手に渡されるカワウソは、仲良く二匹が身を寄せ合っているデザイン。

 玉縄先輩は今まで、誰かと来たことが無いのか。だとすれば、僕が初……!?

「ズッキー?」

「え、あっはい?」

「シラスめちゃこぼれてる」

「あっうわ……すみません、ありがとうございます」

 テーブルを拭こうとする玉縄先輩の手と僕の手が触れる。

「っ……!」

「よしこれでオッケー。良かったね、ほとんど手にこぼれただけでぇ」

「はい……えとあの、玉縄先輩は目当てのグッズがあるんでしたっけ」

「うん! カメロンパンぬいぐるみくじっ!

 このあとオッターショップってとこに行くんだけど、そういうくじが引けるとこあるんだ」

 カメロンパンとは、カメの形をしたメロンパンで名物らしい。ここでも販売されている。その、ぬいぐるみか。

「へえ……いくらなんですか?」

「一回1100円」

 思ったより高い。安易に引けないレベルだ。

「それ、ぬいぐるみが当たるんですよね?」

「そー、ぬいぐるみだけのくじ! 大きさが違うんだよ。一等がおっきーやつで、こんなんなの! 見たら驚くぜズッキー。ハズレなしだから、三等でもこんくらいのはもらえるみたい。良いよねぇハズレなし!」

 ここで僕は思った。ハズレなしということは、引いた分だけぬいぐるみの数が増える。それも同じものが。玉縄先輩……何回引くんだろうか。大丈夫だろうか。ちゃんと分かってるのかな……と、人知れず心配した。

 それから売り場に向かった僕は、その大きさに驚くことに。なんと一等の大きさは、僕の身長の約半分。どうやって持って帰るんだろうと思わなくもない。

 玉縄先輩は三回挑戦した。しかし、結果は振るわずいずれも三等。23センチの小ぶりなカメだ。

 一等が欲しかったわけだし、さぞ残念がるのだろうと思っていた。ところが、そうしてやり終えた玉縄先輩は、僕にこんなことを言ってくる。

「ごめんねーズッキー、はい」

 カメを一つ、手渡された。

「え……?」

「一等当てようと思って、占いのラッキーアイテムも持ってきたのになぁ、白いハンカチ。お母さんから借りたやつ」

「僕に……どうしてそんな。なんで、当てようとしてくれたんですか」

 亀が好きというわけでもないのに。

「おっきーやつあげたかったんだよ、元気出るかなぁって思って。

 定期会ですごい落ち込んでたじゃん。そのあとも、すごい悩んでそうだったからさぁ。

 あたし、ゆっさんたちみたいに教え方上手くないし、気付いて先回りのフォローすることも、あんまできないタイプだから。せめてこんくらいはってね、へへっ」

「僕を励ますために連れてきてくれた……ていうことですか」

「気分転換になればと思ってさー。あたし、知らないところ行くと気持ちが整理されるんだぁ。創作する時は、だからよく知らないとこに遊びに行くわけ。

 ズッキーって部屋にこもってそうだし、連れ出してあげればいくらかリフレッシュになるかもって思って」

「玉縄先輩……」

「カメロンパン可愛いし、可愛いものみると心落ち着くでしょそれに。だから先輩らしく、おっきーの当ててプレゼントしてあげよーって思ってたんだけど、あはは。ちっちゃいのしか当たらなかったねぇ」

 そんなことされたら……。

「ありがとう、ございます……大切にします。それに、綺麗な海も見れて、僕すごいリフレッシュできたと思います。今日のこと、僕一生忘れません」

「大げさが過ぎるっ! でもそっか、それなら良かったよ」

 弾ける笑みを受けて、僕は心で誓った。きっと、いつか立派な一席を披露してみせると。こんなに世話を焼いてくれる玉縄先輩へ恩返しをするためにも、ここからまた頑張ろう――


⭐︎


――次回、第二幕に続く。

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