第0席【創作講談という独白】
「えー、本日は牟佐高校文化祭、創作講談会へ。このようないっぱいのお運びを、誠にありがとう存じます。
さて、これから申し上げます物語というのは僕自身にも。そしていま裏で聞いているかもしれないし、聞いていないかもしれない。いやたぶん聞いてないでしょ、さっきお昼を食べてからというもの、睡魔と戦ってましたからね。首なんてこんな、こっくりこっくりして。
とまぁ、この講談探究同好会三年生部長、玉縄にも関わるお話でございますけれども」
暗幕降りる体育館、前列で女子の笑いが聞こえる。
「今日この頃は、秋も深まる時候でございますから。さあ……こんな、高校生にしては低い声を聞かされてもいりゃあ、玉縄じゃないですけれど、お爺さんのやる古文の授業よろしく来校者様もさぞ、眠たくなることでございましょう。ですから寝る時はどうぞ、手を挙げてからでお願いいたします」
小さな笑いがちらほらと満遍なく広がる。大丈夫、今日はいけそうだ。良いムードがある。
「まぁ冗談ですけれどもね。なにせたったの三十分ですから、少しばかりのご辛抱をいただきまして」
壇上には、釈台と呼べるほど立派なものじゃない簡素な文机。でもそれは、歴史を刻んだという意味においちゃ立派な釈台だ。先輩たちが打ってきた、張り扇の跡が心強い。
正座する僕は、今しもブレザーを脱ぎながら言う。
「美人、と言う言葉がありますね。この、美人っていうのはいったいなんでしょう。みなさんどうぞ、一秒のあいだシンキングタイム。はい終わり。
顔立ちが整っている? 性格や器量の良さ? それとも体格か……これどう、思われましたかね?
僕はこう思います。美人とは、心にトキメキを与えてくる人だ。心の奥の奥の方に、こう……グワンっと揺さぶってくるような。
そうですね。言い換えれば、運命の人……なんて言ったりするのかもしれませんが」
パンッ! と張り扇で机上を打つ。
「タッタッタッタ! 走って校舎へ向かう、この春に高一となった男子。これがまた、石を投げりゃあ当たるような平凡な見た目の男子高校生だ。取り柄なんて背が高いことくらい。
でもね、走ると言っても別に息を切らしてってわけじゃないですよ。小走りです。江戸の駕籠屋みたいな。じゃ、なんで小走りしてるのか?
実はね、人と目が合うのが怖い。人と喋るのが、どーにも怖いんです。臆病というか引っ込み思案というか根暗というか、要するに陰キャって言われるやつですよ。
でもって、この日はいまだ新入生の部活動勧誘週間でしたから、校舎までの長い道のりには、うーようよと黒山があるわけで。芋を洗うように人がごった返してる。
それでもって、しきりに話しかけてくるわけです。あれですかね、居酒屋のキャッチみたいなやつですか?
だから人と話すのが不得手なこの男子は、そそくさと校舎へ向かっていたわけです。
『ああ、みんな浮かれていていいな。僕も普通に話ができたら、部活の一つもやって、恋の一つでもやって』なんて侘しく思いながら小走りする。
するとそこに、スッと飛び出てきた女子。男子は上の空だ、そんなこと気付かない、これ一瞬のこと。
ドテンッッ!
男子は盛大に尻餅で、『うぎゃ!』なんて格好のつかない奇声なんてあげてしまう。
しかしどうだろう、向こうの女子は怯むことなく転ぶこともなく、飛んでしまったプリント用紙をささっと手際よく拾って、男子を見やってはこう言った。
『わぁ……大丈夫? 痛そうにこけたね、ごめん』
体幹が強過ぎるな、この女子は」
体育館に大きな笑いが巻き起こった。
「別にレスラーとかじゃないですよ。普通の高三女子でございますから。茶髪を横で結っている垢抜けた雰囲気の小柄な娘。
さぁ、男子は惚けていたが我に帰るとこう言った。
『ああ……だ、大丈夫。平気です……』
すると、女子は何思ったか考え込んでしまう。男子はキョトンと女子を見上げるが、それも束の間。
『ああ……これ、占いのやつかも。よし決めたっ! ついてきて!』
そうしましたら、もーたちまちに引っ張っては急かす女子。さぁ男子はというと、これなす術無しでございます。犬に引っ張られる飼い主の様相。
タッタッタッタ!
しかし、袖を引っ張りながら振り返る顔は、懐っこい猫のよう。このとき、なんて愛嬌のある可愛い顔なんだろ……とまぁそんなことを男子は思ってしまいます。
で、彼女は思い出したように言ってくる。
『あそうだった! あたしね、二年の玉縄万智華! キミはぁ?』
『ぼ……くは。なかはら……中原、一希です』
中原――そう、こりゃ僕の名前ですね。
春は出会いと別れの季節と言いますが、出会うべくして出会えばそれは、運命と言える物語にまで昇華する。
桜吹雪く校舎前の出来事だ……僕と玉縄先輩、二人の出会いの物語は、ここから始まるわけにございますが――」




