表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
だんたりおん  作者: 左猫右雛
第一幕
1/5

第0席【創作講談という独白】

「えー、本日は牟佐(むさ)高校文化祭、創作講談会へ。このようないっぱいのお運びを、誠にありがとう存じます。

 さて、これから申し上げます物語というのは僕自身にも。そしていま裏で聞いているかもしれないし、聞いていないかもしれない。いやたぶん聞いてないでしょ、さっきお昼を食べてからというもの、睡魔と戦ってましたからね。首なんてこんな、こっくりこっくりして。

 とまぁ、この講談探究同好会三年生部長、玉縄(たまなわ)にも関わるお話でございますけれども」

 暗幕降りる体育館、前列で女子の笑いが聞こえる。

「今日この頃は、秋も深まる時候でございますから。さあ……こんな、高校生にしては低い声を聞かされてもいりゃあ、玉縄じゃないですけれど、お爺さんのやる古文の授業よろしく来校者様もさぞ、眠たくなることでございましょう。ですから寝る時はどうぞ、手を挙げてからでお願いいたします」

 小さな笑いがちらほらと満遍なく広がる。大丈夫、今日はいけそうだ。良いムードがある。

「まぁ冗談ですけれどもね。なにせたったの三十分ですから、少しばかりのご辛抱をいただきまして」

 壇上には、釈台(しゃくだい)と呼べるほど立派なものじゃない簡素な文机(ふづくえ)。でもそれは、歴史を刻んだという意味においちゃ立派な釈台だ。先輩たちが打ってきた、張り扇の跡が心強い。

 正座する僕は、今しもブレザーを脱ぎながら言う。

「美人、と言う言葉がありますね。この、美人っていうのはいったいなんでしょう。みなさんどうぞ、一秒のあいだシンキングタイム。はい終わり。

 顔立ちが整っている? 性格や器量の良さ? それとも体格か……これどう、思われましたかね?

 僕はこう思います。美人とは、心にトキメキを与えてくる人だ。心の奥の奥の方に、こう……グワンっと揺さぶってくるような。

 そうですね。言い換えれば、運命の人……なんて言ったりするのかもしれませんが」

 パンッ! と張り(おうぎ)で机上を打つ。

「タッタッタッタ! 走って校舎へ向かう、この春に高一となった男子。これがまた、石を投げりゃあ当たるような平凡な見た目の男子高校生だ。取り柄なんて背が高いことくらい。

 でもね、走ると言っても別に息を切らしてってわけじゃないですよ。小走りです。江戸の駕籠(かご)屋みたいな。じゃ、なんで小走りしてるのか?

 実はね、人と目が合うのが怖い。人と喋るのが、どーにも怖いんです。臆病というか引っ込み思案というか根暗というか、要するに陰キャって言われるやつですよ。

 でもって、この日はいまだ新入生の部活動勧誘週間でしたから、校舎までの長い道のりには、うーようよと黒山があるわけで。芋を洗うように人がごった返してる。

 それでもって、しきりに話しかけてくるわけです。あれですかね、居酒屋のキャッチみたいなやつですか? 

 だから人と話すのが不得手なこの男子は、そそくさと校舎へ向かっていたわけです。

 『ああ、みんな浮かれていていいな。僕も普通に話ができたら、部活の一つもやって、恋の一つでもやって』なんて侘しく思いながら小走りする。

 するとそこに、スッと飛び出てきた女子。男子は上の空だ、そんなこと気付かない、これ一瞬のこと。

 ドテンッッ!

 男子は盛大に尻餅で、『うぎゃ!』なんて格好のつかない奇声なんてあげてしまう。

 しかしどうだろう、向こうの女子は怯むことなく転ぶこともなく、飛んでしまったプリント用紙をささっと手際よく拾って、男子を見やってはこう言った。

 『わぁ……大丈夫? 痛そうにこけたね、ごめん』

 体幹が強過ぎるな、この女子は」

 体育館に大きな笑いが巻き起こった。

「別にレスラーとかじゃないですよ。普通の高三女子でございますから。茶髪を横で結っている垢抜けた雰囲気の小柄な娘。

 さぁ、男子は惚けていたが我に帰るとこう言った。

 『ああ……だ、大丈夫。平気です……』

 すると、女子は何思ったか考え込んでしまう。男子はキョトンと女子を見上げるが、それも束の間。 

『ああ……これ、占いのやつかも。よし決めたっ! ついてきて!』

 そうしましたら、もーたちまちに引っ張っては急かす女子。さぁ男子はというと、これなす術無しでございます。犬に引っ張られる飼い主の様相。

 タッタッタッタ!

 しかし、袖を引っ張りながら振り返る顔は、懐っこい猫のよう。このとき、なんて愛嬌のある可愛い顔なんだろ……とまぁそんなことを男子は思ってしまいます。

 で、彼女は思い出したように言ってくる。

 『あそうだった! あたしね、二年の玉縄万智華(まちか)! キミはぁ?』

 『ぼ……くは。なかはら……中原、一希(かずき)です』

 中原――そう、こりゃ僕の名前ですね。

 春は出会いと別れの季節と言いますが、出会うべくして出会えばそれは、運命と言える物語にまで昇華する。

 桜吹雪く校舎前の出来事だ……僕と玉縄先輩、二人の出会いの物語は、ここから始まるわけにございますが――」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ