春30日 ホセ ロバートの告白
朝七時半、店を開けるとロバートが入ってきた。
「おす、具合はもういいのか?」
「おはよう。ああ、もう平気だ」
本当か……? 何か変じゃねーか?
どこがかっつーと、主に見た目が。
「コーヒー飲むか?」
「いや、いいや」
なんでお前、今日はちゃんと起きてんだよ!
髪も整ってるし、寝ぼけてないとか、おかしいだろ!
「あのさ、ちょっと話があるんだけど、いいかな」
「お、おう……?」
ロバートがこの時間に身なりを整えて起きてるとか、絶対異常だろ。
さすがに病院連れていった方がいいのか?
「おれさ、リーンが好きなんだ」
「お、おう……?」
でもあの病院だからな……勧めたところで大人しく行くとは思えねーぞ。
特に、「自分は大丈夫」と思ってるようなやつは!
「ずっと、どうしようか決めかねてたんだけどさ、やっぱりアプローチすることに決めたんだ。
だから、朝、ホセに頼るのはもうやめるよ」
「お、おう……?」
本当に大丈夫か、こいつ。
なんか話の流れが微妙によくわかんねーぞ。
えーと……ロバートがリーンのことが好きだ、と。
ん……?
「もしかして、ロバートの元カノって、リーンか?」
ディオの話だと、ロバートの元カノは軍属魔道師で八年前に紛争の鎮圧に行ったまま行方不明。
リーンは三年前にこの村に辿り着いたとき、結構ひどい怪我をしていた。
リーンの記憶喪失は、心因性のものだろうっていう医者の見立てだ。
「昔は別の名前だったけどね」
「そっか」
『リーン』という名前は、名前も思い出せなかったあいつに、ユズさんが付けたものだ。
「昔ユズさんに相談した時にさ、『リーンの記憶は思い出すべきものじゃないと思うから、
思い出させるようなことはしないでほしい』って言われたんだ。
だからずっと、必要以上には近づかないできたけどさ……。
でもやっぱり、おれは彼女が欲しい」
『欲しい』……なあ。
俺は恋とかよくわかんねーからなあ。
リーンのこと、可愛いとは思うし、下着見た時はちょっとドキッとしたけど、欲しいっつーのはよくわかんねーや。
だいたいそういうの、リーンだけじゃなくて、ヴァニラはちょっとムカつく時もあるけど愛嬌あると思うし、ミズキだってああ見えて結構可愛いところもあると思うし。
まあ、恋とかよくわかんねーから、おいとこう。
むしろ気になるのは、ロバートが朝一人で起きたことだ。
「お前、今日どうやって起きたんだ?」
「…………」
ロバートはばつが悪そうに目を逸らした。
「つか、朝、俺を頼るのをやめるって、今後どうする気なんだ?」
「…………朝四時に目覚ましかけて、なんとか」
お前んとこ、夜遅くまで営業してんだから、四時に起きたら、ほとんど寝る時間ねーじゃねーか。
「お前がリーンのことを好きなのはわかったけどさ、
朝俺んとこにくるのをやめる必要はねーだろ」
「…………」
もしかしてこいつ、俺がリーンと仲がいいから、なんか遠慮してんのか?
ちゃっかりしてるくせに、らしくねーことしやがって。
「俺としては、コーヒーと濡れタオルの売り上げが減る方が大問題だ。
つかよ、俺も、お前の顔見ねーと、朝が来たって感じしねーよ」
ボサボサの頭にタオルのっけて。
コーヒー飲みながら少し話して。
シャキッとして出て行くお前見てると、俺も、「今日もやるか!」って思うんだよ。
「……気持ち悪いこと言うなよ」
「お互い様だ」
今朝のコーヒーを入れてやると、
「さっき自分でも淹れたけど、やっぱホセに入れてもらうコーヒーはいいな」
と言って、ロバートは笑った。
「嫁貰えよ」
「頑張る」
おう、頑張れ。
ユズさんのガードはもう無いだろうけど、リーンのやつ、今度はミズキにべったりだからな。
「あ、そっか」
「ん?」
「俺さ、ずっと疑問だったんだ。
リーンは何であそこに倒れてたんだ? って」
リーンは隣町とこの村を結ぶ街道に倒れていた。
この村の先には森しかない。
森を抜けていく旅人はいるけれど、それは森で一稼ぎしつつ森の向こうの村を目指すからであって、単純に向こうの村を目指すなら、別の経路を使うはずだ。
「リーンはこの村を目指してたんだ。きっと、お前に会いに来たんだよ」
「……そっか」
「おう、だから頑張れ」
記憶を失う前のリーンがロバートを頼ってこの村に来ようとしたのなら、もしこの先リーンが記憶を取り戻すことがあっても、ロバートが支えていけるだろう。




