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春29日 リーン 風邪と違和感

ミズキちゃんが風をひきました。

「これはまさか……鳥インフル……? コロネにすりすりしすぎたか……」

とか言いつつ、ダウンしています。

よくわからないけど、コロネは元気です。

ミズキちゃんにお粥を食べさせて、「ほかに何か欲しいものはない?」と聞くと

「あいす~……」

と言われました。




「お前今日休み?」


アイスを買いにホセくんのところへやってきました。


「ミズキちゃんが風邪みたいなの。看病のために今日はおやすみ。病院は……」

「病院はやめとけ。つーか、異世界人でも風邪ひくんだなー」

「あたりまえだけど、そうだよね」


風邪をひいて良かったなんて思ったらおかしいんだろうけど、でも、よかった。

ミズキちゃん、ずっと元気に、明るくしてたけど、でもきっと、ずっと気を張っていたと思うから。

気が緩んで熱が出たなら、それは悪いことじゃないよね。


「ミズキの具合、どうだ?」

「お粥食べて、お薬飲んで、今は寝てる。アイスが食べたいって言ってた」

熱があるから冷たいものが食べたいのかな。

「あいつアイス好きだな。

 いーよ、俺からの見舞品ってことで、どれでも好きそうなのいくつか持っていけよ」

「ん、ありがとう」


ホセくんは面倒見が良い。

わたしがこの村に来てからも、ずっと色々面倒を見てくれたの。

ユズさんはずっと一緒にいてくれて、ホセくんはいつも気にかけてくれて、ことあるごとに力になってくれた。

ほかの村の人にも、すごく良くしてもらったけど、やっぱりわたしの一番の恩人は、ユズさんとホセくんです。


「そーだ。お前、今時間あるよな? アイスは急ぎじゃねーんだろ?

 ちょっとロバートの様子、見てきてくんねーか?」

「ロバくん?」

「ロバートのやつ、毎朝うちにくんだけどさ、今朝はきてねーんだよ。

 昨日の朝体調悪そうにしてたし、ちょっと様子見てきてくんねーかな」

「ん、わかった」




「おはようございます。ミカワヤです」


裏口から声をかけるけど、返事がありません。

そういえば、寝る時に家に鍵をかけないことに、ミズキちゃんはやたらと驚いていました。

鍵なんて、長く家を空ける時くらいしか、かけないものだと思うけどな。

ロヴァ亭の一階、お店の正面扉から見れば奥の方に、ロバくんとヴァニラちゃんのお部屋はあります。

二階は客室になってるみたい。

ホールにもキッチンにも誰もいないので、ロバくんのお部屋をノックします。


「ロバくんいる?」


ここ……だったよね?

ヴァニラちゃんのお部屋には入ったことがあるんだけど、ロバくんのお部屋の場所はちょっと自信ないかも。

ノックしても、返事がありません。

ん……ヴァニラちゃんに聞けばいいかな。


「ヴァニラちゃん、起きてる?」


ヴァニラちゃんのお部屋をノックします。

返事……ないなあ。

「お邪魔します……」

ドアを開けてみるけど、ヴァニラちゃんがいません。

ん……もしかして、ロバくんもいないのかな。二人で出かけてるとか?


ちょっと気がひけるけど、ロバくんのお部屋も開けてみます。

ヴァニラちゃんのお部屋に比べると極端に物の少ない部屋のベッドの上で、ロバくんは寝ていました。

寝坊……じゃないみたい。

今朝のミズキちゃんと雰囲気が似ています。

ロバくんも風邪かな。


なぜかヴァニラちゃんはいないし、ロバくんも目を覚まさないので、とりあえずお粥を作ることにしました。

お節介な気もするけど、わたしがホセくんにお世話になったみたいに、わたしも誰かの支えになりたいもの。

ミズキちゃんはお米が好きだから米粥にしたけど、ロバくんはパン粥でいいよね。

パンを小さく千切って、牛乳を入れて煮ます。

厨房の大きなお鍋に入っていたロバくんが仕込んでおいたお出汁をちょっともらって、それとお塩で味を調えたら出来上がりです。



お粥を持ってロバくんの部屋に戻ると、ロバくんはベッドの上で上体を起こしていました。


「あれ……テ……リーンちゃん。何でここに……?」


髪の毛ボサボサ。いつもは、長い前髪ごとビシッと後ろに撫でつけてるから、前髪があるとちょっと幼く見えます。


「ホセくんがね、ロバくんの様子みてきてって」


それを聞いて、ロバくんは嫌そうな顔をして頭をガシガシと掻きました。


「ホセがこいよ……いや、ホセは嫌だな……ホモ疑惑が加速する……」

「なんか、ごめんね?」

やっぱりわたしだと頼りにならないかな……。

「いや、ごめん。だいじょうぶ。それ、お粥?」


ロバくんがわたしの持つお盆を指すので、お盆ごとお粥をロバくんの膝の上に置きます。


「うん、ロバくんのお出汁、ちょっともらっちゃった。食べられそう?」

「うん、さんきゅ。

 ……まさかきみに飯を作ってもらう日がくるとはなあ……」


たしかに、料理人のロバくんにご飯を出していると思うと、ちょっと緊張します。


「うん、うまいよ」

「ロバくんのお出汁が入ってるからね」

「かもね」


ロバくんはちょっと悪戯っぽく笑いました。

それにしても、しっかり者でいつも元気なロバくんが風邪で寝込むなんて……


「鬼に金棒だねえ」


ミズキちゃんが風邪をひくより、ずっと意外かも。


「…………鬼のかく乱……かな?」

「………………ん」


間違えた、恥ずかしい……。


恥ずかしくて俯いていると、くつくつとロバくんの笑い声が聞こえました。


「…………やっぱり、ホセにはやれないなあ」


ホセくん……?

そうだ、ロバくんもアイスとか食べたいかな?


「ロバくん、ほかに欲しいものとかある?」


あとそうだ、お薬も飲んだ方がいいよね。

食べ終わった器とお盆を受け取って立ち上がろうとしたら、


「リーン」


ロバくんに名前を呼ばれました。


「なあに?」


なんだろ、なんか違和感。

呼び捨てで呼ばれたからかな。


「……いや、なんでもない。

 その棚の箱に薬入ってるから、取ってくれる?」




裏口からロヴァ亭を出ると、少し離れた場所でヴァニラちゃんがうろうろしていました。


「ヴァニラちゃん?」


声をかけるとヴァニラちゃんは「ぴゃっ」と叫んで飛び上がりました。

ヴァニラちゃんの靴がピョコッと鳴ります。


「りりり、リーンかあ。お、お兄ちゃんに会った? 機嫌、どうだった?」


ヴァニラちゃん、なんか変。どうしたんだろ。


「機嫌はわからないけど、風邪ひいて寝込んでるよ」

「風邪!? お兄ちゃんが!?

 良くないけど良かった! 全然良くないけど良かった!」


変です。


「はー……絶対怒られるから帰りにくかったんだよねー。

 でも、寝込んでるなら大丈夫! のはず!

 それにしてもお兄ちゃんが風邪とは、鬼に金棒だねー」


ヴァニラちゃんはピョコピョコ軽い足取りで、ロヴァ亭に帰っていきました。

ん……、鬼のかく乱ですよ?



それにしても……

「リーン」

って、呼び捨てで呼ばれたこと、その時は違和感があったけれど、今思い出すとちょっとふわふわします。なんだか、仲良くなれたみたいで。

もしかして、ちょっとは頼りになる存在だと思ってくれたのかな。

だったらいいな。


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