表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/100

春18日 ディオ ラスシャ村!春の○○祭

「出るんだって……」


声をひそめて、顎をちょっと引いて、上目使いでシュシュが言う。

なんだろう……上目使いなのにまるで可愛い感じがしない。

声のトーンのせいかな。


「出るって、何が?」


まあ、聞かなくてもわかるけど。

でも、聞き返すのがマナーだよね。


幽霊かあ。怪談と言えば夏ってイメージが強いけど、幽霊話は案外、季節問わずあるものだよね。


「変質者」


あ、変質者の方だったか。

変質者の旬は春らしいからね。


「今年も恒例の、『ラスシャ村!春の変質者祭』が始まったわねー」

「十人捕まえるごとに、白い筋肉プレゼントだ」

「最低な村だね」

上から、シュシュ、バトレイ、アンシー。

アンシーの言葉に同感。

あと、さすがにこの小さな村に十人もの変質者はいないと思いたい。

それから、筋肉は自前で間に合ってます。


「容疑者は絞れてるんだよね?」

「一応候補は上がってるよー」


人の出入りも少ない村だ。変質者も毎年同じ人物だったりする。

というか、厳密にはこの村の人間じゃない。

隣町から、わざわざ露出行為をする為だけに、この町に通ってくる人物がいるのだ。

その名もヘンリー・シツシャタイという。

この村、可愛い子多いから、気持ちはわかるようなわからないような。


「ルリが図書室に行った時に、鏡にヘンリーが映ったのを見たんだって」

「それは、ルリちゃんは大丈夫だったの?」

「ヘンリーの方はルリに気づかなかったみたいよ。

 露出の準備をしてたみたいね」


容疑者はわかっているんだけど、ただ、向こうも捕まり慣れていて、

年々オレたちから隠れるのが巧みになってるんだよね。

現行犯で捕まえないといけないんだけど、オレたちの尾行に気づいているらしくて、尾行中は絶対変態行為に及ばない。

パトロール中にヘンリーに遭遇することも稀だ。

そのうえ、なんとかかんとか頑張って捕まえてもさ、半月程度で釈放だから、毎年毎年繰り返すんだよなあ。

自警団が出来るのは捕まえることだけで、あとの対応を決める権利はない。

もっと厳しく管理してほしいよ、ほんと。


ところで、変質者にもいろいろタイプがあるらしいけど、ヘンリーは、見せてくるだけのタイプらしい。

襲って来たりしない分マシな気もするけど、でも、花とか見ながら爽やかな気分で歩いてたのに、いきなり変質者に絡まれて見せられるとか、最悪だよな。

オレだって嫌だ。女の子ならなおのことだろう。


「それで、今年はどうする?」

そんなヘンリーの、一筋縄ではいかない捕獲の作戦を立てようってことだけど……

「あみだくじでいいんじゃない?」

シュシュがすでに紙に棒を書いてあみだを作り始めている。

「あみだに書く犠牲者を決めないと」

そう、作戦はおとり作戦と決まっている。

決めなければならないのは、おとり役だ。

「去年までのおとりに使ってない子……」


ちなみにこの作戦、五年前から行われている。

つまり、すでに五人の女の子が、おとりという名の犠牲者になってきたわけだ。


「なんかさ……他に方法、ないのかな?」


いくら変質者を捕まえるためとはいえ、

そのために毎年犠牲者を出すのは本末転倒なんじゃないのか?

ヘンリーだって、毎年新しい子に自分を披露できるなら、それがおとりで捕まっても本望なんじゃ。

女の子を守るためにやってるはずが、守るどころか傷つけてるって、やっぱ納得できない。

いくら本人が協力に納得していたとしても。


「一応、もう一個案はあるよ」


シュシュが作ったあみだに、さらに横棒をつけたしていたアンシーが言う。

ところで、横棒に装飾付けて(猫の顔型とか)、見にくくするのはやめないか?




森に入って少し行った場所に、かすかに開けた場所がある。

日当たりが良いそこは、誰かが種をまいたのか、自然に生えてきたのか、色とりどりの花が咲く花畑になっている。

オレはそこで、変質者と対峙していた。


「はあはあ……美しいおじょうさん……」


誰がお嬢さんだ!と言いたいところだけど言えない。

オレは今女装をしている。

「女の子をおとりにするのが嫌なら、女装をすればいい」

と、アンシー、いやアンシーさんに言われてしまったのだ。

他に良い案が思いつかなかったから仕方ない。仕方ないんだ。

精神的に恒常的なダメージを受けているけど仕方ないんだ。

「●※▽■÷※◆!」

精神的なダメージを考慮して、変質者の台詞にはモザイクをかけておく。

きこえない、きこえない。


変質者は無事に(?)露出を完了し、近くの木の上に隠れていたバトレイ、シュシュは無事にヘンリーを取り押さえた。

オレは見せられたことにより、精神的ダメージが許容量を超え、白目を剥きかけた。



「では、町まで連れて行く」


縄でぐるぐる巻かれたヘンリーを連れ、バトレイとシュシュは隣町へ。

道中万が一にも露出しないように、腰のあたりは特に念入りに巻いておいた。

別れ際シュシュが「じゃあね、美しいお嬢さん。……ぷっ」と言い残していき、

そのダメージでオレは白目を剥いて意識を手放し……

いや、ここで、この格好で、意識を手放すわけにはいかない!

着替え!早く着替えを!

一刻も早くこのドレスを脱ぎたくて、ボタンを外しつつ、詰所に向かう。

ウィッグももう取ってしまおう。


「きゃっ」


急いでいたせいか、動きにくい服のせいか、森を出たところでマリーにぶつかってしまった。

「あ、ごめん」

尻餅をついたマリーに手を差し出す。

が、マリーは「ひっ」っと小さく悲鳴を漏らし、白い顔で座ったまま後ずさった。

あ、オレ今女装だった。

ぶつかった拍子に一瞬忘れてたわ。


「えーっと……マリー、これには事情が……」

「へ……へんたーーーーーーーーーい!!!!」


でっかく叫ぶとマリーは意識を失ってパタリと倒れ、オレは近くにいたマリーの使用人のサトウに取り押さえられた。

声を聞いて、詰所で待機していたアンシーも駆けつけて、

「何で脱いだの?変態?」

と、冷たい目と手鏡を向けられた。

鏡には、縄でぐるぐる巻きにされていく半裸の女装男が映っていた。


今度こそ、意識を手放してもいい、よね?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ