第28話
心地の良い朝を迎える
和樹が外で足の調子の確認をしていると、宿舎から玲子が出ていく
「こんな朝からどこに行くんだ?」
嫌な予感がして和樹は後ろをついて行く
玲子は神社から続く細い道を歩く
途中からその道が開けていく
島の壮大な風景が見え崖にたどり着く
墓石が立っているのでどうやらここはここの神社関係者の墓なのだろう
単に墓参りに行こうとしていたのかと安心していると、玲子はさらに先に行こうとする
自分が後ろからつけていることにも気づいていないので、落ちる前に立ち止まることもしないだろう
和樹は走り出す
予想通りに玲子は崖から足が離れる
「バシッ」
しっかりと玲子の腕を掴んだ音がする
「なによ!離して!」
毛嫌いしていた自分に触れられたからか玲子は自分に対して睨みつける目が復活する
「嫌だよ、たかが腕が使えなくなっただけで死なせるわけにはいかない」
「どうしてそれを…」
そんなこと関係ないと言わんばかりに腕を引き上げる
逃げ死のうとする玲子を押さえつける
「どうしてよ!剣道ができなくなったら私に生きてる意味なんてないわ!」
玲子は暴れ続ける
「そんなことあるはずがない!それならなぜうちの同好会に入った!」」
和樹が叫ぶ
「あなたに私の気持ちが分かるわけないでしょ!」
玲子は和樹が元々剣道を習っていたことを知らない
「僕だって自分の全てだと思っていたことがこの足でできなくなった!それで自暴自棄にもなった!」
玲子を声でも押さえつけようとする
「だけど雪子先生が自分を救ってくれた、自分に居場所を作ってくれた!君だっていつでも帰ってこれるから、あの同好会に入ったんじゃないのか!」
きっと雪子先生は居場所を作るため、一人でも皆でも楽しめる旅を題材にした同好会を作ったのだろう
「じゃあ私は何のために生きればいいのよ!」
まだ玲子は叫ぶ
「そんなもの僕にだって分かるはずがない!自分で探すしかないんだ!」
叫びすぎて喉が壊れかける頃にようやく玲子は大人しくなる
まだ目は虚ろだが、涙は出ていて、崖から森の中へ戻っていく
こちらの話は聞いてくれないが落ち着いたようだ
その日は玲子に何かがあったと騒ぎになって、島の外への旅行はできず、島の観光になった
夜にはまた幸斗と話をする
「そうか…そんなことがあったのか…」
「どうしてあの子はあんなに剣道にこだわるんだ?」
「それは…元々あの子のお父さんがやっている神社はうちの系列でね、うちの神社の系列のいくつかは剣舞が祭りの演目になってるんだ」
「なるほど、それなら剣道に執着するのもわからんでもない…か」
「それだけじゃない、剣道場が前はこの神社にあってそこで剣舞をする人を養成していたんだが、ここの師範が亡くなってね…それ以降剣道を教える人が居なくなっちゃったんだ」
「それじゃあ…剣道を教えるためにも頑張ってるんだね」
親の期待だけでなく、系列神社の期待も背負って剣道をしていたのだ…その期待を裏切ったとなればとてつもない重圧がかかるだろう
「あの子はどうなんだい?」
「僕の予想ではまだ上の空だと思うよ…」
「そうか…明日になっても戻らなかったらここに連れて行くと良い」
幸斗にある場所を勧められる




