第1話
学校の廊下を歩く男がいる
平日昼間なのにもかかわらず廊下にはほかに誰もいない
すでにチャイムは鳴り終わっているからだ
熱海和樹
清鳴大学付属高校という女子校の教員だ
和樹が扉を流す
中にはたくさんの生徒がいる
ゲームをしている生徒、おしゃべりしている生徒、寝ている生徒
授業が始まっているにもかかわらず、こちらを向いている生徒はほとんどいない
「みなさん、授業を始めますよ」
さすがに授業ができないほど荒れきっているわけではなく、全員がこちらを向く
授業が終わる
和樹は今年からこの学校に入ってきた
いわゆる新人教師だ
職員室に戻る
「すごく疲れてますね」
女の人が話しかけてくる
「里見先生」
里見由衣奈
同じ年に入ってきた自分と同じ国語の先生
「まだ授業に慣れていなくて…」
「私もですよ?今日も資料がなくて慌ててこっちに戻ってきちゃったんですから」
先生は苦笑いする
「もうすぐ部活の時間ですけど大丈夫ですか?」
「?あぁ…あの子たちは僕がいなくても大丈夫なんでゆっくり行きますよ」
和樹は教室を出る
自分が居なくてもいいというのは半分が嘘で半分が本当だ
旅行同好会という看板が掛けられた部屋の扉を開ける
「先生…遅い…」
表情の読めない一人の少女が開けてすぐに話しかけてくる
「珠兎さん、すみません職員室の先生と話していたもので…」
「そんなクソオスのことなんて聞かなくていいんだよ珠兎」
鋭い目をした大和撫子に横から刺される
「玲ちゃんの言うとおりだよ、そんな雑魚ほっとけばいいのぉ」
今度は身長の低い黒髪の少女まで加勢する
「あ…あの!喧嘩は、よくないと思います…」
茶髪の少女が場を納めようとする
「わかってるわよ…」
文句を言っていた二人もその場から離れる
表情が変わらないまま、月野珠兎は椅子を持ってくる
「ありがとうございます…」
和樹も椅子に座る
ここは旅行同好会
といっても部員は五人しかおらず、旅行をするのも長期休暇の時だけだ
「部」になる要件が六人以上の構成生徒であるため足りない
先ほど場を諫めた小野智彼が珠兎と一緒に旅行雑誌を読んでいる
「今日も日向さんは休みですか…」
この場にはいない小石川日向は地下アイドルをしている
アイドルの活動の上で学校には行くがこちらには来ないということがざらにある
「あんたみたいな人が居るのにわざわざ来ないでしょ、もっと智彼が来てることをありがたいと思いなよ」
先ほどから煽るような言動をする桂愛莉は日向をこの同好会に誘った人らしい
智彼は実は男性恐怖症であり、こちらに話しかけてくることはほとんどない
ただ、珠兎と智彼がこの同好会の良心と言えるほど優しい
自分も本を取り出して読んでいるといつの間にか夕方になり、解散することになった




