焼きそばにするか、ナポリタンにするか
長らく夢を見ていたような感覚だ。
不思議と、どこも痛くはない。
理屈ではないのだが、ああ自分は死んだのだ、と何故か納得していた。
「やれやれまたか」
そう言いながら歩いてくる橙色の衣を纏った少女がいた。
「起きろ。はよう起きぬか。」
ぺしぺし、と頬を叩かれる。
意識は覚醒しつつあり、身体のどこにも怪我らしい痛みも傷もない。頬は別としてだが。
それなのに、何故か鉛のように重く、指一本動かせそうになかった。
「むう、起きぬか…ほれ。わらわの供物のカツ丼でも食え。」
ずいっ、と出来立てのカツ丼が差し出される。
美味しそうではある。
腹も心なしか減っている。
だが体が動きそうにない。
少女はぷくーっ、と頬を膨らませた。
「仕方ない…最終手段を使うより他にあるまい。」
そう言い、少女はごそごそと持っていた袋を弄り、「やきそば弁当 ナポリタン味」を取り出しては、虚空から熱湯を注いでいた。
何をどうやったのかは知らないが、一瞬で3分間経過したのと同じくらいには出来上がっていた。
少女は虚空からマグカップを取り出した。中には既に粉末スープが入っている。そういえば、ナポリタン味はコンソメだったか。
そこへ麺の戻し湯を注ぎ、手慣れた動作で湯切りを済ませる。
そして、嬉々として付属のソースを投入した。
あの、筆舌に尽くしがたいソースを。
そう。
かつて北海道民を震撼させ、
スーパーというスーパーにはワゴンで「大特価!」とケース単位で投げ売られた伝説の問題作だ。
「ちょい辛」も「塩」も普通に美味しいのに何故あんなものが製品として販売のGOサインが出されてしまったのか本気で小一時間ほど問い詰めたくなるような味なのだ。
とにかく、これはだめだ。
まるで食品としての最低限の体裁すらなってはいない。
鼻腔が危険信号をこれでもかと発している。
本来の、ノーマルの、デフォルトの、王道の美味しいウスターソースのベースに対して、
やきそば弁当にあってはならないケチャップベースのような甘酸っぱさと吐き気を催すタイプのチーズ風味の何かが強烈なマリアージュをしている。
混ぜるな危険どころの話ではない。
俺の体は飛び起きた。
それだけは、それだけはダメだ。
「おっ!やっと起きた!遅いぞ!
あと数秒起きるのが遅ければお前の口に『キャラメル』でも突っ込んでやろうかと思うておった!」
少女はカラカラと、いつの間にか手にしていた赤い縦長の小箱を振った。
「なんでそのキャラメルの頭に『ジンギスカン』ってついてるんすか」




