序章
もしも、もう一度だけやり直せるなら――
あの日、君を救えるだろうか。
七年前の夏。
蒼真は、幼なじみの夕奈を失った。
突然の事故。
何もできなかった自分。
胸に残ったのは、後悔と、言えなかった言葉だけ。
時間は残酷に進み、
蒼真だけが取り残された。
そんな彼の前に現れたのは、
小さな不思議な存在――ココ。
「蒼真。
きみには、やり直すチャンスがあるよ」
その言葉とともに、
世界が白く染まり――
蒼真は“七年前の夏”へ戻っていた。
夕奈は生きている。
笑っている。
あの日と同じ姿で、そこにいる。
だが、運命は優しくなかった。
事故は形を変え、
理由を変え、
姿を変えて――
何度でも夕奈を奪いに来る。
蒼真は抗う。
何度でも立ち上がる。
夕奈を救うために。
「今度こそ……絶対に守る。
何度でもやり直す。
たとえ運命が相手でも――」
これは、
“救えなかった未来”を変えるために戦う少年と、
“秘密を抱えた少女”の物語。
七年前の夏。
運命の分岐点で、
二人の時間が再び動き出す。
白い天井が、にじんで見えた。
消毒液の匂いが胸の奥を締めつける。
「……夕奈?」
呼びかけても、返事はない。
ベッドの上で眠るように横たわる彼女の手は、もう温かくなかった。
医師の静かな声が、世界を断ち切るように響く。
「……ごめんなさい。藤宮さんは……」
その瞬間、蒼真の時間は止まった。
17歳の夏の終わり。
世界で一番大切だった幼馴染は、二度と目を開けなかった。
――もし、あの日に戻れたなら。
――もし、あの事故を止められたなら。
七年後。
24歳になった蒼真は、今もあの日の病室に囚われたままだった。
そんな彼の前に、ある夜、小さな声が落ちてくる。
「……きみ、助けたいんだよね。藤宮夕奈を」
振り返ると、そこには――
月明かりの中でふわりと浮かぶ、小さなマスコットがいた。
「ぼくはココ。きみの“過去”を変えるために来たんだよ」
蒼真の止まっていた時間が、ゆっくりと動き出す。
「……過去を、変える?」
蒼真は思わず聞き返した。
目の前の小さな存在――ココは、ふわりと宙に浮いたまま、金色の瞳を細める。
「うん。きみがずっと願ってたことでしょ。
“あの日に戻りたい”って。
“夕奈を救いたい”って」
胸の奥を、誰にも触れられたくなかった傷を、
まるで見透かされたような感覚が走る。
「……そんなこと、できるわけないだろ」
「できるよ。ぼくがいればね」
ココは軽く回転し、光の粒を散らした。
その光は蒼真の足元に落ち、床に淡い波紋を広げる。
「ただし、条件がある。
戻れるのは“七年前の夏”、夕奈が亡くなる直前の数日間だけ。
それに……過去を変えられるのは、7回。」
蒼真の呼吸が止まる。
七年前。
あの夏。
夕奈が笑っていた最後の季節。
「……本当に、夕奈を救えるのか」
「救えるかどうかは、きみ次第だよ」
ココは小さく首をかしげる。
「でも、何もしなければ、未来は変わらない。
きみはまた、同じ後悔を抱えて生きていくことになる」
蒼真は拳を握りしめた。
七年間、胸の奥で腐り続けた後悔。
何度も夢に見た“もしも”。
叶わないと分かっていた願い。
――それが、今、目の前に差し出されている。
「……夕奈を、助けたい。
もう一度……会いたい」
その言葉を聞いた瞬間、ココの身体が強く輝いた。
「じゃあ、行こう。
一ノ瀬蒼真。
きみの“止まっていた時間”を、動かしに行こう」
光が弾け、世界が反転する。
視界が白に染まり、音が遠ざかっていく。
蒼真は最後に、ひとつだけ願った。
――どうか、もう一度だけ。
――夕奈の笑顔に、触れさせてくれ。
そして、光が完全に世界を包み込んだ。




