6‐最後の部屋
ようやく、SOSさんと同じ部屋にたどり着いた。
【最初の部屋】とよく似た空間だ。
床も壁も、すべてが真っ白。
タイル1マス分の、小さな部屋だ。
改めて、SOSさんのメッセージを読む。
『【最後の部屋】』
『【最初の部屋】に似た部屋に着いた』
ここまでは、さっき読んだやつだ。
『他のフロアと大きさが違う。案内図にも描かれていなかった。
【最初の部屋】と【最後の部屋】は、この建物のフロアとしてカウントされないのだろう』
つまり【ロビー】【光の部屋】【回廊】【無限通路】の4つが、階数として数えられるフロアってことか。
案内板の4階建て表記とも一致するな。
「……なるほど」
ここは特別枠なんだな。
『部屋の中には、ドアが一つ。
ここから、外の世界へ出られるのだろうか』
「ドア?」
俺は室内を見回した。
家具も何もない部屋には、ドアもない。
「間違いを指摘してください、か」
おなじみの展開だ。
さっそく『ドアがない』と送信してみたが、それでは何も起きない。
これは間違いに含まれないらしい。
俺はSOSさんの文面を読み返す。
しかし、なかなか違和感はつかめなかった。
「やっと全フロア攻略したけど。
最後も難しいな」
ため息をついて、ふと、自分の言葉に引っかかりを覚えた。
「……全フロア?」
【ロビー】【光の部屋】【回廊】【無限通路】。
4つ。ここで最後。
妥当だ――俺にとっては。
「でも、SOSさんは【無限通路】を通ってないよな?」
メッセージ履歴を、端から端まで確認する。
「なのに、階数が1つ足りないことを、問題にしてない……?」
階数を数え間違えている?
いや、毎回あれだけ細かく観察している人だぞ。
そんな初歩的な見落としをするとは思えない。
ひょっとして――
『SOSさんの案内板は、3階建て表示だったんですか?』
送信した瞬間。
ぐにゃり、と空間が歪んだ。
「……よし!」
正面の壁に、ドアが現れた。
思わず、小さくガッツポーズを取る。
けど。
頭の片隅に、新たに小さく、疑問が芽生えた。
――SOSさん、どうして案内板の階数について、何も言わなかったんだ?
フロアは5×5マスだとか、ライトは16個だとか、細かく具体的に描写する人だ。
真っ先に言及しそうなのに。
「……まあ、最初の階だったしな」
人間なのだ。こんな極限状態にいたら、見落とすことだってあるだろう。
それより、今はドアだ。
金属製で、【最初の部屋】にあったものとよく似ていた。
「これでようやく、元の世界に……」
幻でないか不安だ。
そろそろと、ドアノブに手を伸ばす。
――ピロン。
『誰かが、外からドアを叩いている』
直後、こちらでも音がした。
ガチャガチャ、ガチャガチャ!
外から、ドアノブを引いている音だ。
よく見ると、内鍵が付いている。
「どちら様ですか!」
返事はない。
躊躇していると、SOSさんからメッセージが届いた。
『返事がないが……ここが出口の可能性が高い』
『思い切って、開けてみよう』
俺は喉を上下させた。
『気をつけてくださいね』
思わず送信する。
ややしてから――通知音が鳴った。
何度も、アラームのようにけたたましく。
『最悪だ!』
『出口じゃない』
『化物!』
化物!?
『引き返そう』
『【回廊】の空洞部分が、気になる』
俺はこわごわドアをうかがった。
もう、音はしない。
化け物は去ったのか?
「なら……大丈夫、だよな」
俺はドアノブに手をかけたが、結局、やめた。
ダメだ、勇気が出ない。
「3階の空洞を、先に調べよう」
ここを開けるのは、最後の手段。
SOSさんをここに残していくのも気がかりだ。
俺は螺旋階段を降った。




