11‐外の世界
また【最後の部屋】へやってきた。
中に入ってすぐ、音が響く。
――ドンドン! ドンドン!
これまで何度も遭遇した音だ。
外から、誰かが叩いている。
「……大丈夫。大丈夫だ」
俺は深く息を吸い、吐いた。
不安に震えそうになる心を、無理やり落ち着かせる。
「おまえなんて……嘘っぱちだ!」
自分を奮い立たせるため、音のする方へ咆える。
叩く音がしなくなった頃、俺はドアノブをつかんだ。
いつでも閉められるように身構えて、慎重にドアを押す。
1センチ、2センチ、3センチ。
【開かずの間】のときのように、向こうから引かれる気配はない。
4センチ、5センチと、すき間が広がっていく。
やがて、人ひとりがやっと通れるくらいの開き具合になった。
足元には、見慣れた草むら。
その先には、樹木の生い茂る山の景色。
「焦るな、焦るな」
自分に言い聞かせ、さらにドアを開く。
外から差し込む夕日が、真白い部屋の壁を、じわじわと赤く染めていく。
「……やっぱり」
ドアは、今や180度開いた。
外にあるのは、いつもの側道の風景だけ。
人影は、ない。
「誰もいなかったじゃないか」
思わず笑みがこぼれる。
俺は一歩、外へ踏み出した。
カサ、と草が鳴る。
足裏に感じる、確かな地面の感触。
戻ってきたのだ。
「やった!」
念のため、ドアの裏側を確かめる。
何かが隠れていたということはなかった。
「じゃあな」
俺は、白い部屋に別れを告げた。
「二度と来ないぞ。こんなところ」
ドアを閉める。
途端、真四角の白い建物はふっと消えた。
夢幻だったかのように。
俺は、大きく息を吐いた。
「……帰ろう」
酷い目に遭った。
スマホを見る。
さっそく起こった変化に、口元がゆるむ。
「時間、動き出した」
デジタル表示の分数が、ひとつ進んだ。
――ピロン。
通知音にビクッとしたが、心配いらなかった。
届いたのは、よく行くコンビニの広告メッセージだ。
他愛ない内容に、肩の力が抜ける。
「SOSとのトーク、消えてるな」
最初から存在しなかったかのように、履歴はきれいさっぱり消えていた。
「……本当に、変な場所だった」
スマホをポケットにしまう。
自転車は、降りたときのまま道端にあった。
俺はサドルにまたがる。
「腹、減ったなー」
ペダルを力いっぱい踏み込む。
もう安全だと分かっていても、一秒でも早く、この場を離れたかった。
側道の終わり、ねじくれた古木のところで一時停止。
「よし」
車が来ないことを確認し、本線に合流。
俺は軽快に坂道を下った。
お読みいただき、ありがとうございました!
おもしろかったと思われましたら評価頂けると、励みになります。




