第81話 闇対闇
《カーズ地下霊園》最奥のボス部屋で、決戦の火蓋が切られた。
先に動いたのはシルヴァンだった。彼が杖を振りかざすと周囲に黒い霧が立ち込める。
その中から現れたのは複数の《スケアグール》と《スクリームゾンビ》。道中でも何度か倒した屍の魔物だ。
キョウヤは一度バックステップで距離をとる。安易に攻撃を仕掛けてしまえば、待ち構えているシルヴァンからの攻撃を浴びることになるだろう。
「ハハハッ! 大口を叩いておいて、手も足も出ないのかなあ?」
見え透いた挑発に乗るほど愚かではない。鈍重な動作で近寄ってくる屍たちをただ待ち続ける。そして、それらが一点に集まったことを認めると、剣を振り回すべく身構えた。
見計らったようにシルヴァンが水の槍を作り出す。剣を振り切ると見せかけて横に跳んだ瞬間、彼の《アクアランス》が元いた場所に突き刺さった。当然、範囲内にいた魔物は巻き込まれて弾け飛んでいた。
「どうした。魔物を倒すとレベルアップでもするのか?」
「チッ……! ゴミが、なめやがって!」
同士討ちをしたシルヴァンをあえて逆撫ですると、彼は怒りを抑えられない様子を見せた。
すぐに頭に血が上るのは明確な欠点だといえる。しかし、精神的に優位に立てるとはいえ、決して油断はしない。
この一連の流れで、シルヴァンは《憑依》の対象である《デッドネクロマンサー》の能力に加え、彼自身の魔法も使用できると判明した。まさしく不正行為だ。
もし最初に対峙した際、召喚された《ヴォイドガーディアン》に乗り移られていたら手の付けようがなかった。
――違う、そうではない。
あの時、シルヴァンがそのまま逃げ去ったのは、ただ傷を負っていたからだけではない。《憑依》を使わなかったのではなく、使えなかった。
闇の力を行使するのと同じように、あれには相応の代償がある。もしかしたら、強力な魔物ほどそれは大きくなるのかもしれない。
「フッ……!」
「何がおかしい。その程度でボクに勝った気でいるのか?」
「いや、そうじゃない。面白い能力だと思ったが、とんだ出来損ないだな」
「なんだとっ!」
怒声とともに放たれた水の槍をヒラリと躱す。距離が空いているため、回避は容易だった。
火球に氷塊、雷の矢、水の刃。次々と魔法が繰り出されるが、怒り狂っているのか照準は滅茶苦茶だ。適当に身体の軸をずらすだけで躱せるし、動く必要がないものさえあった。
「魔法の扱いも杜撰だ。この世界では大して苦労せず生きてきたんだろう」
「黙れ! カスが調子に乗るなよ。オマエだけは絶対に殺してやる!」
再び彼の周りに黒い霧が充満する。次に現れたのは魔法を扱う《フレアファントム》と《フローズンゴースト》だった。
今度は取り巻きの魔物と共に波状攻撃を仕掛けるつもりらしい。判断は悪くないが、あまりにも見え見えな行動。
使いたくはなかったが、闇魔法を解禁する時だ。素早く《ダークボルト》を連射すると、たちどころに霊魂たちが消滅する。代償として身体が悲鳴を上げたが、もはやこの程度は慣れたものだ。
「クソッ! 役立たずが!」
「自分で召喚しておいて、身勝手な奴だな」
「なんだ……なんなんだオマエは! なんで、この状況で、そんな余裕でいられる!」
「お前が弱いからだ」
知識の差だけではない。弱者として必死に足掻いてきた者と、強者として驕って生きてきた者の違い。
このシルヴァンという男、力はあるが実戦経験が少なすぎるのだ。各地で魔物を放っていただけで、本人が直接戦う機会はほとんどなかったか、あっても力任せに終わらせていたに違いない。
マリーやマリウスといった化け物に等しい魔法使いを目にしてきたし、いつも近くで魔法を行使している相棒もいるため、目は肥えている。
「弱い……弱いだと!」
「そうだ。ここは付け焼き刃でどうにかなる世界じゃない。お前と戦ってはっきりと分かった」
「ふ、ふざけるなよっ!」
彼の杖の先に凄まじい力が集っていく。上級魔法を準備しているのが一目で理解できる。
食らえば間違いなく死ぬ。だが、発動に時間がかかる魔法をなんのお膳立てもなしに使おうとするのは愚の骨頂だ。
《ウィンドブースト》を発動し、跳躍。瞬く間に距離を詰め、水平斬りを繰り出した。
「がああああっ!」
「アンデッドに乗り移っても痛覚はあるんだな」
これもデメリットの一つ。魔物であれば止められなかったかもしれないが、中身はあくまで人間。痛みに耐えきれなかったのか、シルヴァンの杖が床に落ちる。
そのまま連続で斬撃を見舞うと、彼はその場に倒れ伏した。あまりにも呆気ない終焉。やがて骸骨が消滅し、その場に元の身体が現れる。
「が、はっ……! ぐあああああぁ……ッ!」
「やっぱり反動はあるか。闇の力に、そんな都合のいいものがあるはずないからな」
シルヴァンが地面をのたうち回る。《憑依》が解除された後に来る肉体への負荷だろう。使いたくないと言っていたのも頷ける。その苦痛を想像したくはない。
「く、そ……ボクは、認めない……! オマエ、なんかに……」
この有様では継戦は不可能。戦いは終わりだ。
何が彼を突き動かしていたのかは分からない。しかし、これで惨劇の元は断たれた。
「お前が万全の状態だったら結果は分からなかったかもしれないな。フィノアの心を弄んだ罰だ。人を人とも思わないお前には相応しい結末だと思うぞ」
悶えるシルヴァンに対し、キョウヤは剣を突きつけながら冷たく言い捨てた。




