表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ティルナノーグの冒険者  作者: 有機エリー
三章 王都 リグブレス 前編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/134

第77話 少女の軌跡

「うーん……フィノアさん、ですか。申し訳ございませんが、わたくしではお力になれそうにありません」


 心苦しそうに頭を下げるのは、栗色の髪を一つ結びにしたソフィーだ。

 キョウヤは丸一日休息をとった後、フィノアの足取りを追い始めていた。

 手始めに冒険者ギルドに寄ったが、さすがに個人の情報は簡単には手に入らない。


「いえ……こちらこそ、無理を言ってすみませんでした」

「彼女については、わたくしも目を光らせておきます。それから、中断されている試験はいつでも再開できますので、ご都合のよろしい時に仰ってくださいね」

「はい、ありがとうございます。この件が片付き次第、お願いしようかと思います」

「かしこまりました。キョウヤさん、どうかお気を付けて」


 色々と気遣ってくれる彼女に感謝し、冒険者ギルドを後にする。建物の外に出ると、すぐにミレイが駆け寄ってきた。


「どうだった?」

「ソフィーさんに聞いてみたけど空振りだった。そっちは?」

「ずっと見ていたけど、それっぽい姿は見当たらなかったよ」

「そうか……」


 ギルド前の中央広場や大通りを通るかと思ったが、そう都合良くはいかないようだ。

 既に都市の外に出ている可能性も考慮しなければならない。もっとも、その場合は追跡するのは困難だが。


「とりあえず衛兵に聞いてみるか」

「そうだね。北門か南門、どっちから行く?」

「北から行こう」


 王都には北と南の二箇所に門がある。もしシルヴァンを追っているのならば、一度姿を現した北の街道が第一候補だ。

 北門前に立っていた衛兵の一人に声をかけると、訝しげな目を向けられる。だが、彼は隣にいるミレイの姿を認めると態度を改めた。


「ミレイ様! 何かご用でしょうか!」

「……人探しをしているのですが、ご協力いただけますか?」

「もちろんです!」


 羨望の眼差しを浴びた彼女は困惑したものの、すぐに気を取り直して話し始める。


「短めの茶髪にボロボロの黒いローブを着た少女なんですが、ここを通りませんでしたか?」

「ううむ……今朝はそのような方は見かけておりませんね」

「そうですか。ありがとうございます」

「とんでもないです! お役に立てず申し訳ありません」


 慎ましく礼をする衛兵に他意はないだろうが、温度差があるのは否めない。

 そそくさと来た道を引き返すミレイを追い、彼女の隣に並んだ。


「昨日の今日で、すっかり有名人だな」

「人柄ではなくて力を崇められている感じがして、あまりいい気はしないけどね」

「王宮にも事情があるんだろう」

「うん、分かってる。こういうのも覚悟の上だったから、後悔はしていないよ」


 そう言い切る相棒は真っ直ぐに前を見ており、全く憂いを感じさせない。

 以前にも増して強くなった彼女は、いつか手が届かない場所へ行ってしまいそうに思えた。


「……キョウヤ?」


 気付いた時にはその手を握っていた。対するミレイは目を丸くして、こちらの顔と繋がれた手を交互に見ている。

 今はまだ彼女に釣り合うほどの強さはないかもしれない。それでも、自分はこの少女の隣に立ち続けたいと願う。


「一人で抱え込むなよ。いつでも俺を頼れ」

「散々無茶をしてきたあなたがそれを言うの?」

「う……それとこれとは話が別だろう」

「安心して。わたしはキョウヤみたいに無謀じゃないから」


 ミレイは面白そうに冷やかしてくる。余計な一言を付け足す癖は以前と変わっていない。


「相変わらず、可愛くないな」

「昨日は可愛いって言ってくれたのに」

「……忘れろ」


 やはり口では彼女に敵わない。恥ずかしい台詞を掘り返され、目を逸らすことしかできなかった。


「ほら、早く南門に行かなきゃ」

「おい、手を放せ……!」

「あなたから握ってきたのに、それは自分勝手じゃない?」


 固く繋がれた手を引っ張られ、無理やり連れていかれる。衆目に晒される中、ミレイは意気揚々と歩いていた。

 相棒の笑顔を目にすると、瞬く間に不安が吹き飛んでしまう。その内に宿る力と同じように、彼女自身もまた輝いて見えた。



 やがて、キョウヤたちは都市の南門に辿り着いた。交通の要衝である北門とは異なり、こちらは閑古鳥が鳴いている。

 この場を守っている二人組の衛兵も、ミレイに対してうやうやしい物腰を見せた。北門の衛兵と違っていたのは、有力な情報を持ち合わせていたことだ。


「ああ! 一時間ほど前に確かにここを通りました。お前も見たよな?」

「ええ。ボロボロのローブに虚ろな目をしていましたので、印象に残っております。お探しの方かどうかは存じ上げませんが……」


 衛兵たちが確認し合うように口を開く。そのような特徴的な人物は、フィノア以外には考えられない。


「どこへ向かったかは分かりますか?」

「いえ、そこまでは。しかし、ここを通ったとなると《カーズ地下霊園》の可能性が高いでしょうね。単独で《フューズ大森林》に立ち入るのは無謀ですから」


 ミレイの問いかけに、衛兵は当然だと言わんばかりに返答した。

《カーズ地下霊園》は王都の南に存在する迷宮ダンジョンだ。適正ランクは3で、主にアンデッドの魔物の住処となっている。

 そして《フューズ大森林》は街道の南端に広がる森林地帯。迷いの森とも呼ばれ、正しい道を選ばなければ抜けられない難所である。

 正常な思考ができる者ならば、後者はあり得ないと断言できる。とはいえ、今のフィノアが何を考えているかは分からない。


「ご協力、ありがとうございました」

「いえいえ、ミレイ様のお役に立てて何よりです!」


 ミレイが衛兵の二人に手を振ると、彼らは満面の笑みで送り出してくれた。まるでアイドルとファンを見ているようだった。


「お疲れ、ミレイ」

「ありがとう。やっぱり慣れない……」

「なかなか様になっていると思うぞ」

「……馬鹿にしてる?」


 先ほど茶化されたお返しをすると、彼女は頬を膨らませて不平を露わにした。

 実際のところ、半分は本音だった。その立ち振る舞いからは気品が感じられたのだ。

 衛兵たちが快く協力してくれるのも、ただ光の力を敬っているという理由だけではないだろう。

 

「それで、どうするの?」

「霊園が優先だな。付近に冒険者がいれば聞き込みもしていこう」

「分かった」


 ひとまず捜索の範囲は絞られたが、アンデッドの巣窟というと嫌な予感は拭えなかった。

 そこまで強力な魔物は生息していない記憶はあるものの、この世界では何が起きてもおかしくはない。

 閑散とした街道をミレイと共に急ぎ足で歩いていく。フィノアを救い出す戦いはここからが本番だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ