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ティルナノーグの冒険者  作者: 有機エリー
三章 王都 リグブレス 前編

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第67話 己の道

 未だ爆発の影響で熱気が漂う街道を疾走すると、焼け焦げた臭いが鼻を刺す。

 周囲の木々にまで燃焼していないのは、マリーの魔法の制御が卓越しているからだろう。

 地には燃え尽きた魔物たちが残したコアが散乱し、その先ではフリードが交戦中だ。

 彼の背後にアインス、敵の側面にキョウヤ、その後ろにミレイが布陣する。


「フリード、待たせたね。マリーの援護を頼めるか?」

「クハハハハッ……! なぜ俺が、下がらねばならんのだ? 久々の大物だ……もっと、楽しませろっ……!」


 フリードは喋りながら武器を振り回し、迫るメイスを真っ向から受け止めた。大人の三倍近くもある巨体の攻撃も、黒髪の斧使いの前では形無しだった。


「そいつの攻撃はメイスだけじゃない。それに雑魚が多数召喚されるという情報もある」

「フッ……! なら俺たち二人で、ればいい。後ろは、マリーとリーゼだけで十分だろう……。他のパーティなど、邪魔なだけだっ……!」

「悪いけど、これは遊びとは違う。リーダーとしての命令だ、下がれ」


 アインスの鬼気迫る物言いに何かを感じ取ったのか、フリードの視線がキョウヤを射貫く。

 なぜ、あんな奴が――そのようなことを言いたげに、彼は顔をしかめていた。


「……らしくないな。嫌いな奴と、手を組むなど……」

「今回だけだ。覚悟はあるようだからね」

「……そうか。お前が認めたのなら、いいだろう……」


 フリードがメイスを弾き返すと同時に後ろへ跳ぶ。

 重量感のある動作で追跡しようとする魔物の前に、アインスが立ちはだかった。


「さあ、始めようか」


 彼が武器を構えたように見えた瞬間、既に剣が閃いていた。

 桁外れな速度、そして圧力。巨大な体躯を覆う鎧に裂傷が生じ、敵は困惑したように足を止める。

 アインスの目は真剣そのもので、荘厳なオーラを纏っているようにも見える。その姿は、まるで本物の勇者のようだ。


「……期待は、裏切るなよ……」


 フリードが不敵な笑みを浮かべながら、こちらに目をやりながら後退していく。

 彼なりの激励に首を縦に振って応えると、キョウヤは宿敵である魔物に向けて駆け出した。


「キョウヤ、絶対に敵の正面には立つな! あとは好きにやれ。最悪、僕がなんとかしてやる」

「ああ、分かっている。お前の足を引っ張るつもりはない!」


 アインスに向けて返答しながら、硬直している敵の側面から斬りかかる。

 ガキンッ、と甲高い音とともに、己の腕を電流が走ったような感覚が襲った。


「ッ……!」


 金属だけあってさすがに硬い。それでも、確かな手応えはあった。白銀の鎧には擦ったような浅い傷が付いている。

 反撃を警戒して一度距離をとるが、敵はキョウヤの方を見向きもしなかった。直前のアインスの一撃が相当効いたと見える。


 振り上げられた巨大なメイスがアインスに迫る。その緩慢な攻撃の隙を突き、キョウヤは敵の背後に滑り込んだ。

 即座に一撃――今度は腕に衝撃が返ってくることはなかった。温かい火が己の身体を覆い、力がみなぎっている。ミレイから付与された《ファイアエンハンス》の効果だ。

 彼女の方をチラリと見やり一笑すると、無心で斬撃の嵐を見舞う。

 仇敵であるはずなのに、怒りや憎しみの感情は湧いてこなかった。これは復讐ではなく挑戦だ。


「コオオオォ――」


 不気味な音が響き渡ると同時に、《ホロウソルジャー》の集団がアインスの周囲に出現した。これで体力の三割以上は削ったということだ。

 正対するアインスが臆することはない。マリーの魔法が、リーゼの矢が、次々と鎧兵士を引き剥がしていく。そこには揺るぎない信頼関係があった。


 アインスが軽やかな足取りでメイスを躱すと同時に一閃、敵の脚を斬り刻むと、ついにボスの動きに変化が表れた。

 頭に揺れる青白い炎が激しく燃え盛り、そこから火の玉が降り注ぐ。それが地面に着弾した瞬間、小規模の爆発を引き起こした。


「チッ、面倒だな!」


 アインスが悪態をつきながら後退する。さしもの彼も、物理と魔法の同時攻撃に反撃を入れるのは困難なようだ。

 キョウヤも一度態勢を立て直し、落ちてくる火球の軌道を見極める。まだ戦いは中盤、焦りは禁物だ。

 と、そこへミレイの《ルミナスレイ》、次いでリーゼの《ディバインショット》が弱点の炎を射貫く。

 間もなくして追加の鎧兵士が出現した。一回目は六体だった鎧兵士が、今度は八体。やはり記憶通りの挙動だ。


「さっきより数が多いわね。フリード、援護は頼んだわよ!」

「……ようやく、仕事か……!」


 先ほどと同じようにマリーとリーゼが注意を引き、彼女たちの元へ向かう敵の前にはフリードが立ち塞がる。彼が斧を振り回すと、鎧兵士たちが彼の元へ殺到した。


「フリード、五秒後よ!」

「……了解……」

「――吹っ飛べっ!」


 彼が寸分違わず飛び退くと同時に、準備を終えたマリーが《ブレイズキャノン》を放つ。

 再びの大爆発に、思わず目を背けた。烈風が吹き荒れ、高熱が肌を襲う。


「おい、盾が光ったぞ! よそ見をするな!」


 アインスの忠告を受け、キョウヤは咄嗟に後方へ跳んだ。直後、地に叩きつけられた大盾から、放射状に青白い炎が拡散する。

 だが、灼熱はミレイの《セイクリッドバリア》に阻まれ、こちらに届くことはない。光の力を惜しみなく使う彼女から、絶対に護るという意志が伝わってくる。

 アインスの眼前にも同じように光の結界が張られている。彼は左手を前に突き出し、()()を行使していた。


「お前も光魔法が使えるのか……!」

「フッ、当たり前だ。僕は《光のつるぎ》のリーダーなんだからな」

 

 こちらがミレイと協力している中、アインスは単独でそれ以上の力を発揮している。

 かつてゲームで描いた器用万能そのものの姿を前に、キョウヤは斬撃を繰り出しながら密かに敬服していた。


 そして、三度目の召喚。鎧兵士の数は十二体。

 アインスも危機感を覚えたのか、そのうちの一体を剣で吹き飛ばして包囲を突破する。


「さすがに多いわね。この数を一発で倒すのは無理よ」

「フリード、囲まれないように気を付けてください」

「……フハハハッ! 俺がそんな失態を、するものかっ……!」


 後衛の三人に焦りは見られないが、あの数の殲滅には時間はかかるだろう。

 頭上から降り注ぐ火の玉は数え切れないほどに増え、おまけにメイスの攻撃速度も上昇していた。狂乱する魔物に近付くのは至難の業だ。

 ミレイが頭を目がけて光線を放つも、計ったように大盾に無効化される。次にアインスの剣から光の刃が飛んでいくが、やはり弾かれてしまう。この状況では遠距離からの攻撃は通じない。


「おい、キョウヤ。接近さえできれば、決められると思うか?」

「アインスの力なら、可能かもしれないな」

「そうじゃない! お前がやれるかどうかだ。できないなら一度下がって後衛の援護をしていろ! フリードの手が空けばそれで終わりだ」


 安全性を考えるならば、それが合理的だろう。だが、本当にその選択で良いのか。

 答えは否。あれだけ啖呵を切っておいて、結局最後は他力本願などもってのほかだ。


「やれる……いや、やらせてくれ」

「なら、今すぐ奴の背に向けて走れ! 最後はお前に譲ってやる!」


 アインスが剣を一振りすると、またしても光の刃が飛んでいく。しかし、今度は敵の本体を狙う軌道ではなかった。

《ウィンドブースト》を使用して駆けるキョウヤの先の空中で、次々と小さな爆発が起こる。刃が火の玉を追尾して破壊しているのだ。

 それは未知の事象だった。己の記憶にそのようなスキルや魔法は存在しない。

 だが、今はそんなことはどうでも良い。あのアインスが、自分のために道を切り開いてくれている。


「キョウヤ! わたしの力、使って!」


 相棒の叫びに、キョウヤは敵の目前で剣を構える。刹那、足元から石の壁がせり上がってきた。

《ストーンウォール》、本来は防御に使う魔法を土壇場で応用するミレイに舌を巻く。これなら敵の上をとれる。

 続けて彼女の《ファイアエンハンス》が付与されると同時に、キョウヤはこれまでにない殺意を込めて敵を見据える。火と闇が合わさり、激烈な力が己の身体を渦巻いた。


「うおおおおおっ!」


 雄叫びを上げながら、跳ぶ。両手持ちしたバスタードソードに魔力を込め、上段から振り下ろす。

 両手剣スキル《レイジングインパクト》が、金属音を立てながら敵の巨体を斬り裂いていく。

 一瞬の静寂――キョウヤが地に降り立った時、《ヴォイドガーディアン》の白銀の鎧は二つに分かたれていた。

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