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ティルナノーグの冒険者  作者: 有機エリー
二章 交易都市 オルストリム

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第42話 暗影

「やれやれ……面倒なことになりましたね」

「勝手な奴らだ。あいつら、自分の力に酔っているんだろうね」


 クラウザたちが奥へと消えた後、マリウスとティアナは不快感を露わにした。リベルは彼らを抑えつつ、ランドとフィノアの方へ向き直る。


「仕方ない。俺たちは魔物の殲滅に回るぞ。二人とも、こちらに付いてくれたことに感謝する」

「とんでもないです。僕たちも安全が第一ですから」


 白黒の兄妹が参加していたのは不幸中の幸いといえる。もし彼らがいなければ、《フリーダム》の六人だけで後詰をすることになっていたかもしれない。

 キョウヤは彼らのやり取りを聞きつつ、隣に立っていた紺の少女に声をかけた。


「クロエ、気にするな。君の努力は無駄にはならない」

「あなたの強さは、わたしたちが保証するよ」

「先輩、ミレイさん……ありがとうございます」


 彼女は笑顔を作ってみせたが、それが上辺だけの表情であるとキョウヤには分かってしまった。

 元仲間に直接役立たずなどと言われれば、傷を抉られるのは当たり前だ。そんなことを平然と口にできる連中に憤りを覚えた。

 しかし、今のクロエは大幅に成長している。もし《アウトレイジ》が次に彼女の戦闘を見る機会があれば、二度と誹謗中傷などできないだろう。


「おっと、早速敵だよ」


 ティアナの一言に、その場の全員が身構える。

 枝分かれした道の一つから、巨大な赤いコウモリの姿をした《ブラッディバット》が複数飛んできた。


わたくしにお任せください」


 マリウスがスタッフを掲げると、空中に生成された氷柱が降り注いだ。氷属性中級魔法《アイシクルレイン》に打たれた魔物たちが一瞬で絶命する。

 今までキョウヤたちに合わせてきた彼だが、どうやら今は手加減する気がないらしい。


「容赦ないな、マリウス」

「当然です。不愉快な任務は一刻も早く終わらせて帰りたいのですよ」


 普段の笑みはどこへやら、リベルに応えるマリウスの切れ長の目は真剣そのものだ。

 何を考えているか分からない笑顔も不気味だったが、これはこれで威厳があって近寄り(がた)い印象を受けた。


「それもそうだな。よし、二手に分かれてさっさと掃除を終わらせるか」


 三方に分かれた道の中央を他の十人が突っ切っていった。最奥を目指すだけなら最速ではあるが、枝分かれした道は途中で合流することを忘れてはならない。

 もし左右の道を徘徊している魔物が中央に雪崩れ込んできた場合、撤退の妨げになる可能性があるのだ。


 バランスを考慮してキョウヤ、ティアナ、ランド、フィノアが左側を、ミレイ、クロエ、リベル、マリウスが右側の通路を担当することになる。

 しかし、キョウヤの出る幕はなかった。遭遇した魔物の大半は接敵前にティアナの《マジックアロー》に貫かれている。まるで憂さ晴らしでもしているかのようだ。

 彼女が撃ち漏らした残りをフィノアが魔法で吹き飛ばしていくため、一撃を入れることすらできない。


「僕たち、出番がありませんね……」

「……ああ、ないな」


 ランドが寂しそうに耳打ちしてくるが、キョウヤは苦笑しながらそう返すしかなかった。

 ここで見境なく前に出ても、ティアナたちの邪魔になってしまうだけである。

 マリウスが言っていた通り、この依頼はさっさと終わらせて帰りたいのだ。足並みの揃わない状況でノロノロと進行しているわけにはいかない。


 やがて、分かたれた通路が中央に合流して広間に出るが、クラウザや《アウトレイジ》の面々の姿はない。既に奥のフィールドボスが鎮座する場へ進んでいるのだろう。


「リベルたちはまだのようだね。さて、どうするか……」

「あの、先に進んで他の人たちの様子を見てきて良いですか? 僕はここまでお役に立てなかったので」

「ん、まあ構わないよ。ただし、合流するまで勝手な行動は慎むんだよ」


 クラウザたちが直進したのであれば、魔物と遭遇する可能性は限りなく低い。

 何も仕事がなかったため、ランドは決まりが悪いのだろう。それはキョウヤとて同じだ。


「ランド、俺も一緒に行くよ」


 こうして、一度も剣を振るうこともなかった剣士二人は、先行した冒険者たちを追って奥へと歩を進めた。

 通路を抜けた先の開けた空間では、予想通り十人が窪地でボスと戦闘中だった。


《マジックゴーレム》と呼ばれるそれは、石で作られた人形とでもいうべきだろうか。

 大人の二倍以上の体躯を誇り、最奥で光る魔石ませきと同じように、構成する石は紫色の光を放っている。

 そのゴーレムの胸の辺りにエネルギーが集まり、下方に向けて極太の光線が撃ち出された。


「派手な魔物ですね……あの人たちは大丈夫でしょうか?」

「問題ない。もう終わる」


 ランドの問いかけにキョウヤは即答した。それは予想ではなく、確かな根拠がある。

 魔物には行動パターンがあり、それは《ティルナノーグ》のゲームに準じている。今しがたの光線はHP(ヒットポイント)が残り少なくなった時に解禁される行動だった。


「オラァッ!」

「シネエエェ!」


 汚い罵声とともに冒険者たちの攻撃が繰り出されると、間もなくゴーレムが崩れ落ちる。結局、今回は突っ立っているだけで終わってしまった。

 とはいえ、緊急依頼はそういうことも珍しくないとソフィーから聞いた覚えがある。失敗しないように人員に余裕を持たせているとのことだ。

 クラウザが自信ありげに口を開いていたのは、この結果が見えていたからだろう。人間性はともかく、実力を備えた中級冒険者には違いないのだから。


「はあ、戻るか……」

「……あの、あれはなんでしょうか?」


 ため息を吐きながら踵を返したキョウヤの耳に、ランドの訝しげな声が届く。

 次に轟いたのは――先刻までゴーレムと戦っていた冒険者たちの悲鳴だった。

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