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王太子から冷遇され、婚約破棄をしたら記憶を失い、君の記憶に彼は存在するのだろうか?  作者: 猫又 マロ
最終章

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静寂な日々の中で

目を覚ましたマリエットに、会いに行くロキシー。だが、その静寂の中で静かに迫る闇の気配。


翌朝、鳥のさえずりが聞こえロキシーはゆっくりと瞳を開いた。 見慣れた天井が視界に映る。だが意識はまだ夢の中に置き去りにされたまま、暗闇の中を一人で歩いてるような感覚でいた。 その先で、かすかな光が見えた気がする。 伸ばしたが、手は届かず、それでも必死に光を追いかけ、そこでロキシーは目覚めた。夢なのか、現実なのか分からないまま胸の奥に残る奇妙な感覚を抱えながら、ロキシーは身体を起こした。 寝室の扉が控えめにノックされる。


「ロキシー様、おはようございます。お目覚めでございましょうか」


ロキシーが返事をすると扉が開き、執事のゲルドが入室する。銀のポットから紅茶を注ぐ音が静かな部屋に響いた。ロキシーが寝台から足を下ろした頃には、温かな紅茶がテ ーブルの上に用意されていた。


「ご報告がございます」


ゲルドが静かに頭を下げロキシーに告げる。ロキシーがカップに手を伸ばした。


「フラン様が、お目覚めになられました」


その瞬間、ロキシーの動きが止まった。カップを持つ手がわずかに震え、ゲルドが一通の手紙をロキシーに差し出した。


「書簡でございます」


ロキシーは、急いで書簡の封を切って、中の手紙を広げ目を通し読んでいた。―覚悟はしていた。マリエットを傷つけた件で叱責されるのだろうと。あるいは二度と彼女と会うなと言われるかもしれないと。ロキシーの喉が小さくなった。


しかし、そこに書かれていた言葉は違っていた。


―娘が目を覚ました瞬間、君の名を呼んでいた。

よければ、会ってやってくれ。


短くそれだけだった。私を責める言葉は一つもなく、非難も怒りもない。ロキシーは思わず手紙をくしゃりと握り、肩が震え、視界が滲む。あれほど取り返しのつかないことをしたのに、何故なんだろうと。全てを失ったと思って覚悟はしていた。 ぽたり、と涙が落ちる。 止めようとしても、涙が止まらなかった。


その後ろ姿を静かに見つめていた執事のゲルドが、口を開いた。


「ロキシー様…それと、もう一つお耳に入れておきたいお話がございます」


しばらくしてロキシーは涙を拭くとソファーから立ち上がり出かける用意をと、ゲルドに指示を出した。


✦✦✦


馬車で城へと向い、彼女の病室の前にロキシーが立ちつくしたまま、扉の向こうには、マリエット、メルがいる。 抱きしめたい、謝りたい、同時に、拒絶されるのではと怖かった。 どんな顔をして彼女に会えばいいのか分からない。そんな考えが頭によぎり、ロキシーの足を止めていたのだった。


「そこにいるのは、ロキシー?」


聞き慣れた優しい声だった。 そして意を決して、ロキシーは前に進み扉を開けると、 白いカーテンの向こうで、ベッドに座るマリエットのシュルエットが見えると、ロキシーは、カーテンを開けて駆け出し、彼女の身体を強く抱き締め、 震える声が漏れた。


「マリー、傷つけて…本当にすまなかった」


それ以上、ロキシーは何も言えずに彼女の温もりを心臓の鼓動が聞こえるだけで安堵していた。 マリエットは驚いたように目を輝かせる。 すぐに優しく微笑むと、ロキシーの髪をそっと無でた。


「ロキシーって、いつから泣き虫だったかしら?」


マリエットが、くすりと笑う。


「そんな顔しなくても、いいのに」


やがてロキシーは、マリエットの身体を離した。 陽の光が、彼女の笑顔を眩しく輝いていて見せていた。 胸が痛むほどに。


「ごめん…傷つけて、痛い思いをさせて…」


再びロキシーが謝る。 マリエットは首を横に振った。


「私が止めに入ったんだから、自分を責めないで」


ロキシーは、視線を下げ挙を強く握り締める。 その手をマリエットが、優しく包み込んだ。 そして優しい瞳で見上げてくる。


「大丈夫だから」


まるで何事もなかったかのように微笑む。 それがマリエット、メルなんだと。


「ロキシー、椅子に座って」


促されるまま、椅子に腰を下ろすと、窓の外では柔らかな陽光が庭を照らしていた。しばらく景色を眺めていマリエットがぽつりと言う。


「ロキシー、もう少ししたら、破滅の扉が開くかもしれない…」


穏やかな空気が張り詰め、マリエットの顔色が変わるのを見て、ロキシーは眉をひそめる。


「破滅の扉?」

「私にもまだ分からない。でも、とても嫌な予感がするの」


マリエットが不安そうに咳いた。その言葉を聞き、口キシーは昨夜の夢を思い出す。


「マリエット昨日、変な夢を見たんだ」

「夢?」


ロキシーは小さく領き、暗闇の中を一人でさまよい、歩き続けていると、誰かに呼ばれた気がして立ち止まり、歩み寄ろうとした時、遠くから眩い光を見た夢の話をマリエットに話をすると、ロキシーの手を掴んで震える声で彼女が答えた。


「闇に…飲まれなくてよかったわ…ロキシーまでいなくなったら嫌だもの……」


ロキシーは目を見開く、そして椅子から立ち上がると静かに彼女を抱き寄せた。


「マリーを置いて、俺はどこにも行かない」

「本当に?」

「ああ……本当だ」


ロキシーは、迷わず領いた。マリエットは安心したように微笑み、そっとロキシーの袖を握った。


✦✦✦

それから、二か月後。マリエットは無事に退院し、穏やかな日々が戻った。学園に戻ったが、フィオーレの姿はなく、誰に聞いても彼女の名前も存在すらも知らないと答えを聞くばかりに、嫌な予感が過ぎ、マリエットの足元がふらつくと、ロキシーがそっと肩を支えてくれた。


「俺が必ず、マリーを守るから」


頷くマリエットだが、闇の足音は目前に迫っていることを、まだ誰も予想すらしていないのだった。


お久しぶりです。本当に、お久しぶりの更新になり申し訳ございませんm(_ _)m少しずつ体調が戻り、更新させていただきましたが、本調子ではないので気楽にお待ちいただけると幸いです。次回から最終章のお話に入りますので、よろしくお願いいたします。m(_ _)m

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