第八十八話 朝食のひととき
エルシア様が合図すると朝食はすぐにメイドさんによって運ばれてきました。
メニューは焼きたての白いパンにプレーンオムレツ、ゆで卵入りのレタスサラダにコンソメスープです。パン用にバターとブルーベリージャム、蜂蜜も用意されています。
「パンには蜂蜜にします」
「お姉ちゃんは蜂蜜なんだね。わたしもー」
何度目になるか覚えていないぐらいに繰り返した。お嬢様とのやり取りです。
やはり大勢で食事するのは良いですね。ふっくらしたパンが蜂蜜と絡んでとても美味しいです。
「相変わらず、肉は食わないんだな。嫌いか或いは宗教か?」
「別に好き嫌いや教義で摂らない訳ではないわ。貴方と違って重いものを口にするつもりがないだけよ」
「不満はないが欲を言えばメニューにベーコンやハム辺りは欲しかったが別にいいさ」
リロ君がものすごい速度で食事を進めます。呼吸するように食事をすると聞いてますが正しくないと思いました。呼吸することよりも早く食事をしているのです。
「私からすれば異常な食事量ね」
「これでも抑えているつもりだ。珍しく兄から切り離されている状態だから食える量に上限はないのだがな」
「うーん、このまま別れたままにできないの?」
ノルカさんが尋ねます。旦那様とリロ君は二人で一つの体を共有しています。リロ君曰く、旦那様の方が本体とも主とも言えるようですが二人は肉体を切り替えて過ごしていました。不便さはあるようですが利点もあるとの事です。
今のリロ君は……確か……
「まあ、できないだろうな。今の僕は兄が保有していたフィンデル家の呪いの箱によって造られた擬似的な肉体を得ているに過ぎない。時間経過で元に戻るだろう。全く困ったもんだ」
言葉とは裏腹に困ってる様子はありません。また食事の手は一切止めていないです。追加で運ばれた料理を次々に消化しています。
「少し食事の手を緩めなさい。持ってくる方の身にもなりなさい」
「ほう……善処しよう」
言葉と裏腹に手の速度は衰えません。リロ君も旦那様と同じで相当にマイペースです。悪く言えば途轍もなく自分本位なのです。
「相変わらず自分本位……それで貴方は何をしていたの?」
「提督……父に会いに行ってた。ボクも転移するつもりだったが思ったよりも早く帰ってきたから準備は不要になったみたいだな」
「あ、リロ君、リロ君、多分必要だよ」
リロ君にはまだ説明していませんでした。
「はい。私と旦那様はもう一度行きます。ノルカさんも一緒の予定です」
「成る程、決着を付けるってことか。なら僕も……行こう。上手くいけば兄と分離した状態を維持できるかもしれない」
「マジっ!?」
ノルカサンが嬉しそうに声を上げます。突然の大声だったのでお嬢様とリッシュ君が少しビックリしています。
「叫ぶんじゃないわ。身体に悪い」
「ごめん。エルちゃんの下り坂の肌に悪影響でござった」
「……死にたいの?」
声色は冷えきっていました。
「ノルカさん」
「拙者が悪い!?」
「当たり前だ馬鹿、(本当のことでも)言って悪いことがある」
リロ君の言い方に引っかかりを感じますね、
「エルシア様、ノルカさんの言っていることは」
「いいわよ。本気で気にしてる訳じゃないわ。今はね……私は兄やレティちゃんと違って人並みにしか生きられないもの」
何故かエルシア様は私を凝視しています。お嬢様と同じ真紅の瞳は宝石よりも綺麗で不思議な気持ちになります。
「貴女は10年後も100年後も変わらず変わらず若いままでしょうね。嫉妬してる訳では無いけど羨ましくあるわ」
穏やかにでも寂しそうな表情でした。今がずっと続いていくと思っていますが少しずつ変化し終わりを迎える事はあります。大切な人との死別もその一つです。何事もなければエルシア様は私より先に亡くなります。何十年後の話ですが避けられない事実です。
「でも私はもう少し成長したいと思いますけど、身体がまだ子どもですし」
「それは大丈夫だと思うわ」
一つ一つ思い出を重ねていきたい。最後の時まで幸せを集めたいと強く願いました。
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次回は再来週の水曜日の18時〜20時の更新になります。
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