第七十六話 夢が叶うかもしれません
応接室に待たせている提督……旦那様のお父様、つまり私にとってはお義父様です。移動しながらエルシア様にどんな方か尋ねます。
「私も殆ど会ったことはないわ。ただ物腰が柔らかで品の良い紳士ね。大教授とは大分違うわね」
「あ、はは……」
旦那様に品が無いとは思いませんが物腰は……はい。
応接室には若い男性がいます。とても孫がいるとは思えませんでした。でも旦那様のお父様ということは魔女ですので不思議ではありませんね。
「久しぶりね。提督」
「突然の来訪の謝罪と多忙の中のご対応に感謝をします」
立ち上がって礼を取っていました。エルシア様と違い私とメイさんは礼をします。
提督を椅子に座るように促し、エルシア様も向かい側に座りました。
余談ですが提督の足元に置かれているゲージが気になりました。小さな動物を入れる目的のものですが中には何も入っていないのです。
「別にいいわ。タイミングが妙だけれど貴方は戻ってきたばかり?」
「そうです。久方振りに陸に戻ったので挨拶に伺ったのですが忙しい時に尋ねてしまったようですね」
「別にいいわよ。領内の催しではあるけど来賓を呼ぶことはおかしいことではないもの。参加するかしら?」
紅茶を優雅な仕草で口にすると提督は微笑みました。
「是非出席させてください」
「分かったわ。こちらこそ感謝するわ……わざわざ此処に来たのは孫に会いに来る為かしら?」
エルシア様は少々砕けた雰囲気になりました。
「ええ、顔だけでも見ておきたいと」
「そう、それが良いわ。ところで彼女のことは分かる?」
私を指しています。私は軽く会釈します。
「……いえ、初めてお会いします」
「紹介するわ。フロマージュとアイリッシュの母で妹に仕える侍女長のスエレよ」
「貴女が……話はフリングル公爵閣下から伺っています。お会いできて光栄です」
向き合った提督は旦那様とはあまり似ていませんが、少しリッシュちゃんに面影があるように思えました。
「はい。私こそ光栄です。あの子達もきっと喜ぶと思いますので顔を見せてあげてください」
「それなら良いですが……あの子達にはあまり好かれていないみたいなので」
「あの子達は隙を見せるとこっちを舐めてくるもの」
賢くて手のかからない子達ですが、反面賢いあまり周囲を軽く見る傾向があります。最たる例は旦那様に対してですね。
「すみません。私の」
「良いのよ。大教授と違って双子は情緒というかムードは分かる方よ。まあ大教授は馬鹿と違って敢えて読まないみたいだけど」
長所も短所も表裏一体と考えるのがエルシア様です。だから寛容なのですが私としてはあの子達の態度は少し改善が必要だと思っています。
「私も気にしなくて良いと思います。賢くてもまだ子どもですので身体が成長すると共に精神も成長します」
「初めて会った時から変わらないのも稀にいるけどね。それより気になってたんだけどそのゲージは何?」
提督は持ってきた空のゲージを机の上に置きました。
「少し失礼しまして……おいで」
ゲージが眩く光ると茶色の丸そうなものが現れました。
丸そうなものは動き出しました。
「ワンちゃん!?」
「拾った仔犬です。もし良ければ飼いませんか?」
「思いもよらない提案ね。貴方が面倒を見れば」
エルシア様は断るつもりのようでした。でも……
「私は猫派ですので」
「本気なのか冗談なのか判断しづらい理由ね。……上目遣いするなっ!」
ワンちゃんがエルシア様を見つめています。とても可愛いです。いえ、もの凄く可愛いです。
「クゥン」
「媚びた声出しても……」
「エルシア様ぁ、可哀想ですし可愛いから飼いましょうよ」
メイさんが訴えます。内心で私も大きく頷きました。
「一つ良いかしら。何処で拾ってきたの? 狼と違って犬なんてヴァルナムシアじゃ相当珍しいでしょう」
「陸に戻った時の荷物確認で発見しました。端的に言えばいつの間にかいたのです」
それはホラーですね。魔術の存在を考えれば現象に説明はつくかもしれませんが……
「……厄ありじゃない。こっちに押し付けようとしたわけ?」
「でも可愛いですよ」
「黙りないメイ」
でも可愛い……私も同意です。
「エルシア様、お許しいただけるのなら私が」
「……呪いに関する可能性は?」
「今のところはないと思っています」
「そう……一旦保留ね。暫く預かるのは認めるわ」
溜め息を吐きながら落とし所を決めたエルシア様です。すると内容を理解したのかワンちゃんが飛び出すように走って私の足元に寄ってきました。
「懐かれたみたいね」
「はい。私は犬派ですから」
いつか飼ってみたいと思っていました。夢が叶いそうで心が躍っていました。
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