第8話 初PTプレイ(意味深)
これ大丈夫かな、R15つけたほうがいいかな……とチキッてる三三屋です。
最近の若い子は進んでるらしいから大丈夫やろ……と思考放棄気味に書きましたが許してください。
「す、すごい……二人ですると、こんなふうになるんだ……」
「みたい、だな。……俺、初めてだからよく勝手が分からないけど、頑張るから」
若い男とわかる二人の声が、どこか興奮の色を伴って響く。場所はグルーカ公道。夕陽の朱が二人の顔を赤く染めている。しかしそれだけではない赤の色が、二人の顔には宿っていた。
二人は身を寄せあってお互いを確かめ合う。ゴクリ、と鳴らされる喉に、釣られるようにしてもう片方も喉を鳴らした。
待ち切れない、というふうに片方が身を乗り出すと、ビクッと反応しつつもどこか嬉しげに片方も受け入れの準備に入った。
「じゃあ……キて、ライト」
「あぁ……イくぞ、エミリオ」
そうして二人は――。
ピロピロリン。
【PTが組まれました】
「ふぅー。これで一安心だね、ライト」
「そうだなぁ。て言うかエミリオ。なんかさっきから周りで女性プレイヤーが凄い勢いで鼻血のエフェクト撒き散らしながら倒れてるんだけど、あれなしたんだ」
「? なんか状態異常でも食らっちゃってたのかな。まぁ死んでないみたいだし、大丈夫じゃないかな?」
「ならいいけど……。よし、じゃあ行くか」
「そうだね、行こうか」
そう、今日という日は。
待ちに待った初PTプレイ実施日なのである。
◆
「ライトッ!」
「っ。ヒール!」
呼び声に対して、ライトは即座にヒールを唱える。それによってエミリオのHPは即座にグリーンまで戻り、三体のグレイウルフと接戦を繰り広げていた。
「ライトッ!」
「ブレッシング!」
また届いた声に対して、即座にかけなおしたのは支援魔法であるブレッシングだ。ブレッシングの効果は三分間しか持たないためこまめなチェックが必要である。
「ライトッ!」
「ぅ―――オォ!」
その声に対して、ライトはいつものようにヒールを――するのではなく、あろう事か大きく前に踏み出した。
その姿に一瞬でグレイウルフの群れは矛先を変え、一斉にライトへと牙を剥きだして襲い掛かる。
その姿は獰猛だ。むき出しの本能を感じさせる姿は、それだけで涙が溢れそうになるくらい怖い。
でも。
「今の俺には――共に戦ってくれる仲間が、居るッ!」
グレイウルフ三体の動きを見極め、躱し、逸し、時には懐に潜り込んで一突き。
「す、すごい……!」
後ろからエミリオが何かに驚くような声が聞こえたが、今のライトにその言葉を理解するようなリソースは余っていない。
ただ目の前の敵を殲滅せんと片手に握り締めたメイスをシステムの動きに沿って何度か振った。
「ギャッ」「キャウン!?」「ギィッ」
そんな断末魔を残して――グレイウルフの群れがポリゴンとなって消えていく。それをどこか儚げな表情でライトは見送り、
「――ふぅ。チョロいな」
「いやいやいや! チョロいな、じゃないから! ライトのクソザコ設定はどうしちゃったの!?」
「クソザコ設定!?」
格好つけて二回ほどメイスを翻してから背中に収め、想像以上に緩かった難易度に溜息をついてると慌てたように近寄ってきたエミリオが凄いことを言ってきた。
「い、いや。ていうかそんな強くなかったし。むしろこいつらゴブリンより弱いんじゃ」
「そんなわけ無いからねぇ!? むしろゴブリンに負ける人のほうが稀なくらいだから! なんで急に覚醒しちゃってるんだよ!」
「うーん、でもなぁ……。その、エミリオがそばにいるだけで力が湧いてくるっていうか。何でも出来そうな気がするんだよ、俺」
「自分で言うのも何だけど君僕のこと好き過ぎないかなぁ!?」
「ははは」
「せめて否定してよ!?」
決してこんなに好きな友達は居ないとか、できることならこれから一生付き合って行きたい友達だとか、そんなふうには思ってない。ほんとうに。
「うーん、まぁここらじゃ大したことないみたいだな。俺とエミリオが一緒ならどこまでも行ける気がする」
「そうかい……。僕はなにかとんでもないものを目覚めさせてしまったような気がするよ……」
エミリオが遠い目をしながら呟いていたが、そこで話題を切り替えるようにして声を上げた。
「でも、ライトがこんなにプレイが上手いんだったらソロで辻ヒーラーなんてやってなくても充分パーティーでやっていけるんじゃないかな?」
「そうかぁ? でもコミュ症だから俺は……ん?」
そこでふと、ライトは違和感を覚えて足を止めた。
「あれ? 俺ってエミリオに辻ヒーラーやってた話なんてしたっけ?」
「え゛っ? あ、あはは。やだなぁ! この前言ってたじゃないかー。ほら、初めてあった時とか! 忘れちゃったの?」
「あー、あの時かー」
正直な所、ライトに話した記憶はなかったが意気投合したあの時は会話が楽しすぎて何話していたか覚えてないというのも事実の為否定できなかった。
「そんなことよりさ! 次の狩場の話なんだけど、《ウィーリズの森》はどうかな!」
これまた随分急な話題転換だな、と思いながら突っ込むこともなくライトはその話に問いかけを返した。
「《ウィーリズの森?》」
「そう。今凄いプレイヤーで人気の狩場らしくて」
ウィーリズの森。
マップを開いて確認してみれば、このままグルーカ公道をまっすぐ進み、途中で二股に別れる道を右に行けばたどり着く場所だと分かった。
「ふーん。でもなんで人気なんだ?」
ライトがエミリオに問いかける。すると、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに胸を張ってエミリオが答えた。
「それがね。まだ噂の段階なんだけど、出るらしいんだよ」
「出るって、何が?」
ライトのその問いかけに対しその口は再度開かれる。
衝撃的なそのワードを伴って。
「――《転職のオーブ》、だよ」
◆
結果的に言えば、ライトはエミリオに告げられた言葉に対し一秒の間もおかず詰め寄りすぐに向かうことを提示した。
なにせ物が物である。ライトからしてみれば喉から手が出る程に欲しいシロモノだし、今使いたくないプレイヤーでも持っていて損はないアイテムなのだから確保しておかない理由はないだろう。
そんなこんなでたどり着いた《ウィーリズの森》ではあるが、案の定と言うべきか鬱蒼と木が生い茂り、日光すらまともに差し込まない森の中には、冗談かと思うほどのプレイヤーが立ち往生していた。
「うわー……流石人気の狩場だねー……」
「なぁエミリオ。帰ろうぜ」
「はやっ!? さっきまで『手に入れるまで帰らない!』ってキメ顔で言ってたライトはどうしたの!?」
「あぁそいつね。死んだ」
「死んだ!?」
軽口を叩き合いながら、森の中へとガサガサ入っていく。
森の広さはなかなかの様で、二分程度も森の中をさまよえばさっきの人混みが嘘だったかのように人の姿が見えなくなった。
「じゃあここらへんでmobが湧くの待とうか」
エミリオの言葉に、了解とだけ返して、背中のメイスを抜き放ちいつ湧いても良いように準備を始めようとした時。
「う、うわぁ!?」
と、すぐ側から気の抜けるような声が聞こえた。
「「……」」
思わずエミリオとライトが顔を見合わせる。
どちらともなく一度頷き、声がした方向へ進むと――居た。
そこに居たのは、多分。声の主であろうまだ歳も15歳位の少年と、普通のゴブリンとは違って身体にカモフラージュするかの様に葉っぱや蔓を巻き付け顔にペインティングを施したゴブリン――フォレストゴブリン2体。
尚、どこからどう見ても少年の方がやられそうになっていた。
「おーい、キミー。助けはいるー?」
「!?」
横のエミリオがなんて事無いように初めてあったであろう少年に声かけた。ライトはその姿を驚愕の眼差して見つめながら、でもまぁこれがエミリオだよなぁ。とどこか納得していた。
「あ、うわ! た、頼む! 助けて! ひぃっ」
「了解。行くよ、ライト!」
「あ、お、ちょっと待てぇ!」
イケメン過ぎる友人の背中を追いかけ走り出すライト。
尚フォレストゴブリンはエミリオの活躍によって二体ともポリゴンへと還った。
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