第12話 すれ違い 勘違い
大変おまたせしました。土曜日を心の底から満喫しまくってたら遅れました。三三屋です。
いやー、だいぶ終わりに近づいて来ましたね。もうここまで来たかーという感じです。
え? なんの話かって?
勿論、ストックの話に決まってるじゃないですか……(げっそり
どうぞ。
金曜日の放課後。案の定クラスから他のクラスの生徒達にも話が伝わっていたらしく、その日の輝はどう学年には飽きたらず先輩にも後輩にも珍獣のような目を向けられた一日だった。
なんとか帰ってきた輝は玄関のドアを開いて中に入ると――その場で崩れ落ちた。それと同時に母親のおかえりーという声が聞こえてくるが、返事をする気力もない輝はまるで足を欠損したゾンビゲーのmobよろしく、ずりずり地面を這って部屋まで向かいベッドに倒れ込んだ。
「もう何も……したくない」
劇画タッチな顔で呟き、ブレザーをもそもそ脱ぎ捨てる。
『それでは月曜日、生徒会でお待ちしていますね』
頭の中をリフレインしたのは、最後の生徒会長の言葉。
輝にはすぐに分かってしまった。
あの言葉の真意が。どんな思いを込めて、彼女がそういったのか。
頭に残るのは、本人は気付いていないだろうが、赤く染まった顔に、どこか悩ましげに潤んだ瞳。
あの顔は間違いない。
こいに――。
「故意に、人を殺ろうとしてる眼だった」
つまり、生徒会に呼び出した所を殺るつもりなのだ。
だってあんな顔真っ赤にして怒ってるし。
生徒会室という密室に俺を呼び出して袋叩きが妥当な線だろう。まさか先日の件でお礼をしたいから呼び出すとかいう安易で安っぽい慧が思いつくようなラブコメ的展開なんてまず排除して掛かるべきだし。
はぁ。かと言ってどうそれから逃げればいいのか思い浮かぶわけでもなく。逃げ道など残されているわけもなく。
ごろりと寝返りを打つ。
「いたっ」
すると、おでこに硬いものがガチャっと当たる。なんだと見てみれば、そこにあったのは近未来的デザインの施されたサングラスとヘルメット型の部分が一体化したVR専用機。
…………。
時間を見れば、午後4時。
夕食にはまだ2時間程度の余裕があった。
まぁ、悩んでてもどうにもならないし?
それより有意義に時間を使ったほうがいいし?
「……《ダイブ・イン》」
愚かにも誘惑に負けたゲーマーが、もう一つの現実へと逃げ込んだ。
◆
「はぁぁぁぁ……」
「あの……」
「はぁぁぁぁ……」
「いや、あの」
場所は喫茶店。エミリオとパーティーを組む喜びを知った日から、めっきり辻ヒールへのモチベーションが下がってしまったライトは、30分程度の辻ヒール活動で切り上げ、結局待ち合わせの時間までやる事もなく喫茶店に入って時間を潰そうとしていた。
していたのだ。
ちらっ。
…………。
「はぁぁぁぁぁぁ…………」
『露骨にこっちを見てため息吐いた!?』
ライトが今座っているのは、いつもの2人掛けの隅っこにある小型席ではなく、喫茶店の中でも奥の方にある、6人掛けの大人数用席だった。
そう。そこにいたのはライトだけではなく、最近出現率が異常に高い美少女パーティーのメンツだった。
ライトは力なく笑って答える。
「いや、すいません。気にしないでください。ただずっとここで溜息を吐いてチラチラ目配せして分かりやすく邪魔だなぁと思いながら伺うだけなんで、どうぞお気になさらず」
「それお気になさらずって言う人のやることじゃないわよねぇ!? すっごい気になるんだけど、そしてすっごい面倒くさいんだけど!?」
「じゃあ一人にさせてくれればよかったじゃないですか……」
「ぅ、それを言われるとちょっと……」
これまでのように気を使ってる余裕もなく、珍しくストレートに言葉を返すライト。
その姿に目の前で座る美少女パーティーの皆はさっと顔を逸らした。
「大体、何があったのよ。悩んでるのはわかるけど、解決しないんだったら人に話してみればいいんじゃないの? それくらいは聞いてあげるわよ」
「? 悩みを、人に、話す……?」
「ごめんなさい。私が悪かったわ。私が悪かったからその、人生でそんな場面ってあるの? っていう心底不思議そうな顔をやめて。泣きそう」
確かに、奈々の言い分に間違いはなく、このFLO内の喫茶店に来てから、かれこれ30分近くライトは一人でホットココアをすすりながら、打ち上げられた魚みたいな顔をしていた。
確かに悩みといえば悩みである。少なくとも一人で非生産的に悩み続けるよりかは相談したほうがいいだろうと思い、ライトはしっかり奈々達へと向き直った。
「……それじゃあお言葉に甘えて、相談させていただきます」
「よろしい」
かと言って、自分のまとまっていない思考回路をこのまま話しても相手には伝わりにくい。
コミュ症ながらにライトは考えた。
するべきは伝える事柄をしっかりまとめ、個人情報の漏れそうな部分はマナー的にも隠して伝える、と。
「まぁ任せなさい。こう見えても私達は相談のプロと言っても過言ではないわ。いろんな生徒――じゃなくて人達から受け付ける事もあるんだから」
奈々がドヤ顔気味に胸を張って告げた言葉に、安心感を覚えながら、頭の中の情報を整理してライトはようやく口を開いた。
「詳細は省くんですけど、数日後自分が所属する組織(学校)の、最高位に位置するグループ(生徒会)の長に人気のないような密室に呼び出されて、多分殺されそう(予想)なんですけど、どうしたらいいと思いますか?」
『ごめんなさぁい!!』
ドヤ顔してた目の前の5人が一斉に頭を下げた。
「え、えぇ!? 乗ってくれないんですか、この相談!」
「乗れないわよ!? 乗れるわけ無いでしょ!? こんな喫茶店で乗るにしては重すぎる内容だから!? というかあなた日本人よねぇ!? 本当に日本国籍の平和な国に所属する、平凡な一般市民よね!?」
どういう意図の質問か良く解らなかったが、自分が思ったままにライトは返答する。
「まぁ……そうですね。日本の影の部分(人間的なカースト下位)に所属すると言っても過言ではありませんが――戸籍上、それで間違いありません」
『影の部分!? 戸籍上!?』
含みしか無い言い方に、段々とライトを見る目が恐ろしい物へと変わっていくリリー達。
「わ、私達、なんか凄い人をPTに引き込もうとしてたんじゃ……」
「正直ボクもナメてたかも……」
リリー達の中で、ライトのイメージが国の暗部を担う闇の住人で固定されていく中、ライトはぼそっと呟いた。
「なんか思いの外リア充っぽいのに使えないんですね……。あ、いや、馬鹿にするつもりはゼロなんですけど」
「100%馬鹿にしてるわよねぇ! アンタリア充どんだけ万能だと思ってんの!? ただちょっと現実がうまく行ってる人間に、一体何ができると!?」
「いや、そんな風には思ってませんから。そ、その。あんまり馬鹿にしないでください」
どこか怒ったふうに切り返すライトの剣幕に、流石に言い過ぎたかと奈々が反省したように眉尻を下げた。
「あ、そ、そうよね。私も言い過ぎたかも――」
「ただ奇跡の1つや2つぐらいは起こせるだろう位にしか思ってないですから」
『リア充への期待がやっぱり重い!!』
「え? 出来ないんですか? だってリア充って友達沢山ですよね? ほら、その時点で起こしてるじゃないですか、はは」
変なこという人達だなぁ。とライトがおかしなものをみる目でいると、全員が声を殺して涙を流しはじめた。
『(まさか、まさかここまで重病だったなんて……)』
目の前で真剣に友達多い人は奇跡だと語る青年の姿に涙を禁じえない現実世界の勝ち組達。
しかしその中で、いち早く復活したリリーが声を上げた。
「というかそもそも、先程の話はなぜ殺される前提だったのですか?」
『え?』
皆の視線がいざそちらに向くと、少し気恥ずかしそうにリリーは目を逸らす。
「いや、だって理由もなく殺されることは普通無いでしょう? 少なくとも、何かとんでもないことしない限りは。それともそう言うことが?」
「……え、ええと。正直そこら辺が俺にもわかってなくて……あるといえばありますけど、それでそんなふうになるかなぁ……とも思ってます」
『た、確かに確かに!』
穿った見方をしすぎて当然の論点が抜けていた! 奈々たちはこんな時でも冷静に考えられるリリーの姿に感動さえ覚えていた。
その言葉に、確かに考えすぎていたのかもなと思ったライトは今一度考えてみることにした。
ライト―――輝がした事といえばせいぜい病院に運んだ程度の事だし、ぶつかって来たのもあちら側なので輝に非は無いはずだ。
考えてみれば簡単な事だった。なぜ自分はあんな酷い取り違えをしてしまったんだと。
頭にかかったモヤが晴れたようなすっきりとした気持ちが胸の中に湧いてくる。
「ぃ、言われてみたら、そうかも知れません。あまりに突然のこと過ぎて、ちょっと動揺してたみたいです」
「そ、そうでしたか。……お力になれたみたいでよかったです」
「あっ、い、いえ! 本当にありがとうございます」
でも、と。
そういいながらも、まだ不安の残っているライトは、もしかすると自分が病院に運ぶまでの過程に何かとんでもないミスをした可能性があるとも考えていた。それも相談した方がいいのかもしれない。
そう思ったライトは今回も勿論ライトなりに話をまとめ、詳しい部分をぼかして。
よし、と意気込んだライトが重々しく口を開いた。
「あっ、あの! 例えばなんですけど……。例えば、皆さんが俺がさっき言った最高位のグループの長だったとして。ある日突然、その所属する組織の中でも影の薄い典型的な最下層に位置しますーみたいな奴と衝突(事故的な意味合い)し、あろうことか自分が病院送り(送っただけ)にされ、病院から戻って調べてみればのうのうと自分の組織の中でソイツがヘラヘラしてたらどう思います?」
『控えめに言って殺したい!!』
「えぇ!? そうなんですか!?」
『むしろ何故それで疑問形!?』
だって正面衝突して(しかもあっちから!)病院に送っただけなんだけど!? それで殺害って女の人怖! 生徒会長怖っ!
ライトが現実の理不尽さに打ち震えているとリリー達はリリー達で恐怖を覚えているのか、愕然とした奈々が告げてきた。
「よくそれで分かってないとか言えたわねあんた……。そんなことされたら仏でもマウント取って顔面タコ殴りにするわよ普通」
「え、えぇ!? おかしいなぁ……。ただ好意でやっただけなのに」
「好意で病院送りとか思考回路が凡人のソレじゃないから!? サイコパスとか殺人犯とかの奴よ!?」
「……う、嘘ですって! それは流石に! ……皆さんだってあるでしょう? こう、人が倒れていたり、辛そうにしてたら、『あぁこうしてあげたいな』って思う心、とか……」
「ついには私達の心の中に存在する闇を浮き彫りにする作戦に出た!? 本当にやることなす事ラスボスみたいな感性してるわよねぇ!?」
「えぇ!?」
流石に会話の流れがおかしい事にライトは気付き、今一度情報をすり合わせてみることにした。
◆
で。
「……なんで俺が国の暗部所属の最近の漫画にありがちなサイコパス系ラスボスになってるんですか?」
『こっちが聞きたいよ!』
半眼で睨むライトに対して、目の前の五人組が呆れ半分にそう突っ込んだ。
「……人のこと言えないけど……ここまで噛み合わない人もそうそういない」
「おぉ。シャルちゃんが珍しく自発的に喋った。というか突っ込み自体はボクら皆でしてたけどね……シャルちゃんもめったに見られないような声のトーンで」
「……忘れて」
元気さが取り柄っぽいルーと、何事にも無関心そうなシャルさえ辟易としている所、だいぶ体力を持って行かれた出来事だったらしい。
「いやまぁ、聞いた所貴方に非は無いようですし、というか100%相手は感謝してますよねそれ。むしろなんでそこで殺害ってワードが出たんですか? 沸いてるんですか?」
「言葉の刃が鋭い!」
「今回に関しては全面的にリリーを支援します。あなた人と会話することに向いてませんね。えぇ、本当――殺意湧くレベルで向いてませんよ」
「そこまで言わなくても!」
金髪美少女と黒髪美少女から向けられる絶対零度の視線に思わず縮こまりながらも、ライトは恥ずかしそうな笑顔を浮かべて言葉を続けた。
「で、でも……その、助かりました。俺みたいな奴の話を、すごい真剣に聞いてくれて……こういう話で来て、すごい楽しかったんです」
『ぅ…………』
ライトの言葉に対して、美少女五人が気恥ずかしそうに視線を逸らした。
「だから、ありがとうございます!」
「そ、そんな、私達は別に――」
「いっ、いいんです。俺にとっては十分特別で大切でしたから」
『とくべっ、たいせっ……!?』
ライトが心のそこからの言葉を述べていると、何故か目の前では5人がモジモジしている。
傍から見るとなかなか異様ではあった。
「な、なら! そこまで言ってくれるのでしたら私達と――!」
リリーが意気込んで大きく声を上げた、その時だった。
「あれ? ライト来てたんだ? ――って、あれ? 僕はお邪魔だった、かな?」
ライトの後ろから、そんな爽やかなアルトボイスが響く。
ゴォォォン――……。
時を同じくして鳴り響いたのは、ゲーム内に設置された時報の鐘の音。
一時間ごとに荘厳な音を響かせるソレが何故か――ライトの耳には試合開始のゴングの様にも聞こえていた。
次回!
出会う両者! 荒れる店内! ぶつかりあう力!(嘘)
それと、拙作が早くも25万PV達成、総合ptが6000を突破し、ぶっちゃけ何がなんだかよく分かってませんので、変に天狗にならない様に良くわからないままフワーッとした理解のままにすることにしました。皆様、ありがとうございます。
ご覧頂き誠にありがとうございます。
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