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夜明け ⑤

きっと魔王と戦うってのはこんな感じだったんだろうな。

何度、立ち向かっても。

何度、食らいついても。

俺ら程度の一般兵士じゃ、余興にもならないのだろうか。

魔人でもこのザマかよ・・・くそったれめ。

俺に力をくれよ。

光の精霊アカリさんよ。

俺なら・・・。


俺なら―

「アイツをぶっ飛ばせる!」


大斧を力強く握る手の平に熱い力を感じる。

どこからともなく、青い光の粒が集まり、俺を包み込む。


「これは・・・。」


確かに何かを感じる。

これが、精霊の存在感なのか。

青い光の粒に金色の粒が混じり始めた。

さらに力を感じる。

それと、優しく包み込む安心感。


「旦那!」


突然、タミンが叫んだ。

その視線の先。

最上階へ繋がっていたはずの通路が崩れ、先が無くなっている。


「旦那!」


もう一度タミンが叫ぶ。


「旦那を信じてやす!」


タミンが引き攣る笑顔を浮かべる。


「タミン?」

「旦那には言い知れねぇ強さを感じやす。また世界を闇にしちゃなんねぇ!」


残る通路は直線で約10メートル。

魔導車はスピードをさらに上げる。


「おい!タミン!」

「飛びやすぜ!」


なに!?


考える間も無く、魔導車は途切れた通路から魔人ポレーへ向かい飛び出した。


「旦那!今です!」


勢い良く飛び出した魔導車だが、魔人ポレーへは届かない。


「飛んでくだせぇぇぇぇ!」

「うおおおおおおおお!」


俺は魔導車の屋根を走り、思い切り飛んだ。

魔導車は下階に見える倉庫の中へ落ち、物を散乱させながら壁へぶつかる。

タミン・・・くそぉぉ!


「だぁらぁぁぁぁぁ!」


俺は大斧から吹き出す水の勢いを借り、魔人ポレーへ力一杯振り下ろす。


ギィィィィン


両手がビリビリと痺れた。

大斧は、魔人ポレーが長杖で作る円形の岩壁に受け止められる。


「こぉぉのぉぉぉぉ!」


俺は着地と同時に、さらに大斧に力を込めた。

魔人ポレーは片足を引き踏ん張ると大斧を見る。


「ダングレンの大斧か。」


魔人ポレーは恨めしそうに言う。


「ああ!アンタを頼むってよ!」


疲労とダメージの蓄積で俺の体は力を込める度に骨が軋み、筋繊維が千切れる音が聴こえる。

後が無い。

今倒れたら俺はもう立ち上がれないだろう。

絶対負けられない!


ピキッ


岩壁にヒビが入り始めた。


「っしゃぁぁ!」


大斧の水の勢いが上がる。

バリッと言う音と共に岩壁が砕けた。


「こぉのぉ!」


俺はそのまま魔人ポレーの体目掛け大斧をねじ込む。


「くぬぅ!」


魔人ポレーは迫る大斧を防ごうと次々に岩壁を作り出す。

だが、大斧の勢いは止められない。

俺は全てを打ち砕き、魔人ポレーの体に大斧を叩きこんだ。


「ぐふっ!」


目を見開き、吐血する魔人ポレー。


「うおおおおお!」


俺はさらに踏み込み、大斧を振り抜いた。

魔人ポレーの足元の床が砕け、下階へ吹き飛び、ぶつかった柱が折れる。

崩れる城壁の土埃に消えた魔人ポレー。

だが、この感覚・・・既のところで勢いを殺されたか。

案の定、土煙を纏い、いくつもの岩の柱が飛び出してきた。


「くそっ!」


無作為に飛び出す岩の柱は床を貫き俺に迫る。

辛うじて避けるが、床はみるみる内に破壊され、逃げ場は狭まっていった。

突然ピタリと攻撃が止み、ふと見上げれば、いつの間にか柱の一つに乗る魔人ポレーが俺を見下ろしている。


「お前には失望したぞ。メイアス・ヴァンドゥース。」


その手には、俺を城から叩き落とした巨大な岩の棍棒が握られている。


「ああ、結構だ!」


俺は、床を斜めに貫いた柱を、魔人ポレーへ向かい駆け上がる。


「平和など意味が無いと何故わからん。」


柱を駆け上る俺を見下ろしながら魔人ポレーは言う。


「見よ。この戦いのおかげで、兵は民を守り、民は兵を敬う。」

「だからどうだってんだよ!」


魔人ポレーへ向かい飛び出すと、大斧を振り下ろす。


「人は戦いの中にあってこそ愛おしい。」


そう言いながら俺の大斧を岩の棍棒で受ける。


「んならぁぁ!」


俺の気合と大斧の勢いに押し負け岩の棍棒は半分に折れる。

俺は空中で一回転すると別の柱へ着地した。

そして、すぐさま再び魔人ポレー向かい飛び、大斧を振りかぶる。

魔人ポレーは顔を上げ、俺の方を見た。


「戦いこそワシが皆の為に出来る唯一の事なのじゃ。」


そう言う魔人ポレーの目は少し哀しげに見えた。

振り上げた大斧を掴む両手に力が入る。


「なっさけねぇなぁぁ!」


大斧と棍棒が激しくぶつかり合う。

すると、俺に向かい光の粒が集まり始めた。


「お前にはわからぬ!」


魔人ポレーが左手を向け、岩粒を放つ。

俺は素早く大斧を回転させ、吹き出す水で岩粒を弾き飛ばした。


「ああ、わかんねぇ!」


俺は魔人ポレーの立つ柱を思い切り砕き折ってやった。

魔人ポレーはフワリと別の柱へ飛び退く。

それを追い、崩れる柱を踏み台に俺は飛び出す。


「今のアンタのレベルの低さなんて、俺の崇高な脳ミソは理解出来ねェ!」


ここ一番の嫌味顔をしてやった。

そして、水の勢いを利用して体を横回転させ、大斧を思い切り振り抜く。

受けた魔人ポレーの棍棒は弾かれ粉々に砕けると、長杖のみが残った。

俺は回転の勢いのまま魔人ポレーの立つ柱を再び叩き折る。


「沢山の人が死んだ!アンタの国の人達だぞ!」


俺の叫びを横目に魔人ポレーはフワリとまた別の柱へ移動する。

俺は少し離れた斜めの柱に着地し、滑り落ち無いように大斧を柱に振り下ろした。


「戦いが人の結束を強める?そりゃ一人じゃ怖ぇから当たり前だろうよ。」


斜面に足を踏ん張り、大斧を引き抜き担ぐ。


「戦えない奴ら?そりゃ争いが嫌いなんだよ。」


無言で見下ろす魔人ポレーを見上げる。


「国なんだから、人の数だけ考えがあるさ。」


俺は開いた手の平を見詰めた。

イシャルティの手の熱さを思い出す。


「大切なもん守りたいから戦ってるんだよ。」


大斧を掴む手と、踏ん張る足に力を込める。

俺を包む光の粒が腕を流れ、大斧に集まり輝き始めた。


「絡み合う人の想いが国を作るんだろう!」


俺は、大斧を下段に構え柱を駆け上る。


「戦うから手を取り合うとか、安易にしてんじゃねぇよ!」


冷ややかに見下ろしていた魔人ポレーの口元がピクピク震える。


「小賢しい小僧が偉そうな口を・・・。」


その口元から言葉が漏れる。

魔人ポレーは駆け上がる俺に向かい長杖を向けた。


「平和、欲望、争い、戦い・・・繰り返す人の本質。」


長杖に黒雲が巻き付き、黒い槍と化した。


「すべては逃れる事の出来ない星との繋がり。」


掲げられた黒槍は怪しい黒い光を放ちながら分裂し空に広がる。


「受け入れるべきなのだ。」


魔人ポレーはゆっくりと槍を放った。

その動作から想像も出来ない速度で数百の黒槍が俺に向かい降り注ぐ。

俺は柱を駆け上がりながら限界まで体を捻り大斧を後ろへ振る。


「んなもん受け入れらんねぇよっ!」


思い切り踏み込んだ足元の柱はひび割れ、遠心力で千切れそうになる腕を気合いでぶん回す。

すると、噴き出す水は今まで以上に勢いを増し、そして輝く。

それは巨大な水の斬撃へと変わり、迫る黒槍を一掃した。


「国王が国を諦めんな!」


水の斬撃は空中で弾け、輝く水飛沫が周囲を照らし、俺と魔人ポレーを包み込む。


「これは・・・。」


魔人ポレーは広げた手の平に落ちた水滴を見詰める。

水滴は輝き、手の平に溶け込んで行った。

俺は、魔人ポレーよりも高い柱に立ち、その様子を見下ろす。


「この国の人達の涙だ。家族を失った国民の悲しみ。アンタを慕い、救おうとする兵士達の熱く溢れる想い。国の泣き声が、アンタには聴こえねぇのかよ!」


思い切り柱から飛び、空中で大斧を振り被る。


「国王が、国壊してんじゃねぇ!」


大斧が一段と重さと輝きを増す。

限界を超えた体を精神力で引き締める。


「頭冷やしやがれぇぇぇぇ!」


空中で振り下ろした大斧の斬撃は、さらに巨大な水の斬撃となり、魔人ポレーを柱ごと斬り裂いた。



城の中。

半壊した城は、どこが何階だったのかも解らない。

魔人ポレーは、瓦礫の上に横たわっている。


「メイアス・ヴァンドゥース。」


掠れた消え去りそうな声で俺の名を呼ぶ。

俺は横に立ち、見下ろしていた。


「アンタ、なんで黙って斬られたんだ?」


最後の斬撃を魔人ポレーは逃げも防ぎもしなかった。


「お前は、ワシと同じじゃ。」

「またかよ。」


俺の面倒くさそうな顔を見て、魔人ポレーは微笑む。

歪みも狂気も感じない柔らかな笑顔だ。


「抗え。運命に抗え。」


言いながら、魔人ポレーの顔には深いシワが刻まれ、そして、髪は白く変わっていく。


「ポレー国王。」


俺は膝をつき、そっと肩に手を添える。


「ワシを止めてくれてありがとう。」


晴れ始めた黒雲の隙間から朝日が指し、ポレー国王を照らした。

すると、ポレー国王の目から涙が流れ落ちる。


「すまない・・・ワシはなんという事を・・・すまない・・・。」


大粒の涙は溢れ続けた。

その涙で霞んだ目には失われた国民や兵士達の姿が映っていたのだろう。


「メイアス。お前は、ワシの様には・・・・・・。」


ポレー国王は静かに息を吐くと動かなくなった。

家族や民を愛し、国を守り続けた偉大な王は、自ら全てを傷付け壊し、死んでいった。


「なんだよ・・・あんまりじゃねぇか・・・。」


目頭が熱くなり、押さえようとした指を伝い涙が流れ落ちた。

やがて、朝日がポレー国王の全身を包み込むと、その体は黒く朽ち、灰になり風に乗り消えた。


そして、ノン国に静かな夜明けが訪れる。

街を包んでいた戦いの音はもう聞こえてこない。

俺は、大斧を肩に担ごうとして全身に走る激痛でその場に倒れ込んだ。


「・・・ってぇ・・・はぁ・・・疲れた。」


俺は目を瞑り、流れる風を感じる。

ここのままここで一眠りでもし―


「旦那ぁぁ!しっかりしてくだせぇ旦那ぁぁぁ!」


・・・うるせぇ。

耳元で叫ぶ大声がキンキン頭に響く。


「タミン・・・無事・・・でも無いか。」


俺はいつの間にかタミンに担がれ瓦礫だらけの城内を運ばれていた。

俺よりもマシとは言えタミンも体のあちらこちらから血を流している。


「良かった!旦那はいつ死んじまうか気が気じゃねぇですぜ!」


今、お前の大声で死にそうだ。


「タミン。運んでくれるのはありがたいんだが・・・。」


俺の腰くらいの背丈のタミンが俺を運べば、当然足を引き摺る。

おかげで瓦礫にぶつかる度に、全身に激痛が走った。

この怪我、生きているのが不思議なくらいだ。

ふと顔を上げると壊れた城の入口から入り込む朝日に人影がいくつか見える。


「メイアス!」

「メイアスさぁぁん!」


小さめの影が二つ駆け寄ってくる。


「うあ!アンタだいじょうぶ!?」


グリムよ。大丈夫な訳ないだろう。


「メイアスさん!俺、もっと強くなりたい!」


そうだなアーデ・・・でも、今言う事じゃないぞ。

3人に支えられ、日の下に出ると、そこそこボロボロな仲間達がズタボロの俺を迎える。


「メイ。お疲れ。」

「は・・・はは・・・。」


マリウスの汚れ一つ無い白いローブを見ると掠れた笑い声しか出てこない。


「もー疲れたー帰るー!」

「ダメだよ!ほら、道危ないから手繋いで!」


ミシェルとリリは、もういつも通りか・・・どういうメンタルしてんだ。


「それ・・・大丈夫?」


俺の左腕を指差し、意外過ぎる言葉をクリアが放つ。


「お、おおう?こんなの怪我のうちに入らん!いいか、見てろ~・・・ほ~ら!」

「タミンさん!大丈夫!?」


振り上げた俺の左腕の横をクリアは通り過ぎ、タミンに駆け寄る。

ふむ・・・。

振り上げた左腕を静かに下ろす。

ふと視線を向けると城門の方から大きな熊とその背に乗る少女が近づいてくるのが見える。

皆無事で良かった。

討伐軍時代を思い起こす激闘だった。

いや、ここまでの戦いは無かったかも知れないな。

バジリスク退治がとんだ事態になったもんだ。

てか、任務終了で良いんだよな?


「あ~・・・疲れた。」


とにかく、まずは寝よう。

読んでいただき有難うございます。

お盆の為、1週投稿出来ません。

次回、新章へ。

次話も読んでいただけたら幸いです。

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