夜明け ③
城まで続く道では、逃げ惑う貴族と、彼らは守りフォモール共と戦う兵士達、そして、敵も味方も力尽きた者が横たわっている。
俺達はその中を、砂煙をあげ突き進む。
そこへ前方の物陰から現れたフォモールが俺達に気付き、吼えながら突き進んできた。
「旦那!」
タミンの足がブレーキにかかる。
このままじゃぶつかる。
そう思った矢先、飛び出して来た荷車がフォモールに向かい突進し、そのまま道から押し出すと花屋に突っ込んだ。
「お急ぎください!」
荷車を押す3人の兵士が暴れるフォモールを必死に押さえ込む。
「すまない!」
俺達はその横を走り抜ける。
それにしてもタミンの運転技術は最高だ。
荒れる街中、スピードを落とさずに走り続ける。
「門が見えてきやした!」
城門まで数十メートル。
だが、もう少しのところで真横の建物からフォモールが壁を壊して飛び出してきた。
鋭い爪が魔導車の側面を切り裂く。
「ひゃあああ!」
バランスを崩した魔導車は蛇行し、俺は振り落とされない様にしがみつく。
なんとか転倒せずに済んだが、後方からフォモールが数体追いかけてきた。
スピードを上げ振り切ろうとする俺達の目に更なる不運が飛び込んでくる。
「旦那!門が開いてやせん!」
タミンの悲痛の叫び。
くそ!降りて戦うか・・・!
意を決し、飛び降りようと脚に力を入れたところで門がゆっくり開き始めた。
「ラッキーでさぁ!突っ込みますぜ!」
タミンが前のめりで叫ぶ。
近づく門の扉に人影が見えた。
その人物が大きく手を振る。
「メイアスさぁぁぁん!急いで!」
とても見覚えのある姿。
「ミシェル!?」
最上階にいたはずのミシェルだ。
スピードを上げ、門を摺り抜けると、待ち構えていた数人が扉を急いで閉めた。
砂煙をあげ急停止した城の庭園には、避難した多くの貴族達。
そして、仲間の顔があった。
「メイ!」
「メイアス!」
「メイアスさん!」
俺の名を呼び、マリウスとグリム、それにアーデ、クリア、リリが駆け寄ってきた。
「お前ら!無事だったのか!」
信じてたとは言え、無事を確認出来ると気持ちがグッと軽くなった。
「メイアスさん!それにタミンさん!」
そこへ扉を閉めてくれたミシェルが遅れて駆け寄ってくる。
皆、大した怪我も無さそうだ。
ホッとする俺をグリムがジッと見上げる。
「ねぇメイアス。その大斧って。」
俺の背負う大斧を指差す。
「ああ、ダングレンの・・・形見だ。」
形見という言葉に死を悟り、皆押し黙ってしまった。。
俺は大斧を手に取り、一呼吸おいてから顔を上げる。
「今はやるべき事だけを考えろ。」
俺を囲む顔を順に見る。
そして、マリウスで顔を止める。
「あれから一体何があった?」
「メイが弾き飛ばされると同時に床が崩壊してね。僕らはそのまま2階下へ落ちたんだ。」
マリウスの言葉にグリムが大きく頷き続きを話す。
「マリウス君の魔法のおかげで私達は大した傷を負わずに済んだんだけど・・・。」
グリムがチラリと目を他へ向ける。
そこには貴族達に介抱されるラーリが横たわっていた。
「落ちる何処かで頭を打ったみたいなんだ。僕のミスだ。すまない・・・。」
マリウスが頭を振る。
「いや・・・。」
弱々しい声でそう言うのは横たわるラーリ自身だった。
ラーリは貴族に支えられ、上半身を起こす。
「君達のおかげで死なずにすんだ。それに、ここで貴族達を守ってくれた。ありがとう。メイアスよ。父を、救ってくれ。」
ラーリは深々と頭を下げると、また支えられ横になった。
俺は、ラーリに一礼するとマリウスに向き直る。
「マリウス。ポレー国王はどうなった?」
「嫌な気配を感じるよ。見えるだろう。あの黒雲。彼の力が呼び寄せている様だ。おそらく奴はまだ最上階にいるね。」
「そうか。早いとこぶっ飛ばさないとやべぇな。」
「まって。」
話にグリムが割って入る。
「またあの泥になるやつやられたら勝ち目ないよ。」
確かに、もうだいぶ時間が経ってしまった。
クリアの放った魔導機の力も失われているだろうな・・・。
「それがね。メイ。」
マリウスが最上階を見上げたまま言う。
「まだ水の精霊の力を感じるんだ。」
「おお!それなら―」
「有り得ないんだよ。」
マリウスが首を横に振る。
「彼に残る土の精霊が水の精霊を繋ぎ止めている。解らない。有り得ない事ばかり起こる。それにね。」
今度は俺を見詰める。
「な、なんだ?」
「君の周りにも土と水の精霊を感じる。君を守っているみたいだ。」
俺は自分の手や体を見る。
俺には精霊を感じられない。
「そうなのか?」
ふと思い出す。
俺は堀の底に沈まず浮かんでいた。
「そうか・・・守られてるのか。」
俺の言葉にマリウスが微笑む。
「ポレー国王は素晴らしい人だったんだね。精霊達が国王をお願いってさ。」
「ああ・・・任せろ。」
ガァァァン
突然、激しくぶつかる音が鳴り響く。
城門が歪み、崩れた壁の破片がパラパラと落ちてきた。
マリウスが険しい顔で振り返る。
「結界がもたない。メイ。君の持つその大斧は水の魔導機だ。属性が合わなくても今の君なら役に立つ。ここは僕らで守るから、君はポレー国王を!」
この大斧、魔導機なのか!
しかも、ダングレンは水属性だったのか。
人は見かけに寄らないな。
一瞬そんな事を考えていると、扉がさらに激しく鳴る。
「急いで!」
そう言ってグリムが俺のケツを思い切り叩く。
「ってぇ!お前も死ぬなよ!」
お返しにグリムの額を小突いてやった。
グリムは一瞬額を押さえ恨めしそうに俺の顔を見上げるが、すぐに微笑んだ。
それから俺は勇者一行の方を振り向く。
「アーデ!」
突然、俺に呼ばれアーデが肩をビクつかせる。
「は、はい!?」
俺は左腕に巻かれた包帯を見せる。
「リテルは、頑張ってるぞ!」
一瞬戸惑うが、包帯を指差し俺を見詰める。
俺が頷いて見せると、包帯を巻いたのがリテルと理解したのか、アーデは口を真一文字に引き締めると大きく頷いた。
その目は力強く輝く。
それからミシェル、クリア、リリの顔を順番に見る。
「貴族達を守れ、勇者達!」
それぞれ顔を見合わせると大きく頷いた。
ゴガァァァン!
ついに轟音と共に城門を突き破りフォモールが入り込んできた。
吼えるフォモールの声と逃げ惑う貴族達の悲鳴が広がる。
「メイ!」
マリウスは俺の名を叫ぶと迫るフォモールに向かい風の刃を放つ。
「貴族の皆さん!急いで奥へ!」
クリアが貴族達を先導する。
その時、ラーリ上官を抱える貴族が俺を呼んだ。
駆け寄るとラーリが庭園の奥を指差す。
「上階近くまで荷車で上がれる通路がある。そこを使え。」
俺は頷き、タミンを見る。
ボロボロの歯を剥きだし、タミンは親指を立て、拳を突き出してみせた。
「もうひとっ走り頼む!」
「あいよ!旦那!」
なんか良いコンビになってきた気がする。
読んでいただき有難うございます。
次回、決着へのカウントダウン!
次話も読んでいただけたら幸いです。




