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魔人 ③

「さて、本来ならば、さっさとこの国を破壊し、別な国を破壊しに行くところだが・・・。」


そう言いながら、魔人ポレーは、後ろ手に組むとゆっくり部屋を歩く。


「せっかく運命の歯車が動き出したのだ。共に祝わぬか?」


歩みと止めると、歓迎する様に両手を広げる。


「運命の歯車?」


俺の問いに魔人ポレーは微笑む。


「そうだ。メイアス・ヴァンドゥース。それに小さき歯車、勇者アーデ・クーンよ。」


魔人ポレーの狂喜に満ちた目で見詰められ、アーデの脚は小刻みに震える。


「それに、双子星・・・お主らに出会えるとは、光栄。」


そう言うと魔人ポレーは大げさにお辞儀をしてみせた。

双子・・・?俺とマリウス?


「どういう意味だ?」


俺は大剣を強く握り締める。


「・・・さて、そろそろワシは行かなくては。世界を壊しに。」

「待て!」


俺の静止に魔人ポレーは微笑む。


「やはりワシと同じだな。メイアス・ヴァンドゥースよ。」


同じ?

さっきから―。


「訳わからねぇ事ばっかり言うんじゃねぇぇぇぇ!」


俺は、大剣を水平に構え飛び出すと、魔人ポレーに切り込む。


ギィン!


魔人ポレーは涼しい顔をして、俺の大剣を、泥で作り出した剣で受ける。

そして、片手で軽々と俺の大剣を押し返しながら、身を寄せてきた。


「その顔。実に良い。」


魔人ポレーは囁く。


「気味悪い事言うんじゃねぇ・・・よぉぉっ!」


一度、押し返す勢いで後ろへ飛ぶと、大剣を大きく振り回し、真下から切り上げる。

剣先は床を擦り火花を散らす。

だが、魔人ポレーは、表情を変えず僅かに体を揺らすと俺の大剣を躱す。

俺はさらに大剣を振り回し、右上から、左下から、頭を狙い、足元を狙い、次々と攻撃を繰り出すが、全て、躱されるか、剣で受け流されてしまった。


「くそっ!」


俺は体制を立て直すために一旦離れた。

魔人ポレーはそれを見て、小さく首を横に振る。


「情けないのぅ。お主の力はそんなものではなかろう?」


魔人ポレーは、目を細め、嫌味たらしい笑みを浮かべる。

クソッタレめ。


「ああ。そろそろ本気だそうかと思ってたとこだ。」


正直、圧倒的な力の差はヒシヒシと伝わってきている。


「その意気じゃ。どれ、次はワシから行かせてもらおう。」


やべぇ。

そう思う間も無く、目の前に魔人ポレーの剣が迫る。


「づぁぁ!」


俺は、倒れ込む様に避ける。

まさに間一髪。

斬られた髪の毛が床に落ちた。


「メイアスさん!」


アーデが叫ぶ。

俺はすぐさま転がり、跳ねる様に起き上がると大剣を構える。

魔人ポレーの次の攻撃が迫る。


「ぐぅっ!」


大剣で受けるが、その重い一撃に膝を付く。

細身の体から想像も出来ない力だ。


「ほれほれ。しっかりせんか。」


魔人ポレーは、俺に稽古でも付けているかの様に、楽しげに何度も剣を振り下ろす。

なんとか防いではいるが、立ち上がることが出来ない。


「くっ!いつまでも・・・しつけぇと・・・。」


降り注ぐ剣の間から俺は魔人ポレーを睨み付ける。


「足元すくわれるぞ。」


俺の不敵な笑みに、魔人ポレーは何かに気付く。

だが、遅い。

気配を殺し、背後に回っていたグリムのナイフが背中に突き刺さる。


「・・・小娘、邪魔しよって。」


心臓を貫かれた魔人ポレーは、ゆっくり後ずさり、泥となって床に消えた。

立ち上がる俺の横に、グリムが低く身構える。


「どこ?」


グリムが耳を立て警戒する。

俺もグリムも、あの攻撃だけで倒せるとは思っていない。


「せっかくの戦いに水を差さんで貰いたいのぅ」


魔人ポレーは、いつの間にか玉座に座り、肘を付き、笑みを浮かべている。


「楽しいのぅ。メイアス・ヴァンドゥース。」


玉座からゆっくり立ち上がると、顎に手を当て、わざとらしく考えているフリをする。


「良い。全員で戦うとしよう。その方が楽しかろう?」


魔人ポレーは満面の笑みを浮かべた。



肌で感じられるほどの魔力が、魔人ポレーから放たれる。

床が波打、壁が歪み、玉座の間が作り替えられていく。

神聖だった玉座の間は、鈍く光るいくつかの石灯篭に照らされ、天井は戦場を象った絵で埋め尽くされる。

そこから不気味にグネグネと曲がったシャンデリアがぶら下がっていた。

そして、玉座は漆黒に染まり、両隣には巨大な石像が睨みを利かせている。


「気持ち悪い・・・。」


周囲に広がる闇属性の魔力にクリアが苦しそうに胸を押さえた。

見れば勇者一行とラーリは苦悶の表情を浮かべている。


「メイ!」


マリウスが俺達に一旦戻れと手招きする。

俺とグリムは警戒しながらゆっくりと下がる。

それを見ていた魔人ポレーは、どうぞと言わんばかりに笑みを浮かべ小さく頷いた。


「なんだ?」


一箇所に集まった俺達の中心にマリウスは立ち、グリモワを手に持つ。


「泥土の精霊の力が強くなり過ぎてる。それに、僅かだけど土の精霊も感じられる。」


マリウスは、そう言いながら、開いたグリモワに何かを指で書き込む。


「どういう意味だ?」


俺の問いに顔を上げずマリウスは首を横に振る。


「わからない。闇の精霊郡と光の精霊群を同時に扱うなんて聞いたことがないよ。ただ、強すぎる泥土の力が僕らを蝕んでる。」


マリウスは、パタンとグリモワを閉じ、顔を上げる。


「皆近くに。」


そう言うとグリモワの表紙を指でなぞる。

途端に、重い空気が吹き飛び、体が軽くなる。


「おぉお!」


俺は感嘆の声を上げる。


「風の精霊にサポートをしてもらうんだ。」

「サポートですか?」


アーデが大きく深呼吸しながら訊く。

リリも熱い視線を送る。


「そう。皆の周りの風の精霊の割合を出来る限り増やした。風の精霊は他の光の精霊郡を助ける力があるんだよ。・・・メイが睨んでるから今度ゆっくり説明するね。」


まったく・・・こいつの先生グセはどうにかならんのか。

緊張感が切れるぞ。

と、突然、どこからパチパチ拍手の音が聞こえ始めた。

傍観していた魔人ポレーが嬉しそうに手を叩いている。


「いやはや素晴らしい。実に素晴らしい。マリウス・ヴァンドゥース。これならば、待っていた甲斐がありそうだ。」


魔人ポレーは手を叩きながら玉座から立ち上がえると、勢い良く両腕を広げた。


「それでは、始めるとしようか。」


両隣の石像がグラグラ揺れ始めたかと思うと、大きく一歩前に出る。


「ゴーレムか!」


俺がそう言い大剣を構えると、皆も武器を構える。

ゴーレムは、壁に飾ってあった巨大な剣を掴むと壁から引き剥がした。

真ん中に立つ魔人ポレーが、右手を振り上げる。


バシッバシッ


連続した破裂音がして、俺達の頭上で泥が弾けた。

さらに四方から泥の弾丸が飛んでくると、俺達に届く前に弾ける。


「僕がいる限り、その攻撃は当たらないよ。」


そう言うのはマリウスだ。

魔人ポレーの周囲から飛んでくる泥の弾丸をマリウスは身動きもせずに防いでいるのだ。

四方八方から降り注ぐ泥の弾丸を顔色一つ変えずに捌きながら、マリウスは勇者一行へ顔を向ける。


「さぁ君達も見ているだけじゃ面白くないだろ?僕がサポートするから思い切り暴れると良い。」


マリウスは、そう言い微笑む。


「それからメイにグリムさん。」


今度は俺達に顔を向ける。


「今度はしっかり仕留めて。」


言われなくても分かってる。


「うるせぇな。そろそろ本気出すって言ってんだろう。」


俺は振り向きもせずに言う。

満足そうに微笑んだマリウスは、両手を優雅に前に出すと、両指を鳴らす。

フワリと浮かぶような感覚が全員を包む。


「これは・・・。」


体が軽い。頭の中もスッキリして気持ちが良い。


「どういう・・・。」


俺の疑問にマリウスがニヤリとする。


「説明、する?」


いらねぇ!


「さぁ!今度こそ仕留める!マリウス、防御とゴーレムを頼む!アーデ達はラーリ上官を守れ!グリム、俺に合わせろ!行くぞ!」

「りょーかい!」

「はい!」


グリムとアーデの力強い返事を合図に飛び出す。

読んでいただきありがとうございます。

次回、メイアスが本気でぶつかる!

次話も読んでいただけたら幸いです。

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