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大魔導士 ③

車内は重苦しい雰囲気に包まれていた。

ラーリを乗せた魔導車は、混雑するメインストリートを低速で進んでいる。


「それにしても皆無事で良かった。」


重苦しい雰囲気を最初に切り開いたのはラーリだった。


「ダングレン達は無事だったのでしょうか?」


ラーリは、アーデに向かい話し掛ける。


「無事・・・でした。でも、途中で別れ、それからは分かりません。」


アーデは視線を下げ、消え去りそうな声で答えた。


「そ、そうでしたか・・・。イシャルティ・・・イシャルティは、一緒では・・・。」


ラーリは車内を目だけで見回す。

やはり、どうも怪しい。


「ダングレンらと一緒に残りましたよ。」


助手席の小窓から俺が答える。


「そ、そうか・・・。」


ラーリは肩を落とし俯いた。


「あの・・・。」


アーデは真っ直ぐにラーリを見詰める。


「ダングレンさんに聞きました。ラーリさん。なぜこんな事を。」


噛み締める様にアーデは言う。


「たくさんの人が死んでしまいました!国を守る貴方が、平和を唱える貴方が!なんで!」


その言葉を俯き耳を傾けていたラーリが、静かに息を吐き出す。


「なるほど・・・やはり、ダングレンは私を・・・。」


車内の全員が次の言葉を待つ。


「すべてをお話します。この国で起こっているすべての元凶は・・・。」


ゴクリッ・・・誰かの喉が鳴る。


「我が父、国王ポレー・ゼイオです。」


嫌な予感が当たった。

この国で土の大魔導士はたった一人だけだ。


「父は、いつの日からか・・・いえ、魔王が倒され、黒雲が晴れたその日から、ある妄想に憑りつかれてしまいました。」

「妄想・・・?」


アーデが首を捻る。


「はい。父は、この国が小さかった頃から、家族を想い、守り続けて来ました。どんな敵からも、どんな厄災からも、守り続け、国王までへ上り詰めました。そして、高い壁を築き、深い堀を掘り、家族を守る為、何不自由無い生活を与える為に、この貴族街を作ったのです。父は皆の幸せを願い戦い続け、国は大きくなりました。しかし、守る為に作った高い壁や深い堀はいつしか貴族と国民の生活や心にまで作られてしまったのです。」


俺達は、貴族達の言葉を思い出した。


「魔王の黒雲で世界が覆われてから、それは加速度的に深まっていき、貴族達自身が門をくぐる事すら無くなりました。出入するのは軍隊のみ。生活に必要な物は全て軍が検査を行い運び入れています。ノン国は内部で完全に分裂してしまいました。」


ラーリは小さく首を横に振る。


「国王は・・・父は、悔やんでいたのです。黒雲が晴れ、信じ続けてきた平和が訪れた時には貴族達は堕落し、国民を卑下する。貴族も国民もお互いの事など気にも留めていない。何故、お互い手を取り合えないのか・・・父はいつもそう言っていました。」


ラーリは小さく溜息をついた。


「数日前の事です。私は父の元へ月例の報告を持って行きました。その時にはもう、何かおかしかったのです。もっと気を付けていれば・・・。」

「いったい何が?」


アーデは身を乗り出す。


「国を見下ろし、笑っていたのです。」


少しの間、口をつぐむ。

ラーリの表情には悲しみと恐怖の色が浮かび上がっていた。


「あんな父の顔を見た事ありません。今思い出しても狂気を感じる。私が部屋に入って来た事に気付いた父は、振り返るとこう言いました。」


車内の緊迫感が一気に増す。



(ラーリよ。今、彼らに必要なモノが、ようやく解った。)



「父はそれから一人でブツブツ何かを呟いていました。私はそれから父の動向が気になり、常に目を光らせていました。そして、あの晩、父は一人で武器庫へ向かい、何かをしていた。父が居なくなり私は急いで武器庫の確認を行うと、そこにあったある物が全て無くなっていました。」


皆の脳裏にアレが過る。


「干物・・・ですね。」


アーデが言う。

ラーリは顔を向けると頷いた。


「そうです。おそらく土の精霊に運ばせたのでしょう。あの量を一人で運べる訳がありませんから。」


これでダングレンの言っていた事とつじつまが合う。

ダングレンは、ポレー国王を怪しむラーリを首謀者と勘違いしていただけだ。

しかし・・・。


「なぜ国王は、こんな事を?」


俺が言うと、その場の全員が頷いた。


「・・・わからぬ。私もそれを確認したくて城へ向かっていたのだが、精霊祭に沸く貴族達に阻まれてしまってな。」


そこへ俺達が現れた訳か。

ラーリは、改めてアーデに向きなおすと、頭を下げた。


「勇者様。どうか私と一緒に国王に会って頂きたい。お恥ずかしい事ですが、私には武力も魔力もありません。もし・・・もしも、父を力尽くでもとなったら・・・。」


そうだった。

ポレー国王には、土の精霊族の他に人間の妻もいた。

ラーリはその息子。

父から魔力を受け継ぐ事が出来なかったのだ。


「俺達も向かってるところです。一緒に行きましょう!」


アーデが力強くラーリの手を取り、お互い大きく頷いた。

タイミング良くタミンが声を上げる。


「見えてきやした!城門でさぁ!」



間近で見る城門は、触れなくても重く、冷たさを感じる。

魔導車を降りた俺達は横並びで見上げる。

門番が顔を出した。

ラーリが大声で開けるように指示すると、人一人分通れるだけ門が開く。


「タミン。あんたはここで待っててくれ。」


俺はそうタミンに言い残すと、仲間に続いて門を通り抜けた。

目の前に広々した庭園が広がる。


「すごーい。」


リリがポカンと口を開ける。

先導するラーリが振り向きリリに微笑む。


「皆さん。おそらく国王は―。」


そう言い掛けた時だった。

グラリと地面が揺れる感覚。


「なに!?」


グリムが足を踏ん張る。


「見てあれ!」


いち早く何かに気付いたクリアが指差す。

全員がその指先に目を向ける。


「なんだあれ・・・。」


ミシェルは目を細め、じっと見詰める。

それは城の最上部。

何か城壁が歪んで見える。

壁が溶けている様にも見える。

と、突然、背後に何かが落ちてきて、ミシェルが奇声を上げ飛び上がる。


「なんだ!?」


俺は落ちて来た物に恐る恐る近付いた。


「これは・・・。」


泥・・・。

泥の塊だ。

しかも、崩れてはいるが人の形にも見える。


「これは・・・。」


俺は、城門を見上げる。


「・・・門番がいない。」


この泥の塊は、門番のなれの果てか、もしくは、元々ただの泥か・・・。

するとまたグラリと揺れる感覚。


「ぃやぁ!」


リリがミシェルにしがみ付く。


「メイ!まずいよ!」


今まで押し黙っていたマリウスが緊迫した声を上げる。


「なんだ!?何が起こってる!?」


俺はマリウスに耳を傾けたまま身構える。


「土の精霊が苦しんでいる!これは・・・なんだ・・・。」


マリウスはまた押し黙る。

また地面がグラリと揺れる。

ついには、町からも悲鳴が聞こえ始めた。


「マリウス!」


俺はマリウスに回答を求める。


「怒りが・・・いや・・・もっと深い。」


マリウスはブツブツ呟く。


「マー!」


俺は思わず幼少の頃の呼び名でマリウスを呼んだ。

マリウスは、ハッとした顔で俺を見詰める。


「メイ。闇だ。土の精霊が・・・闇に飲まれていく!」


意味わからん!


「とにかく、ヤバそうだ!国王の元へ急ぐぞ!」


俺の言葉に、ラーリが手招きをする。


「こちらです!」

読んでいただき有難うございます。

次回、迫る闇の足音。いったい何が起こっているのか・・・。

次話も読んでいただけたら幸いです。

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