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ノン国 ①

翌朝・・・と言うより4時間後。

日の出前の街は、昨夜と変わらず真っ暗闇だ。

俺とグリムはこんな非常識な時間帯に狩人の店の戸を叩いた。


「うるせぇな・・・こんな夜中に何の用だ!」


ブチ切れた小男の狩人が寝間着姿のまま出て来た。


「いや、すまない。我々は―。」


俺は自分達が勇者一行所属の特務部隊だという事を強調して説明した。


「ほぅ!そりゃ願ってもねぇ話だ!」


狩人は寝起きとは思えない声の大きさだ。

やはり勇者一行パワーはすごいもので、狩人の顔はパッと明るくなった。


「イタチならホラここに・・・」


勢い良く開けた籠は空。「・・・いねぇな。」


「オイ!お前!ここに入れといたイタチはどうしたんでぃ!」


狩人は、奥でまだ寝ているだろう妻に向かって大声で言う。


「うるさいね!昨日食っちまっただろう!」


食ったのかよ。


「いゃ~すまねぇ。勇者様御一行の役に立てると思ったんだけどよ。他のもんなら全部タダで持って行ってくれ!」

「い、いや。遠慮させて頂く。」


俺がそう言うと、狩人はガックリ肩を落としてしまった。

その時、グリムが俺の背中を肘で小突く。


「なんだよ。」


小声で訊く。


「あれ見て。良いんじゃない?」


グリムが指差す方にあったのは、大きな荷車。


「あれがどうした?」

「移動手段。バッガスの。」


グリムがニヤッとした。

いやいや、こりゃバッガス怒るぞ。

目の前にある荷車。極太の鉄棒に囲われ、扉には拳大の錠がかけられている。


「大型動物の檻だぞ・・・。さすがに不味いだろ。」

「そんな事ないってぇ~。ホラ、こう大きな布をバサっと被せればさ。」


グリムは両手をいっぱいに広げ檻に布をかける仕草をして見せた。


「いや~・・・でもねぇ・・・。」


俺は腕組みする。

そこに、狩人が腰を低くして近寄って来た。


「旦那。なにか入り用で?」


手もみしながらニヤつく狩人が何か商売を考えているのは明確だ。


「いや、まぁ・・・う~ん。」


俺はまだ煮え切らないでいる。

確かに、移動手段としてこれを馬車に繋げばバッガスを乗せられる。

だけど、檻って。


「ほら。迷ってる時間無いって。仕方ないよ。バッガスも分かってくれるって。」


グリムの後押しに、聞いている狩人の目が輝く。売り付ける気満々だな。


「分かったよ・・・。」


俺が渋々承諾すると、狩人は待ってましたとばかりに指をパチンと弾いた。


「旦那・・・。」


狩人が勿体ぶる。俺は胸ポケットから財布を引っ張り出した。


「・・・いくらだよ。」


ところが、俺がそう言うと狩人はキョトンとしている。


「・・・買うよ。いくら?」


もう一度言うと、狩人は大きく首を横に振った。


「いえいえ旦那。お代は頂きませんぜ!それに、どうやら移動にお困りの様で。どうでしょう?この檻と一緒に馬車なんて必要じゃあございやせんか?」


狩人は顔をグイと近付けてボロボロの歯を出して笑う。


「ま、まぁ必要だけど・・・。」


俺は少し身を引くとそう答えた。


「カーッ!いやはや!旦那、こりゃ運命ってヤツでさぁ!」


狩人はさらに顔を近付けてくる。

俺はグリムに目で助けを求めたが、小さく首を横に振られた。


「実は、私、馬車持ってるんです・・・。」


何故か小声の狩人。


「しかも、二日前に手に入れた貴族が使ってた馬車なんすよ。まぁちぃとばかり古いですがね。」


そう言うと狩人は俺達を店裏へと導いた。


手入れのされていない大き目の庭のど真ん中に、布がかけられた大きな物体。

狩人は、得意げに両手を向けると、布を一気に引っ張った。


「ジャジャジャーン!どうです!これ!」


現れたのは、大きな6人乗りの馬車。鉄製で頑丈そうな四つの車輪。

3人は座れそうな御者台の横から軽くて丈夫なヤッカシの木で出来た長柄が伸びている。



「どぉぉです!旦那!」


狩人は両手を腰に当て自慢げに胸を張っている。


「確かに年代物だけど、良い出来だな。」


俺は馬車の中を覗き、車体に触れてみる。傷みも少なく、十分に使えそうだ。


「さすがお目が高い!今ならこの馬車とさっきの檻。さらに馬2頭に御者も付けますぜ!」

「ほほう。そりゃずいぶんと気前が良いな。どうしてそこまで?」


いかにも怪しい気前良さに俺は横目でジッと狩人を見詰めた。


「へっへ~。もちろん差し上げる訳にゃいきやせん。」


狩人は頭をぼりぼり掻き毟る。やはり裏ありか。


「御者ってはの私です。馬車とかのお代は頂きやせんが、全て一式貸出しって事で・・・私の、その・・・報酬を・・・。」


そういう事か。


「それで、いくらだ?」

「いやぁ~実はうちにはガキが3人いやして、食ってく事にはなんの問題も無いんですがね。一番上が今年で10になりやして、学校・・・なんてのに行きてぇなんて言い出しましてね。まぁ、親としてどうにかしてやりてぇなぁ~なんて思ってたんでさ。」

「ほう。確かにこれからの世の中は勉学が必要だからな。それで、いくら欲しいんだ?」

「そうでしょう!私もそう思ってたんですよ。ところがうちのヤツは、そんなもん必要ねぇなんていうんですよ?旦那からもなんか言ってやってくだせぇ。」

「分かった分かった。だからいくら欲しいんだ!?」


俺が苛立つと狩人は驚いた顔をする。


「あ・・ああ、すまねぇ旦那。どうも私の悪い癖でして、なんて言うか自分の言いてぇ事を言っちまうんでさぁ。うちのヤツにも良くそれで怒鳴られちまう。あ・・・。」


俺が睨んでいると分かり背を丸めた。


「あの、馬一頭分くれぇ欲しいです。」


上目使いで俺を見詰めてくる。

馬一頭分か・・・結構高いぞ。


「・・・他を当たる。」


俺が踵を返すと狩人は慌てて回り込んできた。


「ま、待ってくだせぇ!乗合馬車の3倍・・・いや2倍でどうでしょう?」


バッガスの檻・・・いや、座席を考えると妥当だろうな。

まぁ子供のために金が必要って言うなら少し色を付けてやるか。


「まぁ3倍で良いぞ。」


俺の言葉に、狩人はボロボロの歯を「にぃ」と見せ付け笑った。


「私の名前は、タミンって言いやす。旦那は実にお目が高い!粉骨砕身で頑張りやすぜ!」

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