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赤い集団 ⑤

アーデ達をぐるりと取り囲む、赤いとんがり帽子の集団。

妖精族の中でも極めて残酷で人の血を好む種族だ。

見た目は人間の子供くらいの背丈だが、顔はしわくちゃで老人の様だ。

奴らのトレードマークは、殺した相手の血で染め上げた真っ赤なとんがり帽子だ。


「なんでこんなところに!?」


走りながらグリムが叫ぶ。

それもそのはず、奴らは血が多く流され廃墟となった城や塔等を棲み処とし、近付いた人間を襲う。

こんな街中まで出向くことはまず有り得ない。

はっきりと見えてきた二人は、アーデが両手を広げリテルを背に庇いレッドキャップ達を睨み付けている。


「アーデ!」


俺の声に気付くとアーデは引き攣った安堵の顔を見せる。

レッドキャップはその隙を見逃してはくれなかった。


「キィィィィィィ!」


奇声を上げ、1匹がアーデに向かって飛び出した。

アーデは武器を持っていない。

俺達は川辺に降りる斜面を駆け下りる。

レッドキャップが持っていた錆びついた斧を振り上げ、アーデが恐怖で目を瞑る。

間に合わない!そう思った矢先、勢いよく斧を振り上げたレッドキャップが、そのまま後ろへふんぞり返ると頭から水の中へ倒れた。

その間に、俺達は水しぶきを上げ、アーデ達の元へ辿り着いた。


「大丈夫か!?」


俺の問い掛けに、アーデは小さく頷く。

倒れたレッドキャップを見ると、こめかみに小型の投げナイフが突き刺さっている。

これは、グリムの投げナイフか。


「間一髪~。」


グリムがナイフを手に持ち、ウインクして見せた。

俺達の登場にレッドキャップ達がザワつき始めた。


「ミツケタ。」

「ホシミツケタ。」


しゃがれた声が聞こえる。


「ホシ?」


俺は身構える。


「なに?」


隣で身構えているグリムが言う。


「ホシを見付けたって・・・どういう意味だ?」


俺の言葉にグリムが眉をひそめる。


「なに言ってんの?言葉なんてわかる訳無いでしょ。」

グリムが言う。

確かにそうだ。

妖精語なんて習っていない。

今のはそう聞こえただけ・・・?


「チカラナイ。カンジナイ。」

「ヒカリナイ。ナイ。」


違う。確かに聞こえる。


「力無い?光・・・無い?」


光・・・力・・・。光の力・・・・。


「光の力無い!」


俺は思わず声を上げる。


「な、なによ?」


グリムがその声に驚き、尻尾の毛を逆立てた。


「バレてるんだよ!アーデ達の力が失われてる事を!」


きっとそういう事だ。

細かい事はまだ良く分からないが、そうとしか考えられない。


「グリム!バッガス!一匹も逃すな・・・殲滅する!」


俺は真っ先に飛び出し、とにかく目についた一匹をぶん殴る。

メキメキと骨を砕く音が、拳から腕を伝わり脳を刺激すると武者震いが込み上げてきた。

殴られたそいつは、顔が陥没し、仲間を巻き込み吹っ飛んだ。

その様子にレッドキャップ達は憤り、一斉に声を上げた。


「ギャーギャーうるせぇな。グリムは左を、バッガスは右を頼む。」

「りょーかい!」

「うむ。」


そう言葉だけ残し、グリムとバッガスはレッドキャップの群れの中に突入していった。

面と向かっては言わないが、グリムの弓の腕前は絶品で、ナイフの腕前も最高だ。

猫の獣人だけあって、身のこなしはしなやかで美しい。

レッドキャップの群れの中で戦うグリムはまるで踊っているかの様だ。

最小限の一撃は自らの死を悟る間も無いだろう。

バッガスは、相変わらず大熊に変身すると、その肉厚な手と鋭い爪で、レッドキャップ達を引き裂いて行く。

それは圧倒的で、少々レッドキャップ達が可哀そうにも見える。


「俺も負けてらんねぇな。」


俺は右腕を肩からぐるぐる回しながら、取り囲むレッドキャップ達に近寄る。

すると、2匹が同時に斧を振り上げ飛び掛かってきた。


「振り上げが遅い!」


左側のやつの斧を右手で受け流し、右側のやつの顔面にまず蹴りを入れる。

勢いのまま受け流されてバランスを崩しているやつの後頭部を鷲掴みにすると川面から飛び出している尖った石に叩きつけた。


「なんだか最近、素手ばっかりだな。」


武器さえあればもっと簡単なんだが。

そう思い、ふと足元を見るとレッドキャップ愛用の斧があるじゃないか。

俺は斧を手に取った。


「うあ!」


手に取った瞬間、柄がヌルッと滑る。

すぐさま投げ捨てると川で手を洗ってみたが、時すでに遅く、軽く匂いを嗅いでみると手垢と血の混ざり合った匂いが鼻を衝いた。


「くっさ・・・。」


俺が取れない匂いに愕然としていると、突然悲鳴が上がった。

リテルの声。振り向くと1匹のレッドキャップがアーデ達に近付いている。


「やべ!」


俺は向かおうと1歩踏み出したが、そこで止めた。

リテルを守るように立つアーデとクリア。

二人の目はいつに無く力があった。

なるほど、あれが勇者の目か。

アーデが気合いの声を上げると、レッドキャップが一瞬怯む。

その隙を逃さずクリアがレッドキャップの斧を持つ腕を押さえた。


「わぁぁぁぁぁぁ!」


アーデが叫びながらレッドキャップを押し倒す。

クリアから奪い取った斧を受け取ると勢い良く振り下ろした。

アーデは動かなくなったレッドキャップの上から後ずさりするように立ち上がると川の中に尻餅をついた。

良くやった。

俺は心の中でそう言うと声をかけた。


「二人とも、手の匂い嗅いでみろ!」


その言葉にアーデとクリアは手に顔を近づけ苦悶の表情を浮かべた。

さて、さっさと終わらせてしまわないと。

俺の目の前に残るレッドキャップは5匹か。

ボヤボヤしていたらグリムとバッガスに手柄を持って行かれそうだ。

俺は、戸惑うレッドキャップ達に向かって川から拾った石ころを投げ付けた。


「ほれ!こい!遊んでやるよ!チッチッチ。」


手を叩き、口を鳴らすと、さすがに馬鹿にされているのが分かったのか5匹は怒りの声を上げながら突進して来た。

先頭の一撃を軽くかわし、そいつの手ごと斧を掴むと振り回し2匹の首をはねた。

手ごと掴まれたそいつは俺の腕に噛み付こうとしたので水面に叩き付け頭を踏み潰した。

残り2匹はその様子に戸惑いを見せる。


「おいおい。ビビんなよ?」


圧倒的有利な力の差に思わず笑みがこぼれる。

俺は、大きく踏み込むと同時に水面をかすめるアッパーカットをレッドキャップの腹部へめり込ませた。

空を舞う1匹を、もう1匹が唖然と見上げる。

さすがに恐怖を覚えたそいつは一目散に逃げ出した。


「あ!コラ!逃げんな!」


ヤバい。

1匹も逃がす訳にはいかない。

レッドキャップは魔族と通じている。

もし、アーデ達の事がバレているのだとしたら一大事だ。


「グリム!」


俺の声に気付いたグリムは戦っていたレッドキャップの眉間からナイフを抜くと逃げ出した1匹に向かって投げた。

ナイフは、レッドキャップの後頭部に命中し、小さな呻きと共に川岸に倒れ込んだ。

そこで「あっ」と声を上げたのはリテルだ。

グリムのナイフで絶命したレッドキャップが倒れ込んだ場所には見覚えのある籠が・・・。

ぶつかった勢いで蓋が開き、中から出て来た5本の長細い影が草むらへと消えて行った。


「あー!」


グリムが声を上げる。

駆け付けた俺達の目の前には空になったイタチの籠が転がっていた。

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