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12話 就活はきびしい、就職(偽学者)前に転職(脳筋)

スタタッ スタタッ ザッ ザッ ザッ

うむ、なかなかに気持ちいいなぁ、大自然の中をのんびりと走るのはとても良いものだ。

横に並んで同じ様に走っている狼妃の背に乗っている二人も実に気持ち良さそうに

して・・・・・・・いない、泣きそうな強ばった表情で必死に狼妃にしがみついている。


「タダッ このままじゃヤバイって、草原で追いつかれなくても

 森に入って速度が落ちたら囲まれて襲われるよっ!!」

「いや~、もう少し位置的に纏まってくれないと魔法の範囲から漏れそうでさぁ。」

実際の処、範囲魔法の有効効果範囲は把握出来ていない、単純に試行回数が少な過ぎて

どの位ターゲットした目標から離れると効果範囲から外れるのかがわかってないのだ。

ここまで試すにしても対象になる敵ってのがほとんどいなかったからなぁ。


・・・・・などと比較的に落ち着いて考えながら走っている俺と焦りまくっている二人。

どういう状況なのかと言えば、草原を移動中ステップハウンドに気付かれて追いかけられ

追いかけられつつ、さらに別のステップハウンドに見つかり追われるという

由緒正しい、MMORPGで言う処のいわゆる列車(トレイン)状態な訳である。

幸いにしてこの速度で走ってる限り、追いかけてくるステップハウンドとの距離は縮まっていない。


いざとなれば範囲睡眠で寝かしてしまえばなんとかなるだろうと気楽に考えていたのだが

ここにきて向かっている森の方からMAPに新しい白い点の表示が見えてきてしまった。

白い表示は中立のはず、追っ手ではなくて森の方から来てるってのは村の住人か?

ここでいきなり俺の魔法を見せるのはどうなんだろうか、無論 危ない状況になりそうなら

ためらわずになんでも使うけど、出来れば道に迷った普通の人に見られたいとこだなぁ。

まだこっちには気付いてないっぽい今のうちに処理しといたほうが良いかなー。


「シング、追いかけてきてるのを寝かす、範囲から漏れたのが来るかもしれないけど

 そうしたら連続で魔法使うから狼妃にまかせてペンタを抱えていてくれっ。」

「う、ああ、わかったよ」

「狼妃、それ以上森の方に近づくな。おれのうしろで待機。」

「ウォンッ」

軽く吠えて答えて、立ち止まり

追いかけてくるステップハウンドをターゲットする俺の後ろに回り込む狼妃。

一番手前のじゃなくて二匹程後ろのにタゲっておいて・・・・・、あれっ?

タゲれるってことは魔法の射程に入ってるのか? なんかえらく遠いような・・・・・・。

まぁ、いいや 範囲睡眠(スリープス) Iでミスったら範囲睡眠(スリープス) IIを重ねれば

なんとかなるだろ、呪歌も使えるはずだし・・・・・・生歌ってのがはずかしいが。


なにはともあれ、いっけっー 「範囲睡眠(スリープス) I」発動っと。

うむ、ピタリとその場で立ったまま眠りについたようだ、あ、いや倒れ込んでいって寝てるのか。

どうやら漏れなく寝たようだなー、範囲広くなってるな、あきらかに。

後はほっときゃ8時間くらいで勝手に起きてテリトリーに戻っていくだろう。


「おまたせ~、追っかけて来てたのは寝かしたからここからはゆっくり行こう。」

「あ、あの数のステップハウンドを全部、睡眠状態にしたのかい? あの一瞬で?」

ん?、睡眠系ってかかる時は一瞬じゃないのか?ゲームの仕様ではそうだったんだけど。

俺が疑問を顔に浮かべていたのに気づいたんだろう、シングが説明してくれた。

「あたしが知ってる範囲での睡眠状態にする魔法ってのは段々と眠気に囚われて

 数分以上かけて効果が出るもので、あんな一瞬で意識を刈り取る様なのは聞いたことないね。」

「相手の行動阻害って意味だとすぐに効果が出る方が有効だろ?」

「非常識って言ってるのさ、あんなの戦場で使われたら騎士団でも崩壊するんじゃないの?」

「う~む、気をつけるよ、人前では使わない方が無難てことだな。」

使うなら単体睡眠のが安全か? 効果発動時間が異常ってんなら見られたらまずいのは同じか。


麓の森の方に向かいながらシングに気になる事を聞いてみる。

「あー、俺の得意なのってああいう相手の行動の邪魔をする魔法が多いんだけどさ。」

「珍しいねぇ、魔力はそんなに必要じゃないけどかなり器用じゃないと難しいから

 使う人の少ない魔法って聞いてるよ、そういうのを修行してたのかい?」

「そうだなぁ、それに重点を置いて修行というか、時間を使っては

 (スキル上げとかステータスポイントを振り分けたりはして)いたんだが。」

「ふーん、あたしの使えるのはそっち系だと 綻び 位なんでよくわかんないけど

 あれもいまいち効果が薄いってか、効いてるのか判りにくくてねぇ。」

綻び、かぁ MMOと同じ魔法なら発動時に極小ダメージ&極小の継続ダメージ&防御力ダウン5%

って感じの効果のはずだけど、確かにそれだと効果としては実感しにくいだろうなぁ。


「うん、それで聞きたいんだけど、そういう行動阻害系の魔法って発動は即時・・・・・・じゃないの?」

「・・・・・あんたが常識ないってのは最初に聞いたけど、使う魔法も常識がないのかい?

 睡眠系はさっき言った通り、他のも大抵はじわじわ効果が出るもんだってのが普通じゃない?」

あちゃー、ここに来て得意な魔法が違和感バリバリで人前で使いづらいとか、ないわ~。

この分だと武器付与魔法とかも異常に見られる気がするなぁ・・・・・、しばらく封印かぁ。

いっそのこと純戦士を装うかねぇ、切ったり殴ったりならそんなに変わらないだろうし。


「ふ~む、いずれにしろ魔法はなるべく使わないほうが良いってのは確定か。」

「そうだねぇ、男の魔法使いってだけでも結構珍しいのに、その魔法はねぇ・・・・・・。」

「えっ、男の魔法使いって珍しいの? 其の辺の事も詳しく教えてよ。」

「・・・・・言葉が通じるのにそんな事知らないってどういう環境(ところ)にいたんだか・・・・・。」

呆れながらもシングが話してくれた内容によると


この世界(特に呼び名とかはなくて、ただ世界というらしい)、魔力はほぼすべての

生き物、植物、鉱物といった全てのものにあるという事だそうだ。

当然、人(亜人と呼ばれる種を含む)はすべて魔力を持ってはいる。


持ってはいるが、魔法使いとしてそれを世界(ここでは現実というくらいの意味らしい)に

行使して影響を与える事が出来る(つまり魔法が使える)のは全体の一割~二割といった数らしい。

行使出来るかどうかってのは魔力量とか才能ってことだそうだ。


つまり、ある村に100人の住人がいたら、魔法を使えるのは10~20人程度。

ただしその中でも生活に使う様な、消費する魔力の少ない着火とかをなんとか使えるのが

半分以上との事で、戦闘に使える小火球クラスのが使えるのは一人か二人位らしい。

そして魔力を外に使うのは女性の方が得意にしているという事で

いわゆる魔法使いというのが10人いたら、7~8人は女性という話だった。

男性は内向きに魔力を使うのが得意とされていて、自己強化の魔法を使うのが多いとの事。

筋力を強化したり、目を強化して攻撃を見切ってみたりという感じに使うらしい。

王国の騎士団でも、前衛に立つのはほとんどが男性で

女性は後方からの遠距離攻撃が主体と言うふうに役割分担しているらしい。

無論、女性の騎士もいれば男性の魔法使いも騎士団には居るが少数派という事だそうだ。


「っという事は、俺が魔法使うと目立っちゃう?」

「まぁ、前に言った通り II系くらいまでなら、騎士団になら居るし、魔法使いの傭兵なら

 ギルドで引っ張りだこになる・・・・・くらいかね。」

うん、人前では魔法使用禁止だな、めんどくさい事になる予感がするわ。

「しゃあないな、魔法は使わずに脳筋で行くしかないか・・・・・・。」

「のうきん? なんだいそれ?」

流石にスラングのたぐいは自動翻訳が効かないか。

「なんかあったら物理的に攻撃して対応することにしようかなって思ってね。」

「ああ、強化付与が使えるならその方が目立たないのは確かにそうだね。」

「いや、強化付与の魔法も無しで。」

「はぁっ? タダ あんた素で戦えるのかい? ・・・・・って

 そう言えば投擲でステップハウンドをあっという間に片付けたんだっけ。」

うん、アレは武器の性能とクリティカルの発生とか色々あると思うけどねー。


「蘇生魔法やら治療魔法が非常識すぎて認識できてなかったけど

 考えてみたらアレも普通じゃありえないか、ほとんど一撃じゃなかった?」

「あ~、おそらくだけど、ステップハウンド程度ならやり方を気にしなければ

 問題にはならない感じで処理出来ると思う、武器にもよるけど。」


流石に素手殴りだとダメージ値の補正がないし・・・・・、ないよな?

うーん、格闘のゲーム時の仕様は確か、STR値が基本でそれに格闘武器の

ダメージ値が加算されてDEX値の差でクリティカルの発生率が計算される・・・・・・。

駄目だ、今の壊れたステータス値だと武器のダメージ値とか加算せずとも素で

バカみたいな攻撃力になってる可能性がある・・・・・クリティカルも出まくるぞ。

手加減してそっと殴るとかしなきゃいかんのではなかろうか?

手加減できるよな、きっと。パンを握りつぶしたりはしてないんだし。


「タダがそう言うんなら戦闘時の対応は任せるけどさ、ペンタが危なくなったりするのは

 避けたいんだよ、そういう時はその・・・・・。」

まぁ、範囲睡眠(スリープス)を見ちゃうと複数の敵に対してはアレ以上に安心出来る手段は

そうそうないだろうからなぁ。

「情報を貰う代わりの護衛だからな、取引した以上二人は出来るだけ安全に街まで

 送るよ、それに俺の強化付与、おそらくだけど非常識なことになってると思うんで

 目立つのはかえって余計な面倒事を引き寄せるんじゃないかと思うのよ。」

「確かにそうだねぇ、まぁ近場の村で多少なりとも現金を作って、あとは大きめの村か

 街のスラムで居場所を確保するまで一緒にいてくれれば後はなんとかするさ。」

スラム? ああ街の中には手配書が回ってたら入れないし、ギルドで仕事も受けれないのか。

ふーむ、スラムとかじゃあ不衛生だろうし、前にいた街で治療魔法で稼いでたら

薬屋とかに邪魔者扱いされて、密告されて賞金目当てに追っかけられたんだっけ。

同じ事が起こらないようにするには稼ぎを抑えるしかないんだろうけど

そんなことしてたら食えなくて今以上に悲惨なことになるよなぁ。


ま、ここまできたらできるだけのことはしてやりたいな、子供が痩せてるの見たくねぇし。


「うっし、そろそろ森の方からこっちが見えるかもしれないからいったん狼妃を戻すぞ。」

二人を狼妃から降ろして狼妃を送還する、当然送還前にガシガシと撫で回しておいた。


「ペンタはおれが背負うか? まだシングも足きついんじゃないか?」

「いや・・・・・、それがゆっくり寝かせてもらってたっぷり食べさせてもらったからなのか、

 すっかり痛みも疲れもなくなってて・・・・・

 身体の芯からジワジワ温かくって 今なら走るのも全然平気みたいなんだ。」

寝てる間にかけておいた再生治癒(リジェネーション)が効きすぎたか?


「そっか、それならペンタはシングにまかせるとして、と南の森の方に

 人が居るみたいなんだけど、近い方の村の人かな?」

「んん? この距離だとあたしにはわからないね、どの辺だい?」

森の際で3つの白点がMAPに表示されているあたりを指差して

「あの辺の、ほら 一本高い木があって手前に茶色い茂みっぽいのがあるあたりに3人居る。」

「森から草原側に出てるならともかく、森側に入ってるんなら見分けがつくもんじゃないだろ?」

「そういうもんか、ん~んと・・・・・・、杜人(エルフ)か?」

MAPで範囲指定して検索してみるとそこにいたのは3人の杜人(エルフ)と表示された。


「エルフ? ならおそらく近い方の村の狩人だと思うけど、

 この距離で森の中にいるエルフを

 見つけるなんて、どんな眼をしてるんだい、タダって?」

「狩人かぁ、仕事中だと下手に声かけるのはまずいかな? 狩りの最中だったりすると。」

シングの疑問を疑問で返してこのまま近づいていいものなのか考えていると

突然、MAPに表示されている白点がこちらに向かって動き出した。

同時に黄色の点が新しくMAP上に現れて白点を追いかけるように動いている。


「シング、なんかがエルフを追いかけてこっちに向かって来てる。」

MAP上では[調べて]みると{ホーンドベア}と出た。

「ホーンドベアって奴みたいだけど、知ってるか?」

「ホーンドベア? 森の奥の方、どっちかって言うと山の麓に近いあたりにいる獣よ

 大きさにもよるけど、ステップハウンドよりは格下で、・・・・・でも普通の狩人じゃ

 10人以上で追い込みをかけて仕留める獣のはず、3人じゃあ・・・・・。」

だろうなぁ、バラバラになりつつ逃げてるっぽいもんなぁ。

あ、こっちに向かって草原に出てきたエルフを追っかけて来たみたいだな。


「シング、丁度良いっちゃなんだが、助けに行く、俺より前に出ない様にして

 付いてきてくれっ。」

「わ、わかった、やれるんだよね? あたしじゃどうにも出来ないけど・・・・・・。」

「余裕があったら{綻び}でもかけてくれ、売れる恩ならあるだけ売っておくっ。」


俺はそう言うと草原に出てきたエルフを追いかけるホーンドベアをターゲットして走りだした。

片手棍と小さな丸い金属盾を装備したのは流石に聞いた相手(ホーンドベア)

強さらしいものから素手で殴ってというのはおかしいと判断したからで

名前からして角持ちのクマってとこだろうから、角と爪、噛み付きあたりを

金属盾でしのいで鼻っつらを片手棍で殴りつければひるんでなんとかなるだろう。


・・・・・・・なんて考えてた訳ですが、いやー、下手な考え休むに似たりとは言うけれど

素手で殴るのに手加減しなけりゃいかんとか考えてたはずなのに

俺から見て軽く見上げる感じになる、体長約2.5mの真っ黒な体毛のクマ。

ヘラジカみたいなでっかい横に広がった角、爪も見てわかるくらいに長い。

あー、涎を垂らしてる口の中、真っ赤だわ、こえええええええっ。


っと、地面の石にでも足をとられたのか、転んでしまって起き上がろうとしているエルフと目があった。

まだ若い少年と言っていいんじゃなかろうか、エルフの年なんてわかんないけど。

一瞬、見開かれた瞳はすぐに後ろに迫ったホーンドベアに向けられて

こちらから見えなくなったその表情はおそらくは恐怖と諦めとに染まっていたのだろう。

振り上げられたホーンドベアの右手の爪が、若いエルフを叩き潰す様に振り下ろされる


ブゥンッ 

風を切るというより風ごと押し込む様な音がして

ブッシャーーーーーーッ

真っ赤な血が派手に吹き出し若いエルフの上半身をべっとりと濡らす。

グガアアアアアアアアアッ

ビリビリと鼓膜に響く叫びをあげてよろめくホーンドベアの鼻っつらに金属の盾が

ビッターーーーンと投げつけられて張り付いている。


いや、ほんとフリスビーみたいに投げてたら、おそらく首チョンパになってたと思うと

上手く鼻っつらを潰すように投げれた自分を褒めていいと思うのよね、本気で。

片手棍? 思わず最初に投げつけちゃってホーンドベアの振り上げた右手は

回転して投擲された片手棍でポーンッて、ポーンッって・・・・・・。

二の腕あたりで切断されて飛んでっちゃったよ(泣)。

手加減とかどこ行ったんだよ、エルフのにーちゃん、真っ赤に血で染まっちゃったよ。


どーすんだよ、これ。あ、エルフのにーちゃん白目むいてぶっ倒れた。







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