一
「な…んだ、と?」
景政の刺すような視線に一瞬怯んだ義影。対して景政は気にも留めずに静かに言葉を連ねた。
「私は構いません」
「若?」
「陣頭指揮の任、承ります」
「若?!な、一体何を…?!」
側近たちから挙がる驚きの声。
しかし、景政はそれまでの無表情とは一転、ニコッと笑って上座の義影を見た。
「楽しみだなぁ」
「!?」
「私に任せるということは、この国の兵を私の好きに動かせるんですよね。……面白そうですね」
景政の危なっかしい言葉に側近たちは再び驚き、義影はというと笑いだした。
「ふ、ハハハ!ほんにお前は馬鹿息子じゃ!戦というものを知らぬ故、そんなことを言えるのであろう。そうじゃ、お前のような男は一度経験してみるべきじゃ!」
機嫌良く笑う義影とは反対に、側近たちの顔色は青くなる。
「何をおっしゃいますか!殿、若様も、負ければただではすみませぬぞ!我々、否、この国の民はどうなります?!」
「何、戦況が危うくなれば諸国に援軍を出させれば良いではないか」
「殿!!」
側近たちの青くなる理由は他にもあった。兵の指揮をした経験も無いどころか戦にさえ出たことのない、世間知らずな若君に対する不安ももちろんではあるが…―――――問題はもうひとつ。
クスクスと気だるそうに笑う景政が、笑顔のまま義影に尋ねる。
「ただ、ひとつ確認しておきますが父上」
「何じゃ」
「この国の将軍である父上が自ら戦場に出ず、息子である私に全権指揮を任せるということ…――――これが何を意味するか、父上はもちろん分かっていらっしゃいますよね?」
これには側近たちからも賛同の声が挙がった。
「そうですぞ殿!よくお考えを!」
―――――そろそろか。
必死な側近に対し、景政は長く伸ばした前髪をいじりながら楽しげに言う。
「まさか父上、お忘れで?」
「ふん、何を言うかと思えばそんなことか」
「…ということは承知の上というわけですね。――――この国の《しきたり》」




