二
大国にはどの国にもそれぞれ特有の《しきたり》というものがある。
それは結婚であったり、後継者についてであったりと様々。
それが、羽間の場合は「戦」だった。
《ひとつ、羽間を統べる者、すなわち将軍の地位にある者、戦の際、必ず自ら戦場に赴き指揮すべし》
《ひとつ、将軍の地位にありながら戦場に行くことが叶わぬ者は、速やかに次代の将軍に地位を譲るべし》
羽間の豪雄猛者な先代も先々代たちもこの《しきたり》にならい、それ故羽間は揺らぐことの無い「力」を絶やさず継承し、現在までの大国へと伸し上がってきたのだ。
「古い慣習など知ったことか。それにわしはまだ戦場に行ける。何じゃ景政、まさか貴様、将軍の地位を狙うておるのか?」
危惧するでもなく嘲笑する義影。
しかし景政は顔をしかめるどころか更に笑って言った。
「私が?まさか。……父上ならそうおっしゃると思っていましたよ」
「ふん。…そうじゃ、お前にも皆にも言ってなかったことがある」
思いついたように言う義影。
この上さらにまだ何かあるのかと構える側近たちと、終始笑みをたたえている景政。それはもちろん、男にも魅惑的な微笑。
琴菊などはちらちらと景政の方を盗み見ていた。
「わしの跡目のことじゃが、景政。そなたには継がせぬ」
「「「「「!?」」」」」」
「………」
今にも倒れそうな側近たちを尻目に、面白そうに唇を歪ませる景政。ふと女性二人に視線を向けると、琴菊も椿も驚愕の表情で唖然としていた。
「と……殿!お戯れが過ぎますぞ!!」
「若君がお継ぎにならねば一体どなたがいると?!我が国に男君は景政様おひとりにございます!!」
責め立てる側近たち。しかし義影は二ヤリと笑って言った。「ひとりではない」と。
「密かに囲うておった女に産ませた子がおる。もちろん男じゃ」
「な…ッ」
「しかし…失礼ながらお相手の方は全うなお血筋ではないのでは」
「血筋血筋と五月蠅き者たちよの。血筋が大事ならそのうちそこの琴菊が産むであろ。…しかしなぁ、わしはそこに居るわしの『息子』面して座る者より、我が妾に産ませた子の方がよほど血筋は正しい思うが…のう爺よ?」
聞かれた家老は顔をしかめながら額を畳につけた。
「殿、突然のことで皆も私めも混乱しております。今日のところは一旦…」
「そうじゃな……では景政、よろしく頼むぞ」
そう言って席を立った義影に続き、皆それぞれに部屋を出て行く。残ったのは足を崩して座る景政と、家老の爺のみ。
「『向こう』はどうだ、爺」
「上々にございます」
そうか、と笑い景政は立ちあがる。
「部屋へ戻る。…ああ、そうだ…爺、後で良い、これを彼女に」
景政は懐から「それ」を取り出すと、爺に声を落として耳打ちした。
「よろしく頼む」
「承りました」
*
広々とした廊下に出、景政はふと離れを見た。
「……」
小さい声で呟く。
「――――――朔」
「ここに」
「離れに…彼女の様子を見てきてくれ」
「ご様子を?」
お互いほとんど聞き取れない声での会話だが、二人とも的確に返事を返す。
「乳母の様子が変だった故、少し気になってな…」
「御意」
――――――椿…
景政はしばらく離れを見つめた後、きびすを返してその場を去った。




