三
染乃はこの状況を、先刻立て続けに起こった心労のあまり、椿が引き籠って泣いていると思っているのだろう。
だが、椿は涙など流してはいなかった。
何も考えたくはないが、もう「事」は起きて進んでしまっている。
盲目であることや、姫などということを逃げにせず、考えねばならない。
「…落ち着かねば」
小さな声で自分を律し、心を静める。泣いてばかりではいられない。「あの方」に頼ってばかりではいけない。
―――どうすれば、良いのか。
諦めたのか、外にはもう染乃はいないようだ。
しん…となる室内。
椿は耳をすませた。そして
「そこの者。名を名乗りなさい」
答えはない。椿は口調を強くしてさらに問う。
「どなたの指図ですか」
ややあって天井から声がした。
「……よくお気づきに」
「気配でわかります。…声からしてまだお若いようですね。もう一度聞きます。どなたの指図で?」
こともなげに「気配で」と答えた椿に対し、相手はわずかに驚いたようだった。
「お答しかねます」
「景政様ですね?」
「……」
「肯定と受け取っておきます。名は?」
小さな声で矢継ぎ早に問う椿。
「………。………朔」
朔は聞かれるがままに答えた。
椿は再び耳をすませる。
「では、朔。あなたにお願いがあります」




