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二
城の離れの一角から、女性の声が響く。
椿の乳母、染乃の声だった。
ドンドン!!
「姫様!!ここをお開け下さいませ!姫様!!」
「……しばらく、ひとりにさせて」
重厚な板の向こうから、か細く聞こえる椿の声。
戸を固く閉ざした明りのない部屋の中、椿は茫然と、人形のように座っていた。
「―――――景政様…」
―――――ああ、もう何も考えたくない。
*
『我が正妻は、琴菊…そなたじゃ』
『…有り難き幸せに存じます』
『そして』
見えなくても分かった。
この続きが、決して良いものではないということくらい。
『椿、そなたは我が側妻とする』
――――側妻…
『…わたくし…が……側妻…?』
『一人に決めようと思うたのじゃがな、どちらも捨て難くての』
『……』
この上ない屈辱。それでも、この身ひとつならまだ良かった。
『そうじゃ、皆にもうひとう言わねばならことがあった』
人はいくつ苦難を越えねばならないのか。
『次の戦は景政、そなたが将軍代理として指揮せよ。陣頭に立て』




