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二
「…?!…景政様…何を?」
椿はなじみのない痛みに戸惑う。
「“印”をつけただけだ」
「印?」
「そう」
景政の腕が伸び、椿の背に添えられた。
抱きしめられる度感じる心地よい暖かさと、 戸惑い。
だめだとわかっているのに
誰かに気付かれる前に離れなければいけないのに…
―――…あと少しだけ……もう少し…
景政は椿の長い黒髪をひと房すくい、口づけた。 人差し指と中指に、絹のような髪を絡ませる。
何度も椿の唇を味わいながら景政は囁いた。
「……今……お前を抱いたら、婚儀の夜あの男はどんな顔をするのだろうな」
椿はビクッと身を固くし、景政の着物を掴んだ。
「………わたくしは…」
「確率は二分の一だが……もしお前が選ばれて、生娘でないことがわかったら……どうなるかわかるか?」
「……存じております」
椿自身はその場で死、父に…祖国、薄巳に危害が及ぶ。
「覚悟はあるか…?」
淡々とした口調。でもその声は真剣だった。
自分ひとりの気持ちで今宵一晩の過ちを犯し、国の父を……民を裏切るか
気持ちに蓋をし、国のために今この時を忘れ 生きてゆくか…。
覚悟はできていた。




