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三
父を、数万の民を裏切ってでも
このぬくもりを離したくなかった。
「…景政様」
「椿…」
「――…………お慕いしております」
引き寄せられた腕に、激しい口づけに感じる悦び
そして
引き返すことのできない過ち…。
一夜の愛
明日には目覚める現実。
浅き夢だとわかっている。
―――……それでも…私は…。
*
――――……。
「………」
目が覚め、暗闇の中静かに隣に手を這わせた。
――……まだ…いらっしゃる…
人肌のぬくもりを確認し、椿はほっとした。
「起きたか?」
「…!…起きていらっしゃったのですか」
「ああ」
どうやら椿が触れていたのは彼の腕らしかった。そっと離すと逆に腕を掴まれ、抱き寄せられる。
「…景政様?」
「春の夜はまだ冷える」
たしかに、触れ合う肌と肌の温かさが心地よい。
――……景政様
景政は飽きることなく椿の髪を愛しげにすく。
「景政様は御髪を剃ってませんのね。まげは結わないのですか?」
「あんな堅苦しい髪型になどしたくない」
「怒られませんの?」
「怒られるな」
「まぁ」
クスクスと睦言を囁きあう一時の幸福。
そして何かを確かめるように、何度も口づけしあった。




