ボディガードの日常(月森Side)
今日からボクがボディガードとして葉山くんのことを護らないといけない。他の誰かを頼れない。
葉山くんの安全を確保して、大学生活が安心して行えるようにしないと。
葉山くんのお迎えだけは今までと同じように双葉先輩が行う。でも、大学の敷地内に入り、葉山くんが車を降りた瞬間からボクが護らないと。
「おはようございます、月森先輩」
「おはよう、葉山くん」
ボクは葉山くんの荷物を持ち、講義が行われる場所まで付きそう。葉山くんが先を歩き、ボクが数歩後を歩く。
講義を行う部屋に着き、席に座るとその隣にボクも座る。今までこのポジションは双葉先輩がずっと独占したので隣に座るということがまだ慣れない。
葉山くんが受ける講義は『AIとデータサイエンス』というもの。これは一年生の必修科目で、ボクも一年前に履修した科目だ。この講義であれば、葉山くんが困っている時に教える事ができる。
隣に視線を移すと講義を受ける準備を進めていた。彼の横顔を始めてみたけど、やっぱりとってもカッコよくて可愛い人だ。
「かわいい…」
自然と声が出ていて、それは葉山くんの耳にもたぶん届いた。
だから彼の視線がボクの方に向いた。
でも、どうやら何かを呟いたのは分かっていも何を言っているのかは分かっていない様子だった。
「何か言いましたか?」
「大丈夫。ちょっと声が漏れちゃっただけ」
自分の気持ちが声に出てしまうのは避けないと。葉山くんはどんなことでも受け入れてくれるような存在だけど、どんなことで引かれちゃうか分からないし。
「月森先輩」
「うん、どうしたの?」
「まだ講義が始まるまで時間がありますし、ちょっとお話しませんか?」
「うん、わかった」
最近はこんな風に二人で話せる時間はあんまりなかったから嬉しい。
「最近、テニスの調子はどうですか?」
「う~ん、普通かな。悪くはないけど、とっても良い感じでもない」
本当は葉山くんに良い報告をしたいところだけど、今はそんな報告はできない。本当に調子はそこまで良くないし。
葉山くんはしばらく考える素振りを見せた後に両手を叩いて、再び視線をボクの方に向けてきた。
「月森先輩の練習を見に行ってもいいですか?」
「え…見に来る?」
「はい、見に行けるんであれば身に行きたいです。だめですか?」
「ううん、全然来てくれるんだったら来て欲しい」
「じゃあ、次に月森先輩がボディガードをしてくれている時に行ってもいいですか?」
「うん」
テニス部の女の子に葉山くんが見られたり、話し掛けられたりするのは嫌だけど、葉山くんが見に来てくれたらいつも以上に頑張れそう。
そう思っていたところでボクはさっきの葉山くんの発言に違和感を覚えた。
「ボクがボディガードをする日…?」
「はい、だめですか?」
「いや、ボディガードをする日は部活に参加しない。それにキミの側を離れるわけにはいかないから」
ボディガードの日は葉山くんのことだけを考える。それ以外のことを考える余裕は全くない。絶対に葉山くんのことを安全に過ごしてもらわないといけないから。
「大丈夫ですよ。ずっと月森先輩の近くにいますし」
「そういうことじゃない。いざって時にボクが護られるようにしないと。テニスをしている時はそっちに集中しちゃうから」
「…離れないですよ?」
「離れなくてだめ」
さすがにボクが折れそうにないのが伝わったのか、葉山くんは「そうですか」と少し声を落としていたものの納得してくれた。
それでもまだ時間があったので今度は葉山くんが近況について話してくれた。最近はゲームにハマっていること、特殊な趣味の人がいてその人と色んなことをした話など。
特殊な趣味の人の話は、その人と距離を置いた方がいいと彼に行ったけど、彼は「でも、良い人なのは分かっているんです!」と言われた。だけど話を聞く限りは『ヤバい人』としか思わなかったけど。
そんな話も一段落したところで葉山くんが急に「迷惑かもしれないですけど、僕にテニスを教えて頂けませんか?」と問いかけてきた。
「テニスを教える…?」
「はい、経験が全然ないので誰か経験者に教えて欲しくて」
「別にいいよ。ボクとしても葉山くんがテニスをやってくれるのは嬉しいから」
誰かにテニスを教えることはあんまりしたことないけど、葉山くんのためだったら色々と勉強しよう。上手く教えるコツとか。
やっぱり初心者への教え方には色々と注意するべきところとかもあると思う。少しでも葉山くんにはテニスの楽しさに気付いてもらい、テニスを継続してもらうことが大切。
そしてその日程などを決めていたら、教授が講義室に入ってきた。
「始まりますね。月森先輩は去年も履修していて暇かもしれませんが、頑張ってください」
「大丈夫。暇じゃないよ」
「そうですか?それならよかったです」
だってボクの隣にはキミがいるんだもん。
キミとどんな形でも一緒に過ごせる時間はボクの人生にとって、とても有意義な時間だ。




