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桃髪の暗殺者  作者: 村山龍香
#5 閑話(2)
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13.殺さない者の日常

村山警備会社の裏仕事。裏の仕事を行う四人のうち、殺しの仕事をするのは龍香と真希の二人。

斉藤龍二とシェリル=コンスタンティウスの二人はそれ以外の仕事を行うことになっている。

「もしもし、村山警備~。ん?ああ?また一般人相手に未許可でぼったくりしてる系列の酒場がある?締め上げろ?わかった、姐さんに聞いてくる。姐さ~ん!」

「死ね、この馬鹿!」

電話で応対する龍二に拳骨が振り下ろされると、龍香が電話を横取りしそのまま応対する。

「痛ぇ~!」

「はいお電話変わりました。どうもうちの者が申し訳ありません。…はい、はい。かしこまりました。お話を伺いに向かわせます。」

龍香は基本的に事務所に人を上げることを良しとしない。創立当初は客を入れていたが、現在では殺し以外では一部の良客を除いては龍二や真希に出向けさせることにしていた。

「おう龍二、電話受けたんだからお前が行ってこい。」

「へいへい」

「返事位まともにしろ!早く行け!」

更に追加で蹴りを受け、事務所から出される。そのやりとりを遠めに見てたシェリルと真希は、チェスを打ちながら呆れたように見ていた。

「…マゾなのかしら、あの男」

「さてどうなんでしょうね。私に度突かれても治りませんし単純に学習能力が足りないんじゃないですか。頭は悪くないはずなんですけど」


「もしもし、開けろ。龍二だ。」

「あーよく来たな。どうでもいいけどこんな応対してんの見られたらまたお前んとこのボスに殴られるぞ」

「聞こえてたか?」

「よくやってられるなって思うよ。あんな気難しい人上にして。でだ、電話の通り一般人相手にやるなって言ってるのにまたうちの馬鹿共がぼったくりしてやがる。灸を据えてやってくれ」

「あいよ。死なねえ程度には加減してやるよ」

「銃も撃ったことねえ癖によく言うよ。とにかくよろしくな」

この男、斉藤龍二は銃を持ちながら一度たりとも人に対して発砲したことはない。そもそも銃もメンテナンスだけはしているが実際に弾丸を撃ったことは殆どなかった。その理由は簡単なものであった。

命のやり取りをするような仕事をしないし、させてももらえないからである。

龍香は興味本位で殺しの仕事の内容を聞いてくる龍二に対して常日頃口にしている言葉がある。この仕事の辛さは人の道を行くものが知ってはならないものだ、と。気になった他人に深く興味を持つことの多い龍二もその中身ばかりは知らないし、知りたいとも思っていなかった。

その夜。龍二は件の酒場に現れる。あくまで一般人を装い、だ。

「お兄さん、飲んでかない?」

「いやーちょうどいいっすね。飲み歩いてるんすよ」

キャッチに()()()引っかかり、酒場に足を踏み入れる。勿論入った時点では何もしない。証拠を抑えたうえで、殴りかかる。発言や態度とは見合わぬ仕事に対する姿勢である。

「お客さん、何にします?」

「ジンあるだけ。」

注文の大きさにバーテンダーが驚くも、言われた通りにあるだけの酒を提供する。龍二が酒に口をつけると、別の客が会計を頼む。

「おあいそ頼みます」

「6万円になります。」

「ええ?俺らラム酒一杯ずつ飲んだだけじゃないですか!」

「お客さーん、払ってもらえないと困りますねえ~」

高すぎる酒代に困惑する客に裏から強面の男たちが現れ暗に払わないなら暴力に訴え出ることを示唆する。そうなってしまったら客は払わざるを得ない。その一連のやりとりを聞いていた龍二は、それからほどなくして酔う手前で酒を飲む手を止め、勘定を要求する。

「マスター、おあいそ頼む」

「飲んでる途中なのにいいんですか?20万円になります。」

「持ち合わせがねえなあ。知り合いに電話かけるんでちょっと話してもらえる?」

そういうと龍二は携帯電話を取り出し、電話をかける。金を持たずに入ってきた男に侮蔑の視線を向け、携帯を男はぶんどり電話に出た。

「もしもし。連れの方がお金を持たずにうちの酒飲んでるんだけど。」

「連れ?そんな筋肉ダルマ連れにした記憶はねえなあ。()()()()()()()()()()()

乱暴な男口調の女が電話に出て、電話をかけた男の顔が一気に青ざめる。そう、その電話に出た知り合いとは村山龍香その人であった。龍香の事を知っているらしいそのバーテンダーの男は目の前の男の正体に勘付き、侮蔑の視線から恐れの視線に変わる。

「つ、辻斬り…」

「私は殺し屋だよボケナスが。どうなるかは察してやったからそこの巨漢に電話戻してもらおうか。電話口で良かったな、そうでなきゃてめえの手首から先その場で取ってるぞ。」

恐る恐るその男は龍二に電話を返す。

「姐さんの事知ってるみたいで話早かったっすわ~。こいつらどうします?」

「とりあえずぼったくった分せしめて締め上げとけ。知っての通り一般人を食い物にする悪党ってのは私の大嫌いな人種だ。二度とそんな気が起こらねえようにしてやれ。切るぞ。」

電話が切れると、龍二は男たちに向き直る。

「…ク、クソッ!こうなったら逆に締め上げちまえ!多勢に無勢だ!」

龍二が構える前に男たちは飛びかかる。しかし、暴力団御用達の腕利きの用心棒でもあるこの男にそんな騙し討ちが通用するはずもなかった。軽く交わすと男の内の1人の後ろに回り、肩を無理矢理に脱臼させる。その肩を脱臼させた男を投げ飛ばし、他の男たちもまとめてなぎ倒した。鍛えられた龍二の体格あってこそ成せる、荒々しい格闘技。素手で且つ執拗に殴る訳でもないため死にこそしないが相手を戦闘不能に陥らせるのには充分な技だった。

「悪いなぁ、複数人相手じゃケガしねえように加減もできねえんだわ。姐さんだったら死んでるけどな。おい、バーテンダー。帳簿と金庫持ってこいや。言う事聞かねえならわかってんだろうな。録音もしてるし上層部呼んでお前も締め上げてもらうことだってこっちはできんだぞ。」

身辺警護をしてくれる男たちは皆倒れ、自身も格闘の心得はあるにせよ目の前の男の技量に勝てる見込みは到底ない。何より、勝てるのであるならば嗾けたりもしない。

逆らうことは、できなかった。


「姐さーん、あがりです」

「お疲れ。私の所に電話かけるたぁ洒落たことしやがんな。電話賃のカンパは貰うよ。…しかし私の事知っててあの手のマネするたぁいい度胸してやがったな」

「ほんとっすよ。電話渡して姐さんの声聞くなり顔面蒼白で吹き出しそうになりましたわ。しかも四人も嗾けといて四人纏めて一分ももたねえし。」

「一応聞いとくけど、死んでねえだろうな」

「あたぼうですよ。あんなんで死なれたらこっちが困ります。とりあえず今回の収益はこんなもんです、姐さんには三割カンパでいいっすかね」

「いや、電話出ただけで三割は流石に貰いすぎだろう。二割でいい。」

帰ってきた後、二三言葉を交わし龍二は自室に戻った。圧倒的な暴力の技量を持ちながらも、人を殺さないことを貫く男。これが、斉藤龍二の日常である。


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