38.横取りって
「重い……」
幾ら74式戦車は馬力があるといっても、荷物を満載した荷車を3台も牽引していると重くて仕方がない。牽引車両は自走してくれたからまだしも、荷車は単順に引っ張るので重い。
盗賊が溜め込んでいた大量の金品、食料や酒、縛り上げて詰め込んだ盗賊達、正直大変で仕方がない。
「今回の分け前はでかいぞう!」
リーダーの男は満面の笑みで手に入れた馬に乗っている。
規模に合わないほど溜め込んでいたらしくて、他の冒険者達もかなり上機嫌、まだ帰り道だっていうのに酒を飲んでいるのまでいるのでめんどくさい。カイは不機嫌なのでずっと車内に居るし。
「おぉい ゴーレム? お前ものめのめ!」
うわっ、また酒をぶっかけられた。酔っ払いってさいてぇ。
そりゃ自動修復があるから錆びないけどさ。飲めもしない酒を車体に浴びせかけられるのは良い気がしない。カイが車内から出てこないのも良く分かる。
ちょっとした騒がしいご機嫌な集団になりつつ、アプルの町に向っていると、また新しい冒険者の集団が道を塞いでいた。
「ふーん。 結構な稼ぎができてるじゃねぇか」
リーダーの男が手で制すと、酔いが醒めているのか睨み、道を立ちふさがっている連中を見ている。
「なんだてめぇら。 これは俺達が怪我人出してまで得た儲けだぞ」
「なに? 雑魚のお前らが俺達に逆らうのか?」
剣を抜いて挑発するようにこちらに向けている。
横取り、小説とかアニメで見たことはあるけど、実際してくるとかどれだけ治安悪いんだろ。
「俺達も同じ依頼を受けたんだが、面倒でさー。 お前らがメンツを集めてたからちょうどいいだろ」
苦々しい表情でリーダーの男がみているだけに、数の上では優位かもしれないけど、状況からしてあの6人は相当腕が立つのかもしれない。
「お前らのような雑魚が俺達の役にたてんだからありがたいと思えよ。 ほら笑え笑え」
少なくとも結構な怪我人を出してまで成功した依頼なのに、それを無傷で横取りは性格が悪いとかで済まないと思う。
ハッチが開かれ、カイが静かに砲塔の上に立つけど、ものすごく寒気がする。恐る恐るその表情を見ると、怒りに満ち溢れ今にも斬りかかりそう。
「死にたくなければ失せろ下種共」
抑揚の無い冷たい殺気を放つカイの声に身が固まる。すでに剣を抜いた状態、臨戦態勢、また見たくない事がこれから目の前で起きる。
「は? なんだこのガキ」
強烈な風切音がした後、カイは横取りをしようとしていた集団の後ろに立っていた。何も見えなかったけど、たぶん、疾風剣を使ったんだと思う。本の中では見たけど、実際見ても何がなんだかさっぱりわからない。
「死にたくなければ日が暮れるまで動くな」
あの言葉、やっぱり。
ということは剣風で彼らを切り裂いているから、もし動くと全身ばらばらに。見たくないなぁ。
一人が無視して振り返ろうとした途端、全身がばらばら引き裂かれ崩れ落ちていく。
「動かなければ斬った所が再度癒着して死なずにすんだものを」
素人では見えないほどの超高速の剣技と身のこなし、必要であれば非情になれてしまう。それが戦争のみの世界で生き抜いてきた設定のあるカイと、ただ平和な世界で生きてきたリョウの決定的なまでの差だ。
「くそがっ!」
さすがに理解したのか、他の男女5人は微動だにしない。
出来ればそのままに静かにしていてよ。人間が何人もばらばらになって崩れ落ちる様なんて何度も見たくない。
「日が暮れる頃にはすべてがくっつき、明日の朝日が出る頃には戦える。 大人しくしておく事だ」
カイは剣を鞘に仕舞うとこちらに向ってくる。お疲れ様といいたいところだけど、ここで喋るわけにはいかない。
「あっ、あんた強かったんだな」
「すまないが、眠いので休みたい。 あとは任せる」
リーダーの男はカイに駆け寄るけど、相手にするつもりはやはりないみたいで、それなりにあしらうと、再び車内に入りハッチを閉じてしまった。
「あ~……、まぁいい。 よしお前らとっとと町に戻って報告しちまうぞ! 評価を横取りされちゃたまったもんじゃねぇからな!」
横取りを試みた人達は悔しそうにしているけど、今動けばグロ現象になるだけ。
いまは夕暮れだから、大人しくその場から微動だにせず、1時間くらいじっとしていれば助かるからがんばって欲しい。
その後、急ぐ冒険者達とともに町に向う道を進んだ。




